見出し画像

宇宙よりも遠い場所 #7 の空気の質感

宇宙よりも遠い場所
それは決して氷で閉ざされた牢屋じゃない
あらゆる可能性の詰まった
まだ開かれていない世界で一番の宝箱

一応ネタバレ注意。警告したぞ。

前回こんな日記を書いたが相変わらず7話も非常に面白かった。

『宇宙よりも遠い場所』は毎話毎話演出が良いという話も以前したし、Twitterでもちょいちょいその辺についてはしゃいでいた。俺はアニメの演出論についてはズブの素人だが、それでも圧倒される程にこのアニメは演出が強い。

やはり5話の画作りなんかは本当に丁寧で、取られる構図の一つ一つにグッときたのだが、今回は最新話の7話の描き出したものの質感について触れていきたい。
この回は、女子高生4人の南極への道程、彼女らの紡ぎだす青春を高い解像度で描いてきたこれまでとは一つ上のレイヤーで、人生賭けて南極を目指さなければならない“大人”達の背負うものを具に描き出している。これがまた超すごかったんだよなぁ。

7. STAGE7 宇宙を見る船

オーストラリア、フリーマントル。南極目指して色々やってきた女子高生4人が、いよいよ観測船に乗り込み南極へ向けて出航する!のだが、なんか見た感じ大人達の間の空気感がおかしいぞ〜っていう感じのお話。
で、この大人達の中に垂れ込める空気の描写の質感がめちゃくちゃエグい。

まずアバンから。

初の民間観測隊、世間からの注目も熱いようで、取材陣が詰めかける。応答する吟はどこかぎこちない。

貴子とかなえの変顔で緊張の解れた吟。この三人の親しい間柄が短い描写で描かれる。

そしてシームレスにカメラはその3年後、現在へ。先と全く同じアングルで観測船が映るが、取材陣も居なければ荷下ろしのトラックも一台のみ。
現在の観測隊をとりまく環境の落差がアバンからいきなり画だけでサラッと描かれ、つよい。

リフレイン。貴子は居ない。

このアニメは毎回アバンが良くてさぁ……毎度つかみはOKって感じなんだけど、今回は特に良い…………

そんなこんなでAパート。

「キャッチーでウィットでセンセーショナルなレポートで皆様を南極までご案内」とのこと。安定のポンコツ。この段階だと、まぁ、いつものって感じのやつですね。かわいいですね。

割り当てられた部屋にて。「この銀のとこは踏まないように」だとか、揺れて開いちゃうと駄目だから引き出しにロックがかかってる、だとかこういうちょっとした「へぇ〜」ネタはこの手のアニメには欠かせないと思ってる。

船内探索。この辺から高校生4人が「何かおかしいぞ」と気付き始める。漏れ聞こえてくる大人達の会話は一様に「人が足りてない」「設備に不安がある」などなどなど。
特に寄せ書きが映るカットは本当に圧がすごい。ここは本当に雄弁な画で、今の観測隊を取り巻く現状が一発で察せられる。こんな絶妙にスカスカの寄せ書き見たら高校生だろうが何かどことなくヤバいって思うよそりゃ。説得力が宿る。

貴子の娘である報瀬にどこか思うところあるような吟。彼女らに割り当てられた部屋は貴子が使っていた部屋である事が告げられる。

貴子の痕跡を探す。が見つかるはずもなく、そうこうしていると部屋の外から声が。

やはり人が足りていないようで。

フリーマントルでの買い出しに際しても「こういうのってもっとでかいコンテナでドーンって買うもんだと思ってたなぁ」→「先週来た新型船はコンテナ一杯積んで行ったよ」と、もうことごとく。何もかもが“足りていない”事が執拗なまでに描かれる。

スマホ。調べて出てくる”世間の声“も一様に冷たい。こういうちょっとしたところでスマホで調べてなんかするっていうシーンはこのアニメでも初めてじゃないんだけど、スマホの使い方が上手いアニメってやっぱりあるよね……

