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[#39] 使いやすい道具の手触り感

初出: MacPower 2003年 10月号

CLIEの新作「UX50」を手に入れた。画面がきれい、速度も速い、キーボードも使いやすい。最初にPalmを買ったのはずいぶん前のことだが、それから数えて5代目のPalm OSデバイス。いつもあまり使いこなすことができずに人に譲ってしまってたが、今回のCLIEはとても気に入っている。細かい作りもいいし、付属アプリも使い物になる。長い付き合いになりそうだ。

しかし不満はある。1つはSONYの意図する機能とPalm本来の機能がかみ合っていないということだ。Vaioでも同じことが言えるが、SONYはOSとの融和ということはあまり考えていない。単にそこにSONYワールドを築き上げたいだけのようにみえる。Vaioの場合にはPCの性能も十分に高く、OSを隠し切れるかもしれないが、Palmの場合にはOSの基本的な機能があちこちに見え隠れしてしまう。そのギャップがどうにも辛いという気がする。

もう1つは、Palm環境そのものに対する不満だ。同じPDAということもあり、ついつい昔アップルの出していた元祖PDAのNewtonとの比較をしてしまうのだが、便利に使えるか?という面から見たら、いまのPalmのほうが圧倒的に便利だ[*1]。

しかし、手書きのメモを取る、ということだけを考えると、いまだにNewtonに軍配が上がる。同じ土俵にも上がらないレベルだ。CLIEにも手書きメモのソフトがあるが、まるで話しにならない。出回っている同ジャンルのオンラインソフトもいくつか試してみたが、NewtonのNoteと比較できるレベルのソフトには出会えなかった。

なにがそんなに違うのかと言われると、「書き味」という抽象的な言葉でしか答えられない。メモを取る動作、つまりペンで何かを書くときに、自分が書いたと思うものと画面に残る線の集まりに、何かしらの違いを感じるのだ。たぶん、Newton以外の手書きメモは、どちらかというと書いた線を正確に表示しているだけなのではないかと思う。でも、それはオレが書きたかった線ではないのだ。それに対してNewtonのNoteは、何か補正をかけていると思う。線を書いた直後に一瞬、ふわっと線が表情を変えるのだ。その処理のせいで、正確にはペンでデバイスに入力された座標の固まりという無意味なものが、オレの書きたかった線に変わるのである。言葉ではわかりにくいことは承知しているので、もし周りにNewtonユーザーがいれば[*2]、一度体験してみてほしい。実際に書いてみると、この感触が伝わると思う。

最近、Mac OSにおけるこの手触り感を左右する大事な道具、マウスの動きに関して疑問を抱いている。Mac OSは、初期の頃からマウスの動きにはものすごく気を使っており、アクセラレーションという動きを採用している。素早く動かせば大きく、ゆっくり動かすと細かくポインターを動かせる。この画期的な機能の目に見えない成果には絶大なものがあり、Macを使いやすい道具として評価する大事なポイントになっていたものと思われる。

しかし、どうもMac OS Xになって この機能があまりうまく動いてないのではないか?と思うようになったのだ。というのも、どうも、マウスクリックの場所のずれが増えたように感じるのだ。

例えば、スクロールバーを動かそうとしたら右に行きすぎてしまい、後ろのウィンドウを前に出してしまった。Finderでフォルダーをドラッグ中に、目的の場所でないところでボタンを放してしまいファイルをばらまいてしまった。昔はペイントソフトを使えば、マウスで絵が描けていたのに、最近どうも下手になった。などなど。

最初は、PowerBookを使っているのでトラックパッドのせいかな?とか、画面がでかくなり解像度が高くなったからか?なんて思っていたんだが、どうもそんな単純な理由ではないんではと思い始めている。マウスをつないで操作することもあるのだが、同じように押し間違えてしまう。つまりトラックバッドのせいではない。また、解像度が上がったとは言っても、マウスの動きだって同じ解像度の世界を動いているんだから、それだけの理由ではない。

たぶん、この高解像度ディスプレーの時代には、さらなる動きの進化が必要なのではないのだろうか?アクセラレーションのチューニングを進めていけば、解決するような単純なことではないように思うのだ。おそらくもう少し気の利いたアクティブなアシストが必要かもしれない。

1つ考えられるのはスナップ機能。オブジェクトとしてポイントできるものの近くでは、マウスの動きが多少変わるというものだ。画面上のパーツが状況に応じて引力や斥力を持つわけだ。どんどんHIオブジェクト化が進んでいるので、自分がどういう動作を受け付けるのかは、ある程度インテリジェントに処理できるようになってきている。

おいらの上でファイルをドロップしても無駄だぜ、とボタンが思ったら、止まりかけているマウスポインターをもう少し流してやるとか、デフォルトボタンの上では逆に止まりやすくなるとか。

もちろん、アップルのやることだから、これをイヤらしくなく処理してもらいたい。ユーザーが意識してしまうような不自然な動きは論外だ。我々が普段アクセラレーション機能に気づかないぐらい自然な機能として実装してもらいたい。アップルならできると思うのだが?

この機能が実現すれば画期的だと思うが、しかし一方で、これをスティーブジョブズがデモしている姿がどうしても想像できない。スゲーぞって自慢出来る派手さがない。お好みのフレーズ、「ブーン」が言えるポイントがない。そうなると最近のアップルの現状からいえば、実現はほぼアリエナイだろう。派手なデモができるだけが機能ではないんだがなぁ。

バスケ 有限会社シエスタウェア(http://saryo.org/basuke/)
ようやく忙しい仕事も一段落、阪神タイガースの優勝へのマジックも1ケタ、もう秒読み段階、言うことなしです。9月はのんびりやりたいことをして過ごすことにしましょうか。

[*1] Palmのほうが圧倒的に便利だ - そもそも、Palmは最初からNewtonの不必要なものを削り、PDAとして最小限必要な機能に絞って作られたものだから、便利さの比較で勝てるはずがないのだ。
[2] Newtonユーザーがいれば - いればね(笑)。いなかったらメールください。人数が集まればNewton を見せる会をしましょう(笑)。

編集・矢口和

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