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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part4

第百三十一話 激鈍男子と存在の意義
 2日明けて、今日は水曜日。8月に入った。卓球の県大会は次の週の土日。11日と12日となっている。で、その翌週は田辺たなべさんと夏祭り、か。周りに知り合いがいて茶化されて田辺さんが羞恥心から赤面するということにならないようにしなくちゃな。あの時の佐々木ささきみたいにいつ誰が揶揄ってくるか知れたものじゃないから。

 prrrrrrr prrrrrrr prrrrrrr prr…
不意に俺の携帯が鳴った。液晶には俺の親友である河本こうもとの名があった。通話ボタンを押した。
「もしもし、こうも…」
きしくん!東帆とうはん高校のブログ見たよ!大会優勝おめでとう!!』
どうやら校長が各部活動の大会成績を東帆のブログに上げていたらしい。そしてそれを見て俺の大会の結果を知って祝いの電話をかけたようだ。いい友人をもったものだ。

「ありがとう。」
『いえいえ!でもごめんね、僕も大会が被ってて応援行けなくて…』
「同日だったのか!そしたらこちらこそだから気にすんなって!そっちはどうだった?」
『それがね…シングルスだけは県大会に進めたよ!』
ちなみに河本は硬式テニス部である。
「おぉ!すげぇじゃん!おめでとう!」
『祝うために電話かけたつもりが逆に祝われちゃったな。まあ、ありがとう!』
やはり夏休み中は友人と話す機会は少ないけれど、電話ってその点便利だよな。ありがとう、文明の利器!

「そういえば、そっちには誰か応援来てたか?」
『うん!上原うえはらくんと佐々木くんは来てくれてたよ!』
「なるほど、それでアイツらとも2日とも会えなかったのか。こっちにもちょっとは観に来てほしかったな…」
『まあ岸くんなら大丈夫だって信じてたんじゃないかな。』
そう思ってくれていたら本望である。
「ちなみに河本は県大会いつだ?」
『僕は、えーっと…10日の金曜日!』
「あ、マジで?!俺その次の2日間だから、そっちの大会観に行っていいか?大会前日だから部活もオフだし!」
『いいの?嬉しいよ!むしろ大歓迎!逆に僕も観に行っていい?」
「当たり前だろ!なんなら上原とか佐々木も連れて来いよ。」
『わかった!誘ってみるよ。』
「助かる。じゃあ、俺そろそろ部活行くから。」
『うん、それじゃあまた来週!』
「おう!」
ということで、また一つこの夏の予定ができた。

 部活のために学校に向かうその道中。
「あら、岸くんじゃない。奇遇ね。」
そう話しかけてきたのは夏休み中にも関わらず制服姿の大城おおしろ先輩だった。
「あ、お疲れ様です、大城先輩。」
「お疲れ様!岸くんは…聞くまでもないわね、これから部活?」
「はい!県大会も近いので。あっ、そうだ、この前は応援ありがとうございました!」
「でも私、基本的には莉桜りおちゃんと桜森さくらもりくんの応援してたのよ?」
「それでもですよ。俺としては地区大会の最後に先輩たちに大声援の中で楽しくプレーしてほしかったので、大城先輩みたいに先輩たちの応援に振り切ってくれる人がいてよかったです。それに、ミックスに関してはそうですけど、シングルスは応援してくれてたじゃないですか。」
「…まあ、それもそうね。せっかくここで会ったのだし、学校まで一緒に行きましょ?」
「えっ、あ、はい。」
誰かからの視線が突き刺さりませんように…!