Q:「本当に南極に行けるんですか?」
A:「色々と厳しいが行かないということはありえない」

確かに民間故に削ったものもある〜というくだりでなんかスペースの空いた格納庫を流すのが分かりやすくて良い。本当にヘリも一機しかないのだろう。

それでも、この船の人間は、皆行くと決めたのだ。何やら大人達は皆胸の奥にある「目標」があるっぽい。その目標とは何なのか、がBパートの軸でもある。決意を感じさせる吟の表情。ここの写真も、実に生きた人間がいるといった感じで良いよね……

「どうして行くんですか」
「強いて言えば……今回は、そらを見る為かな」
ここで雲一つない青空を映すのがとても上手い。まぁミスリード、とまではいかないが、じゃあ空を見るとは一体どういう事なのかっていう。
このままBパート。空を見るとは一体。大人達が密かに胸に秘めている何かを探ろうとする少女達。

ニンジャ。

日本に置いてきた彼氏と電話口で何らかの痴話喧嘩をする女性隊員。一応コミカルなシーンではあるが、描かれているのは人生賭けて、それまでの生活を国に残して船に乗った観測隊員という構図である。後がない者もいるだろう。

大人といえど、というか大人だからこそ呑みの席では愚痴が出る。文句も出る。やはり、今回の計画に無理があると思う隊員もいるらしい。が、それでも南極に行き、やらなくてはいけない何かがあるというのは共通のよう。ところで、隊員の「半袖はあと二日か〜」っていう、こういうちょっとした会話に宿る人間が本当に良いアニメだと思いませんか?人の息遣いなんですよ。

消灯後、何かに気付く四人。ベッドの裏には、お茶目な貴子の残したものであろうか、宇宙があった。

「宇宙よりも遠い場所」。このアニメのタイトルであるフレーズは、知っての通り貴子が記した本のタイトルであった。その本を再び見返す報瀬。「そらよりもとおいばしょ」。”そらを見に行く“の意味とは。示唆が綺麗だぞ。

回想。吟の口から語られる三年前。国から払い下げられたおさがりの基地と船で、初の民間観測隊として成功を目指していた大人達。彼らの長期的な目標は、天文台の建設であった。それは彼らの、何より貴子の悲願だった。

が、功を焦ったせいなのか、既に知るところであるが貴子は南極で行方不明に。帰還した観測隊を迎える声は冷たく、イメージの低下を恐れたスポンサーも居なくなった。大人達を取り巻く現実は厳しかった。
故にこそ、残された隊員達は皆、この3年間ずっと拘ってきたのだ。貴子の願いであった天文台の建設を、何十年とかかろうが、きっと成し遂げる。大人達の背負ったものはここにあったのだ、っていう。

実際本当に何もかも厳しいしあらゆるものが足りていない。それでも大人達は南極に行く。行かなければならない。この船はそんな大人ばかりが大勢乗った船なのだ。ってところで映る、とてつもなくデカいペンギン饅頭号。
ここな〜〜!!本当にな!!!現実はどうしようもなく辛いけども、それに折り合いつけてやっていくぞっていう、プロの大人の姿が、ただただ渋い。良い。良い。

貴子と吟の原点。エモい。この場所はキマリと報瀬の原点でもあり、ここで過去と現在の、南極を目指した女子高生達が重ね合わされる。

出発前の出陣式。やはり大人達は背負っているものが違った。自分達と違って人生賭けて南極目指してる人間が目の前に大勢いるというシーン。重みだ。

感傷。大人達の心に残る三年前の出来事。

貴子の娘である報瀬はそんな大人達の姿を見て何を思う。いや俺もう泣きそうなんだが。

大人達の前で、自己紹介という形で、改めて視聴者にも女子高生四人が南極に行く理由を表明する。大人達の南極を目指す理由をやった後で改めてやることに意味があるし、これは彼女達の物語なのだ。ここから挿入歌が流れ始める。

