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コロラド博士のJack in The Box No.004 2023/07/24(GMT) コルジ・ローゼンタール・ボックス基礎的技術解説・フィルタ編

1. アイデアいっぱいコルジ・ローゼンタール・ボックス

これまでに3回にわたり、コルジ・ローゼンタール・ボックスの作り方について日本版、合衆国版、モバイル版について紹介してきました。

Amazon.co.jpには、早速影響が表れており、ボックスファンのお勧め買い合わせにHEPAフィルターや、自動車用のエアコンフィルターが現われています。

多くの方が、筆者の想像しなかった組み合わせで空気清浄機を作っていることが可視化されており、とても楽しんでいます。

コルジ・ローゼンタール・ボックスは、DIY(Do It Yourself)が基本であり、個々人でさまざまな工夫が凝らせます。そのため10人が作れば10種類の空気清浄機が出来るといっても過言ではありません。

但し、基本的な技術要素を満たさなければ求める性能を発揮できず、最悪、そのことに気がつかずに使い続けるということがあり得ます。

回り道をすることなく必要なものを作る為に基礎的な技術要素の解説は必要だなと筆者は思い立ち、この記事を執筆します。

2. なぜ高性能大流量空気清浄機が必要となるのか

空気清浄機の主要部品は、フィルタとファンです。このうちフィルタは消耗品で定期的に交換が必要であるだけでなく汚染物を除去する為の濾過を担います。

COVID-19は、経空感染(Airborne transmission)を最大の感染経路とする感染症ですが、この感染媒体は、エアロゾル(Aerosol)です。

エアロゾル*とは、理工学用語でありとても幅広い意味を持ちますが、COVID-19の場合、数十ミクロン以上の主として飛沫とサブミクロン(数百nm)から数ミクロンの主として飛沫核の双方によって感染が生じています。

*エアロゾルについての解説は、たいへんに少なく特に近年、情報汚染が激しい。科学的に妥当かつ平易な解説は、合衆国CACIE (National Science Foundation Center for Chemical Innovation)のWeb Siteに詳しい。英語であるが、自動翻訳で十分に理解可能である。

Introduction to Aerosols – CAICE


人体から発した数十ミクロンから数百ミクロン級の粒子は、多くが3m程度の社会的距離を維持していればその間に重力落下しますので社会的距離とアクリル板などの衝立が有効です。具体例としては、2020年合衆国大統領選挙候補者TV討論会*で、この時点で既にスプレッダとなっていたトランプ氏と、討論相手であるバイデン氏の距離は15 feet(4.5m)で衝立がありませんでしたが、バイデン氏は無事でした。

President Trump has COVID-19: A timeline of events

USA TODAY Published 8:18 AM JST Oct. 3, 2020 Updated 12:19 AM JST Jan. 29, 2021

このとき会場には、事前に二回のPCR/NAAT検査陰性証明を出すこと、全員マスク着用という取り決めが為されていましたがトランプ陣営は、これらを無視しました。バイデン陣営は全員マスク着用でバイデン氏は、登壇後マスクを外しています。

これはWT(野生株)時代のSARS-CoV-2が微小粒径のエアロゾルでなく数十ミクロンの飛沫を中心として主に伝搬していた為と考えられ、1時間にわたる舌戦において社会的距離がバイデン氏を守った実例といえます。

WT時代には、微小エアロゾル対策よりは、クラシックな飛沫対策を基本としており、マスク着用(受動的エアロゾル対策)、換気(能動的エアロゾル対策)、社会的距離、衝立、消毒でよく感染防止できていました。日本を代表とする東部アジアでは、不織布マスクの着用がパンデミック初期から活発に行われていた為、効果的なエアロゾル対策が行われていたと考えられます。

しかし2021年第4四半期に出現したο株は、感染者から大量のウイルスを排出する物量作戦をとるようになったため、サブミクロン級から数ミクロンの微小エアロゾルによる伝搬も強まりました。微小エアロゾルは、感染者から排出されたあとに重力落下せずに空中を浮遊する為、長時間滞空します*。蚊取り線香の煙を考えればよいです。またこのような微小エアロゾルは、あらゆる機会に感染者から排出されます。


*そもそもエアロゾルとは、気体でない、個体や液体、その混合物が空気中を長時間浮遊するものを指す


結果として中途半端な換気では追いつかず、密着性の低いマスク着用では隙間からウイルスが出入りすることで感染防止効果が大きく下がってしまいました。この為、最近のマスクの感染抑止効果について評価した論文では、集団で20%程度の感染回避有効性と評価され、マスクの効果が大きく減じたことがわかっています。

マスクは、N95やKF94では、顔に良く密着させた正しい着用をすれば依然として優れた感染回避有効性を示しますが、ユーザーシールチェックをすることによって正しくマスクを着用している人は、そう多くありません。