 「そういえば先輩はどうして今日学校に?」
「私は補習。補習って強制じゃないけど、受けておくに越したことはないじゃない?」
「まあ、もう受験生ですもんね…」
「そうなのよー、本当に憂鬱ったらありゃしないのよ…」
やはり受験生の気持ちは下がりがちなのだろうか。その辺はまだわからないし、なんて言葉をかけたらいいのやら。
「まあ私の受験はどうだってよくて!」
「よくはないですよ?」
「今はいいの!」
えぇ…

「岸くん、県大会近いって言ってたけど何日?」
「11日と12日の土日です。」
「…そっか。じゃあ、申し訳ないわ。模試と被ってて今回は行けそうにないわね…」
「そんな、気にしないでくださいよ!気持ちだけで十分ですし、きっと桜森先輩も春田はるた先輩も…あれ?先輩たちはどうするんだろう。」
「それは大丈夫!自分の大会とかどうしてもずらせない用がある場合は後日受験が認められてるからね。」
「よかったー…」
流石に最後の県大会が模試のせいで出られないとかだったら洒落にならないしな。

「岸くん自身の今回の目標は?」
「俺のですか?うーん…団体戦はなんとか関東大会に残りたいですね。シングルスは3回戦までは行きたいかな。由香里ゆかりとのミックスは…ベスト4目指してみます!」
「かなり大きく出る…と思ったけど意外と現実派?」
「…まあ、そうですね。でもミックスは大きく出たつもりですよ?地区大会も最後まで先輩たち相手に苦戦しましたし、地区で圧倒的ってわけじゃなかったからベスト4はかなり厳しくはなりそうです。でも、俺由香里のこと信じてるので!」
(へぇー、じゃあ岸くんは…)

「じゃあちなみに岸くんにとって由香里ちゃんはどんな存在?」
…どういう意図の質問だろうか。
「そうですね…まあ言うなら相棒っていうのが一番しっくりきますかね…」
(絶対色恋沙汰何もわかってないっ!!)
「じゃあ…桃子とうこちゃんは?」
もう卓球とか関係ないじゃん!
「お互いコミュニケーション苦手同士気の合う友達ってところですかね。」
真凜まりんは?」
「駆け狂い且つ賭け狂いな気のいい同僚兼友達ですかね。」
早苗さなえちゃんは?」
「本をこよなく愛する照れ屋な委員会友達って感じです。」
心愛ここあちゃんとかれいちゃんは?」
「まあ、仲のいい後輩二人ですかね。」
(だめだ…特にわかりやすい面々を挙げたところで本当に何も気付いてないじゃない…どうしようもないわね、この超絶怒濤の激鈍男子は!)

果たして何の意図があってこんなことを聞いてきているのか、先輩の意図が全く読めない。
「先輩、さっきから何を聞きたいんです?」
流石に怪訝に思って聞いてみた。
「えっ、いやー、別に意図は特になくてね。ただ岸くんの応援、やたらと女子が多かったから、どんな接点があるんだろうかと気になってね。」
「ああ、そういう…」
たしかに考えてみれば男子の友人である河本、上原、佐々木、それから哲哉てつやは今回来れなかったけど、やたら関わりのある女子は多かった、というかなんならみんなどちらか片方の日程には来てたよな。そう考えると、側から見たら不思議な光景だよな。俺の応援に来る同性の友人ゼロでみんな女子ばっかりって。

「まあ、でも俺は割とコミュニケーション苦手な陰キャなんで、こんなに友達に恵まれるとは思ってなかったですけどね。」
(みんな友達…っていったところかしら。となると、みんな岸くんを堕とすのは難しそうね…あれ?今私、少し安心した?…気のせいか。)
なんかさっきから大城先輩の表情がコロコロ変わっているが、一体何を考えているんだろうか。ともあれ、そんなこんなで会話しながら歩いていたが、やがて学校に着いた。ホントに夏は通学路が一番の苦痛だが、会話に集中してたおかげか暑さもさほど気にならなかった。
「それじゃあ先輩、補習頑張ってくださいね。」
「ええ、岸くんも目標に向けて部活頑張りなさいね?」
「はい!」
なんとか今日は誰にも鋭く殺気のこもった視線を向けられずに済みました…助かったー!

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