……いや、さぁ、別にAパート冒頭を参照せずとも、報瀬は人前だと特に駄目なタイプの女であることはこれまでずっとやってきたわけでさぁ…………
当初、報瀬が南極を目指した動機、南極へ行く理由は「行方不明になった母親を探す」ことであった。その為に、ここまで来たのだ。それが、前回6話で「何としてでも南極へ行く」から「この“四人で”南極へ行く」へとモチベーションが遷移した事が描写され。そしてとうとう、ここにきて、報瀬が語った”理由“は、

「キャッチーでウィットでセンセーショナルなリポートをしに、この船に乗り込みました!」

「母が言ってた南極の宝箱を、この手で開けたいと思っています!」

「みなさん、一緒に、南極に行きましょう!」

♪でっかい〜ゆ〜めを〜かなえた〜くて〜
いやここで挿入歌のサビ来るの無理だよ。3回通しで観たけどここで3回泣いたんだが。

大人達の間にどことなく垂れ込めてた閉塞感。前向きながら、同時に、微妙に暗い雰囲気。アバンからこの20分ずっと通しで、執拗に、高い解像度で描いてきた空気だ。質感だ。それが、ここにきて、なんか感傷的になってた大人達の空気を、吹き飛ばすような。小渕沢貴子の娘である小渕沢報瀬が、少女が、大人達の間の空気を。このアニメずーーっと挿入歌の使い方が見事と言う他ないんだが、そりゃ王道っていうか普通に基本ではあるけどさぁ、曲の一番盛り上がるところを開放のカタルシスと合わせてやられたらグッと来ないわけがないじゃん。
そして吟が、ここにきて初めて、3年前の回想以来初めて笑う。

言うまでもないことだが、リフレインなわけでさぁ。周りの大人達がみんな、「やはり貴子の娘だ」と言わんばかりの笑顔なのが、本当に、本当に。

この顔よ。俺はもう駄目だ。

最後はあのアバンのアングルから今のペンギン饅頭号の全景、そのままカメラを「宇宙」に向けてパンして幕を下ろすのが本当に、分かっている。分かりまくっている。ED。

さ、最高〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!

こんな面白いアニメあるか????????
まだ2月も半ばだが2018年ベストアニメーション完全に決定した。早計では。
実際全13話らしいのでまだ折り返しではあるのだが、だからこそ大事な大事な折り返し地点で、こういう極めて質の高い1話でグッと締めてくれたのは本当にすごいと思う。
大人達の背負うもの、現実のままならなさ、どうしようもないところから生じる空気を凄まじい質感でもって描き出し、その中でプロの大人達の背中を描写した上で、最終的に未熟な少女達の青春のエネルギーが物語を駆動させていく。大人を描く事で、少女達の青春に厚みが出る。素晴らしいものを見た、本当に感動した。

前回、というか9日前「このアニメ全部面白いし面白いしか言えないのでは」っていう話をした直後に、今度は完全に開き直って逐次キャプ画貼りながら「全部」面白いって言っちゃうやつをやってしまったわけだが……
そのせいで結局7話をOPからEDまでパーフェクトにネタバレする、なんか全部あらすじ書いちゃってる感じの読書感想文みたいな感じになってしまったが、こうでもしない限り俺は『宇宙よりも遠い場所』を語る術がなかったので御容赦頂きたい。コンテとか演出のひとのおなまえを出して深く語れるともっといいんだけど、その辺全然観ないタイプでして……浅い。
こんな浅いオタクの心すら揺さぶるんだからアニメってすげーよな〜〜〜〜〜〜!
まぁ実際この先『宇宙よりも遠い場所』がどう転ぶかはわからないが、今後の展開にも期待が持てるというやつではないだろうか。
『宇宙よりも遠い場所』は最高、全員観ろ。まぁ、まさかここまで読んどいてまだ観てない人間はいないと思うが……🤔
アマゾンプライムビデオで全話配信中、今ならGYAOでも全話無料配信中だぞ。以上。
#宇宙よりも遠い場所 #アニメ感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?