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12シトライアル第四章       勝負のX-DAYpart39

第百二十三話 決勝で逢おう
 「ミックスダブルス、準決勝第一試合。東帆とうはん高校、きしくん、織田おださん…」
由香里ゆかり先輩!とおる先輩!遂にですね!」
やっと俺と由香里の準決勝のコールがかかった。
「この試合勝てば決勝!且つ県大会決定ですもんね!センパイたち、負けちゃダメですよ!」
「わかってる。ここで負ける気はさらさらない。もちろん優勝するつもりだし…」
「負けるとしても、決勝で莉桜りお桜森さくらもり先輩のペアに対する負け以外は許せないかな!」
間違いない。まあ、先輩たちに負けるつもりもさらさらないが、もし負けるとしてもあの二人以外には考えられない。

「女子ダブルス、5位決定トーナメント一回戦第一試合。東帆高校、金本かねもとさん、下北しもきたさん…」
「あれ?お前らも呼ばれてんじゃん。」
「まあ、運良く準々決勝まで勝ち進めたので。」
「そこで負けて、県大会最後の一枠を賭けた4組のトーナメントに入ったんです。」
コイツら、あんなに仲悪かった時期があったのに、今では抜群のコンビネーションでそこまで勝ち進んでいたとは。ホントに子どもの成長を見守る親の気持ちが齢16にしてわかった気がする。
「とーるー?なーに悟ってるのー?」
「すまん、後輩の成長に感動して…」
「いや、子どもの成長を見守る親かって…」
ぐうの音も出ません。

 閑話休題。
「まあ、そう言うことですし、お互い県大会行きましょう!」
「センパイたちもきっと大丈夫ですし、あたしたちも勝ちます!」
「その言葉が聞けてよかった。お互い頑張ろうな!絶対県大会行くぞ!」
「「「おーー!!!」」」
と、士気を高めていたところ、
「徹!」
背後から部長の桜森先輩の登場である。
「ここまで来ちゃったな。ここまで来たからには…絶対決勝で逢おうな!」
「…はい!言われずともです!あと、個人的には絶対シングルスの借りを返します!」
「楽しみだよ。」
そんな俺たちを尻目に、
「莉桜先輩、勝手に負けないでくださいね。あたしたちも絶対上行きますから!」
「そうだね、由香里ちゃんと徹くん。あなたたち二人と闘えるの、一番楽しみだから!」
女子も女子で盛り上がっていた。

「ミックスダブルス、準決勝第二試合、東葉高校、桜森くん、春田はるたさん…」
「おっと、俺たちも呼ばれたみたいだな。じゃあ、また後でな!」
「お互い勝とうね!」
「「はい!!」」
こうして俺たちはそれぞれ準決勝のコートへと向かった。必ずここは勝つ!

 そしてその宣言通り、試合は俺たちの流れで進んで行った。俺たちの得意とする攻撃パターンもバシバシと決まっている。由香里がレシーブを浮かせて相手の攻撃を受けそうな時は俺が後陣のカウンターで持ち直し、俺が予想外のコースへの打球に振り回されて体制が崩れた時は由香里が次で確実に決めてくれるなど、窮地でのカバーも完璧で、俺たちは勢いそのまま2セットを連取し、第3ゲームも10-5でマッチポイントとした。そしてサーブは由香里。
「とーる、最後どれがいいかな…」
「そうだな…もうここまで来たらお前の好きなやつで決めてくれ。万が一返されても俺がどうにかする。」
「そりゃ頼もしいや!じゃあ…」
打ち合わせを済ませ、由香里がサーブの構えに入る。しかし相手もここまで勝ち進んでいるだけのことはある。ここまで追い詰めているのに焦る様子や諦めた姿勢を一切見せない。大いに称賛したい。

