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Contextは女王の叡智

"Context is Queen."というフレーズを、「コンテキスト(文脈)は女王である」と訳せている人はいるのに、その先を上手く説明出来ている日本語のテキストをあまり見かけないので、今回はその意図をチェスのモチーフを借りてご説明します。なぜ今コンテキストなのか、そこもしっかりお伝えします。

SEOの世界でよく耳にする表現、"Contents is King."。Webマーケティングに携わる人なら、その意味合いは何となく分かるでしょう。ただ、たまに耳にされることがあるかもしれない"Context is Queen."については、しっかり把握されている方は少ないのでは、という印象です。

「コンテキストは女王」で検索してみても、しっかり解説された記事はあまり見当たらない気がするので、今回はコンテキストについて、またなぜ「女王」なのかについて、独自の見解も交えて出来るだけ分かりやすくお伝えしましょう。


Queen = 「クイーン」である

解説しようと言った冒頭からトートロジーで、「は?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、もう少しだけお付き合いください。"Context is Queen."を理解しやすくするためには、「女王」ではなく「クイーン」と置き換えた方が分かりやすいのです。

「またトートロジーだ」とお怒りでしょうか。真理というのは概ねトートロジー、言い換えぐらいしかできないものですが、今回はそうではなく、クイーンという「チェスの駒」に置き換えたいので、「Queen = クイーン」と書いたのです。

私も下手の横好きなので滅多なことは言えませんが、チェスやチェスの駒はご存知でしょうか?
チェスは日本の将棋によく似たボードゲームで、キングを取られたら(正確には取られてしまう状況、チェックメイトがかかったら)負けのゲームで、キングやクイーンの他に、ビショップやルーク、馬の形をしたナイトといった駒も存在します。

クイーンはこの中でも大駒中の大駒、将棋で言う飛車(上下左右に縦横無尽)と角(斜めならどこへでも)を足した駒、盤面で最も影響力を持つ駒でもあります。

この手の駒は将棋でも同様ですが、基本的には遠くからその影響力、力を効かせる駒であり、そんな駒が将棋とは異なり初期配置からほぼ盤面中央、相手のキングと対峙した位置にあるという駒です。(厳密には将棋より上下に一列ずつ少ない8 × 8の盤面なので左端から4つ目の位置で、相手のキングの隣にあるクイーンと向かい合う形)

将棋よりも比較的早い段階で戦いが始まる印象のチェスですが、それもこれもクイーンの初期配置やクイーンの威力というのが大きい気がします。

遠くから四方八方に影響力を轟かせ、ゲームや盤面を支配する。これが"Context"、日本語で言えばコンテキスト(文脈)のイメージと言って良いと思います。
何となく、分かって来ました?

コンテキストは遠くから効力を発揮する、見えない力

「正直、まだ分からない」で大丈夫です。これだけで分かるとは筆者も思っていません。
より重要なのは「遠くから」効くということと、遠くから効く間接的なもの、直接は見えにくいものなのに、絶大な力を有しているということ。

「見えない or 見えにくいのに強い」の例を挙げるなら、水や空気といった透明に近い流体というのはいかがでしょう? どちらも五感の都合上観測は少々困難ですが、力としては絶大ですよね? 流体力学という言葉はありますし、日々全自動洗濯機や水洗トイレで水流の威力は実感されているでしょう。川や海の流れを堰き止めたらどうなるか、あるいは蛇口にホースを繋いで口を塞いだらどうなるか、よくご存知のはず。

空気だって、水蒸気に物理的な力がなければ我々は電力の恩恵を受けられませんし、空気を圧縮したらそれだけで凄まじい熱を発することにもなります。空気が無ければ、飛行機だって飛べません。

見えないけど支配力があるのは、習慣とか文化でしょうか。日々の生活で無意識に何をするか、何を選ぶか。有史以来、人類が積み重ねてきた都市で生き抜くためのアレコレや、生き物としての本能など、常に何をするか必死に考えている人よりは、何となく流されながら生きている人や瞬間の方が多いのではないでしょうか。