そのために受動的エアロゾル対策との対としての能動的エアロゾル対策として重要になるのが高性能大流量空気清浄機=コルジ・ローゼンタール・ボックスとなります。


3. フィルタに求められる性能

コルジ・ローゼンタール・ボックスに限らず、空気清浄機の機能は、空気中のエアロゾルを除去し、除去後の奇麗な空気を供給することにあります。古い空気清浄機では、花粉対策までで30μm程度の粒子が対象となりますから最近問題となっているPM10(10μm以下のエアロゾル)やPM2.5(2.5μm以下のエアロゾル)*には対応できません。更に近年の知見では、スギ花粉症には、花粉が破裂して生じるサブミクロン級のユービッシュ小体が関与しており**、PM2.5対応空気清浄機でも不十分となる可能性があります。


*より正確には、PM2.5は捕集効率が50%となる空気力学径が2.5μmとなる粒子のことであり、PM10は捕集効率が50%となる空気力学径が10μmとなる粒子のことである。

"SPM,PM2.5,PM10,…,さまざまな粒子状物質 (2001年度 20巻5号)|国環研ニュース 20巻|国立環境研究所" 新田 裕史

**"スギ花粉由来エアロゾルって、どうなっているの?

埼玉大学・工学部・環境共生学科 王 青躍"


Introduction to Aerosols - CAICE

COVID-19への能動的エアロゾル対策に求められる空気清浄機の機能は、サブミクロン級から数十ミクロンのエアロゾルをすべて、可能な限り迅速に除去することです。この為には二つの方法が考えられます。

a) HEPAに劣るフィルタにより25〜50%程度のサブミクロン級の粒子を除去し、大流量によって1時間あたり10〜20回程度の濾過を繰り返し、サブミクロン級の粒子も含めて99.9%以上を除去する

合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックス


b) HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)により一度の濾過で99.97%以上、300μm以上の粒子を除去する

筆者が製作した日本版コルジ・ローゼンタール・ボックス

うじーさんが製作したモバイル版コルジ・ローゼンタール・シリンダ

また、1.と2.の双方の性質を持つのが日本のクレアウィンフィルター で、日本の事業所で極めてたかい普及率を持つパッケージエアコンを大流量と冷却凝集能力の源とすることでフィルタの性能*を押し上げています。更にパッケージエアコンには、換気能力を持つものもあり、換気と濾過という二つの能動的エアロゾル対策を組み合わせることとなり、日本のオフィス環境にたいへんに良く適合した素晴らしい製品といえます。

*もともとHEPAと設計が異なりN95などの不織布マスクに近い。HEPAと一長一短がある一方で、MERV13〜16に比して遥かに高い捕集能力を持つ


3-a合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックス

合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックスは、学校を安全にするために設計されています。合衆国の学校では教室の大きさが日本より広く、だいたい250〜300立米とすると、流量1500立米弱/時であるコルジ・ローゼンタール・ボックス2基で1時間あたり10回から15回程度の空気の濾過循環が出来ます。

合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックスに使われているMERV13フィルタは、PM2.5に対して60%程度、PM10に対して85%程度の捕集能力がありますので、静的条件(エアロゾルが追加されない条件)では、1時間当たりPM2.5を99.9%以上除去し、PM10は、ほぼ完全に除去します*。

*但し、サブミクロン級エアロゾルは99.9%程度の除去である


Minimum Efficiency Reporting Value (MERV) Parameters

大流量によってエアロゾルの除去率を高めている合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックスは、当然のことながらフィルタへの負担が大きくなり、寿命が短くなります。ジム・ローゼンタールの報告によれば、コルジ・ローゼンタールボックスのフィルタ寿命は、6ヶ月程度(学校などで一日6〜8時間の運転)と推定されています。
実際、筆者の作った5面濾過型1インチ厚コルジ・ローゼンタール・ボックスでは、2ヶ月連続運転でフィルタがかなり変色しており、学校などの負荷の高い運転条件では、1セメスター=6ヶ月程度がフィルタの寿命と考えられます。MERV13フィルタは、2インチ厚で4枚50ドル程度ですから、二基設置で一教室200ドルの年間消耗品費となります。量産普及品ですので、大量購入ですと更に安くなります。


2ヶ月連続運転後のフィルターの変色 上は使用後、下は未使用品

流量が重要となる合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックスでは、大風量の大型ボックスファンと、表面積の大きなプリーツフィルタであることが必須となります。プリーツフィルタの厚みは、ひだの厚みであり、厚ければ厚いほど装置面積あたりの濾過面積が大きくなります。また、濾過面数が多いのも流速を稼ぐ為です。ジム・ローゼンタールは、2インチ厚みのフィルター5面のボックスで580feet/minと1枚の時に比して約1.5倍の流速が得られたと報告しています。 