由香里が投げ上げたボールが落ちてきて、それをラケットのフォア面で擦った。そして由香里が放ったサーブは相手のフォア面のミドルギリギリに入った。非常にいいサーブだ。そして相手はバックドライブでボールを擦り上げた。ボールはネットを越えた。しかし由香里のサーブの回転の影響でボールは俺たちのバック側へと飛んできた。それを予測してバックに回り込んでいた俺はカウンターを思い切り振り抜いた…のだが、相手はそれを拾ってきた。マジかよ…そして由香里の懐に入り込むような軌道でボールが返ってくる。これは相手が上手すぎる。最後まで諦めない気持ちが身を結んだのだろう。
(…!何のこれしき…!)
由香里ももう返せないのではないかと俺には思われたのだが、刹那、由香里は体制を大きく左下に傾けながらフォア面でボールをインパクトした。そしてそのボールは相手のコートにバウンドした後、相手二人の間を悠々とすり抜け、やがて地面に落ちた。そして由香里は無理な体制を維持しきれなかったのかそのまま倒れ込みそうになったので、俺は無意識的にその腕を掴んで支えてやった。俺は一瞬唖然とした。が、
「「ショーーー!!」」
由香里と共に思う存分叫んでしまった。由香里、こんなの隠し持ってたのか…

 勝利報告を済ませて観覧席に戻ると、
「由香里!徹くん!決勝おめでとう!!」
応援に来ていた真凜まりんを筆頭にみんなが祝福をくれた。
「とーくん、流石。あと一試合ふぁいと…!」
「由香里ちゃんの最後の一撃何あれ?!」
「いやー、なんか直感的にやってみたら上手くいっちゃいまして…」
「あれ隣で見てて訳わかんなかったぞ…」
ホントにあれはありえないくらいの一撃だったよな…
「でも徹くんは人のこと言えないんじゃない?」
真凜に問われた。
「と言いますと?」
「だって、あんな一か八かのプレーやるのなんて徹くんくらいじゃない?だから多分、由香里も直感的っていうか、いつも徹くんがああいうプレーやってるの見てたからやったんじゃないかな?」
「あ!それでか!たしかにあたし、とーるのあんなプレー散々見てきた気がするけど、意外と見様見真似でできるもんだね!」
「いや、普通はできないと思うぞ、特にあんな勝負がかかった場面じゃ…」
由香里のメンタル、恐るべし…

「あれ?この結果で、お兄も由香里先輩も全種目で県大会決定なんじゃ…?」
歩実あゆみが指摘してきた。言われるとたしかに、そういえばそうだな。
「岸さんも織田さんも強すぎませんか?」
「まあ、莉桜ちゃんと桜森くんに聞いたことだけど、二人とも二年生の中だと圧倒的なエース格なんだものね…その二人が組めば間違いないって感じがするのは素人目にもよくわかるわ。」
なんか褒められすぎて困るな…恐れ入ります。

 応援の面々と色々と喋っていると、
「ただいま帰りました!」
下北が帰還を知らせてきた。結果はどうだったのだろうか。
「ほんとに申し訳ないです!あたしたち勝てませんでした!!心愛ここあが結構チャンス作ってくれたんですけど、ものにできなくて…」
「しょうがないよ、県大会に直結する試合だし、緊張しない方が難しいもん。私も緊張してたしれいも気にしないでよ…」
ダメだったか…にしても、ホントにコイツら仲よくなったな。人ってこんなに変われるんだな…

「でも、大丈夫。玲ちゃんも心愛ちゃんもまだ一年生なわけだし、逆に一年生でそこまでいけたのすごすぎるからね?」
「由香里の言う通り。すごい成果を上げたんだからそこは誇っていい。それに、またチャンスはある。たくさんある。だから二人とも気にするなよ。」
これが俺たちにできる最大限の励ましだ。
「じゃあ今回は、先輩たちの決勝の応援に専念しますね!」
「普通にセンパイたちの同門対決楽しみにしてましたから!」
そうだな。あとは決勝で先輩たちを倒すだけ…って、まだ試合決まってないのか?

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