それまでの習慣を変えるとか、所属する国やコミュニティを変えるとか、結構大変ですよね? 言語を変えるのも並大抵の努力ではできませんし、川の流れを変えたり海を拓いたりするのも、大仕事です。コンテキストの持つ力、現状を維持しようとする勢いがいかに強力か、十分ご理解いただけたかと思います。

また、「流れ」という観点でコンテキストを捉えても、その凄まじさはよく分かります。
例えば軍事や物流における流れ、習慣という観点で見ると「素人は戦術(or戦略)を語り、専門家(プロ)は兵站を語る」という引用句があります。

出典元等は上記をチェックいただきたいのですが、リソースを流し続けること、途切れさせてはいけないこと、それによって戦略や戦術の前提となる「当たり前」を崩してはいけない、それが崩れると全てが瓦解するという旨が詰まっているのではと、個人的には考えています。

さらに、クルツィオ・マラパルテの著書『クーデターの技術』

では、トロツキーの言葉として

国家権力の中枢は、(中略)国家の神経組織、すなわち発電所、鉄道、電信・電話、港湾、ガスタンク、水道にある

『クーデターの技術』(クルツィオ・マラパルテ著 中公選書) P96 L17〜P97 L1より引用

あるいは

依然として国家権力を握っているのはケレンスキーその人だった。しかしながら、(中略)統治能力を失っており、内閣はその機能を喪失していた。

『クーデターの技術』(クルツィオ・マラパルテ著 中公選書)P103 L11〜L13より引用

と述べられています。

技術をもってすればクーデターが実現できる、その内実を語る著書の中で記述されているのも、各種の流れを堰き止め、分断することの効力です。混乱を作り出す、あるいは増大させればクーデターが果たされる、という詳しいところは同書をお読みください。

どうです? コンテキストって強いでしょ?

カスタマージャーニーも、ペルソナもコンテキストのため

コンテキストの力が絶大だとして、だから何だというのか。端的に言えば、人は皆、流れの中に身を置いているから。宇宙や天体規模の影響から、「昨日何食べたか」という日々の生活や習慣、さっき耳にした動画広告のBGMや、今目についた誰かの呟きで感動したり憤ったり、大小様々な流れ、影響が重なり合う中に存在しています。

商品やサービス、ブランドに接触する前も後も、その瞬間だけが存在するケースはほぼゼロでしょう。お店へ辿り着く前、あるいはその商品を認知する前の動き、流れが存在し、接触した後も、その人の周囲には家庭や地域、コミュニティの中へ身を置きます。
何かを検索する時だって、検索しようと思い立った経緯や前後のシチュエーションが別に存在し、その中で特定のキーワードやフレーズで検索するはず。発信者に都合のいいキーワードで必ずしも検索してくれるとは限らないし、そのキーワードで流入してきてくれたから、必ず効力を発揮するとも限りません。

モバイルファーストの現代なら、その場面や影響はますます制限、限定しにくくなります。情報やブランドに接触する場面も制限できませんし、どんなモニターサイズ、どんな姿勢で向き合うのかも指定できないでしょう。

これまで以上に横槍が入りやすく、環境の影響、前後のシチュエーションの影響も受けやすい今、コンテキストを軽視して情報をお届けできるでしょうか? この課題に対する解決策、あるいは緩和策がカスタマージャーニーであり、ペルソナです。前後の文脈、流れを入念に検討し、受け手の流れを阻害せず、上手くこちらの流れに乗ってもらう、あるいは乗り換えやすいように調整するのが、カスタマージャーニー、ペルソナを検討する意味と言っても良いでしょう。

曖昧なキーワードでも検索できるハミングバードや、音声検索も実現して久しい今、カスタマージャーニーもペルソナもコンテキストも、その重要性は増す一方です。

KingをKingたらしめるには、Queenの威光が大事

コンテンツは今までもこれからもKingであり続けると思いますが、マーケティングにおけるコンテンツの役割は何でしょう? 答えは「態度変容」です。態度変容に直結しないコンテンツ、単なる読み物やエンターテインメントな物であっても、その先には必ず態度変容が待っています。というか、できなければ続けられない経済的な制約もあります。

態度変容で肝要なのは、しっかり訴求すること。顧客のアタマやココロに印象深く突き刺さること。大なり小なり、メッセージを「効かせる」ことが大切です。コンテンツ、すなわちキングの役割がコレです。