一枚のフィルターを用いたときのひだの厚みと流速の関係 feet/min=0.005m/s

ジム・ローゼンタールはHEPAよりもMERV13を用いたコルジ・ローゼンタール・ボックスのほうが全粒径域において高い濾過効率であると発言しています。筆者は、流量が非常に大きい為にエアロゾルの滞留時間がたいへんに短く、捕集し損ねたエアロゾルも上方に拡散された後に10分程度で再度濾過されるからではないかと考えています。エアロゾルの滞留時間が短いのが合衆国版の特徴です。
故にスプレッダ(ウイルスを伝搬する感染者)がいる条件では、ろ過器の排気には一定量の感染性エアロゾルが存在する可能性があり、直接顔に風を当てるような使い方は出来ません。この点では、HEPAと大きく異なります。

3-b HEPAフィルタを用いた日本版コルジ・ローゼンタール・ボックス

日本版のコルジ・ローゼンタール・ボックスでは、50cm角の大型のMERV13フィルタ相当品が入手困難であるため、HEPAフィルタを用いて小型化しています。

HEPAは、300mn以上の粒子を99.97%以上除去できることが規格の条件で、MERV13とは全く異なるものです。濾過容量が250立米/時であるため、日本の学校教室では1時間に1回空気を濾過し、それによってほとんどの感染性エアロゾルを除去できることになります。

しかし感染性エアロゾルは教室内に長時間滞留することとなり、感染を起こす可能性があります。その為、エアロゾルの滞留時間を短縮する為に一つの教室に4〜5基の設置が望まれます。この場合、10分に1度はすべての空気が濾過される為に合衆国版コルジ・ローゼンタール・ボックスの運用時に匹敵する濾過回数を得ることができ且つ一度に99.9%以上300nm以上の粒子を除去できます。

日本版のHEPA使用コルジ・ローゼンタール・ボックスは、流量こそ合衆国版の1/5〜1/6ですが、濾過した空気の安全性は高く、よほどの悪条件でない限り濾過した空気を直接呼吸しても安全と思われます。


4.合衆国式と日本式の違い

合衆国版と日本版は、下記の違いがあります。

合衆国式

濾過後の空気にエアロゾルは残留する

大流量で1時間に10回程度濾過することでエアロゾルを殆ど除去する

濾過回数が多い為にエアロゾルの滞留時間が短い


日本式(HEPA)

濾過後の空気にエアロゾルは殆ど残留しない

一度の濾過でエアロゾルを殆ど除去するが、1基あたりの濾過回数は少ない

大空間に一基では、濾過回数が少ない為にエアロゾルの滞留時間が長くなる


このように装置特性が根本的に異なる為、運用方法は全く異なることになります。日本式の場合は、狭い一般家屋や自動車の中ではエアロゾルの滞空時間を短くすることが出来る為一基で大きな効果を持ちますが、教室などの大空間では、40立米あたり1基程度を目安に多数設置する必要があります。

一方で、日本式の場合は、流量が合衆国式の1/6程度ですのでフィルタへの負担が小さく、流速を妨げない程度の荒いプレフィルタを取り付ければ、1年程度HEPAフィルタはもつと考えられます。


5.寄せられた質問など(随時追加)

Q1.フィルタは組み立て式と折り畳み式があるがどちらが良いのか?

A1.本質的に違いはありません。フィルタの規格が同じならば、隙間がないように組み立てられる限り何を使っても構いません


Q2.自動車用エアコンのフィルタは使えるか?

A2.自動車エアコンのフィルタは、HEPAでなくMERV13相当です。その為合衆国版の装置特性となります。したがって、1時間あたり10回程度の濾過が出来る室内での運用が望ましいです。また濾過後の空気にはエアロゾルが残留しており、直接顔に風を当てるような使い方は推奨できません。具体的には、ワンルームマンションは、40立米程度ですので10分に一回の全濾過となり、一基でなんとか間に合いますが、ファンの流速が小さい場合には、二基設置となります。自家用車の車内でしたら、アメリカンサイズのミニバンやハイエースまで大丈夫です


Q.3 コロナが終わったら邪魔になるのではないか?

A.3 コロナが終わっても強力な花粉症対策となります。またフィルタは、使い捨てなので分解してファンをサーキュレータとして使えばよいです。無駄が無いという点で、いかにも合衆国らしい合理主義の産物です


Q.4 プレフィルタはどのようなものが良いか?

A.4 日本式のプレフィルタは、本来は不要のものです。HEPAは、大きな埃などが大敵なので、埃除けに出来るだけ空気の流れを妨げない=荒いものが推奨されます。プレフィルタは、汚れてきたら交換すればよいです

Q.5 HEPAフィルタの活性炭や銀コート、抗ウイルス加工などは意味があるか?

A.5 本質的には意味がありません。フィルタの性能を損なわないのならばあっても構いませんが、求める性能を向上させるものと評価しておりません

Q.6 既製品はないのか?

A.6 装置特性は異なりますが、クレアウィン・ボックスが製品化されています。筆者は、この製品については、まだ調査中ですので諸元は、発売元にお問い合わせください。

お問い合わせやご質問があれば、筆者のTwitterアカウントまでお寄せください。


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