そして、現代の情報伝達におけるコンテンツとは、外すと自らが窮地に陥る必殺技、それも当てにくく消耗も激しい超必殺、みたいなもの。しっかり効かせるためには、深く入る間合いで発動すること。回避も防御も困難な状態で繰り出す必要があります。

この、「超必殺を絶対当てに行く」シチュエーションを自ら作り上げる、相手任せにしないで再現性を高めるための工夫や一連のコンビネーションも、一種の流れ、コンテキストです。クイーンとキングが連携して初めて、キングはキングの玉座を守れると言っても良いでしょう。

なぜそこまでやる必要があるのか? モバイルファーストの時代だから、です。
モバイルファースト以前でも、情報を伝えたとしても受け取ってもらえない局面や、あるいは疑ってかかったり、しらけるたりする場面は多々あったかと思いますが、モバイルはそれ以上に横槍や、集中を阻害する要素が多く、ユーザーがどんな状況や環境で情報と向き合っているかが分かりません。

夜中にベッドまでノートパソコンを持ち込んで、部屋の電気を落とした後も開く可能性は低いですが、モバイルならどうでしょう? 電車移動の最中に小さな端末で接触する情報や、隣で誰かが寝ているシチュエーションでも触れられるコンテンツに、どこまで前のめりで触れてもらえるか、どこまで真面目に受け取ってもらえるか、検討してみたことはありますか?

いつでも中断できるし、話半分で聞くふり、受け取ったふりをすることも可能です。途中で別のものが気になって離脱する可能性も高いでしょう。映画館のスクリーンで映画を鑑賞することに比べれば、前後のシチュエーションや受け取っているシチュエーション、その前にどんなコンテンツに触れてきたか、どんな感情でコンテンツに向き合っているかを限定することも困難です。(映画や興業なら、別の映画の予告や前座でアイスブレイク、感情や気持ちのリセットも可能です)

それだけ話を聞いてもらいにくい環境なのに、「リッチなコンテンツ体験だ」とデータ容量だけ立派なキングを用意して、十分な訴求ができるでしょうか。お金をかけて高画質、高品質なコンテンツを用意したって、空振りに終わる可能性だって十二分にあります。

しっかり訴求する、またメッセージを深く突き刺す、印象に残すためには、自分の手で効かせる流れ、コンビネーションへ繋げる、しっかり効かせるために体勢を崩す、その上で超必殺を繰り出す。そこまで必死に効かせることを考えなくてもいいと思われるかも知れませんが、足らずに役割を果たせないぐらいなら、無駄になるぐらい準備して、やりすぎてしまうぐらいがちょうど良いです。

キングがキングであるためには、クイーンの力、協力が欠かせない、それはますます揺るがなくなってきている、ということです。

モバイルでこそ、女王の叡智を

モバイルファーストの時代にキングであるコンテンツを活かし、態度変容の役割を果たしてもらうには、そこへ繋ぐためのコンテキスト、女王の影響力、威厳を上手く活用しましょう。
昨今のビジネス活動、マーケティングではそこで途切れず、次のステップへ繋ぐ流れ(=コンテキスト)も整えておくと、より効果的です。

ユーザーのコンテキストから、発信者のコンテキストへ。一部の習慣、コンテキストを付け替えてもらうために努力をするのが、現代においては有効な考え方かも知れません。
また、いわゆる「ギガが減る」も考慮に入れると「リッチなコンテンツ体験」とは必ずしもデータ容量の大きさ、映像や音声の品質だけとは限りませんし、立派なコンテンツを用意したところで、受け取る側には素通りする権利もあれば中座する権利もあるし、疑ってかかる自由、受け取らない自由もあります。

受け取り手を生活者、発信する側と同じ人であるとリスペクトするからこそ、コンテンツが玉座に座るだけの価値を保つためには、女王の叡智、威光を纏って必殺のコンビネーションを繰り出せるようにしましょう。
空振りすれば悪目立ちする超必殺、公衆の面前でキングに醜態を晒させたくなければ、コンテキストを駆使して、必殺必中になるようしっかり極めよう。

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