AIに負けないこどもを育てる、感想
AI v.s. 教科書の読めない子どもたち、新井紀子著、の続刊。日本を変える可能性のある1冊の本だと思う。小学生の子供がいるなら読んでおきたい。二月の勝者とか好きな人は楽しめる。ざっくり内容を言うと日本人の日本語ヤバい。
この本で初めて知ったが近々「論理国語」なる科目が高校に導入されるとか何とか。これには全面的に賛同する。恐ろしいことに義務教育では日本語の読み方・書き方を習わない。私の体感では日本人の5割は日本語での意思疎通に問題がある。私も大学入試では国語に本当に苦労した。浪人中はよく予備校の講師と解釈を巡ってバトルしてた。めんどくさい子供だったと思う。日本語の書き方(というかレポートの書き方だが)は大学で学んだ。その時に読めと指定されたのが木下是雄先生の理科系の作文技術。今も本棚に置いてある。これを義務教育中に教えるべきだ。
本に乗っていたリーディングテストのサンプルをやってみたが結構間違える。ほぼ6~10に収まっていたが具体例同定(辞書)は4点だった。いやこれ問題がおかしいわ。特に気になったのが次の3つ。
Q.12
答えは2の「異なる」なのだが、いやおかしいでしょ。論理学で言えばA→Bが真のとき逆(B→A)が成り立つとは限らないので2番が正解なのは正しいのだが、これ原子の話ですよ。電子と陽子の数が等しいなら中性だし、中性なら電子と陽子の数は必ず等しい(例外あったっけ?)。つまりA=Bである。従ってこの問題に限って言えばA→BとB→Aの意味する内容は「同じ」である。
分かりやすく簡略化した例を考えたので追記しておこう。
Q.
両者の表す三角形が同じなのは明らかだ(サイズ違いは考えない)。問題は「2つの文が表す内容」が同じと言えるかどうかだ。この文が表す内容とは何だろう。A→Bという命題そのものが内容と考える人、Bの結論部分だけが内容と考える人、あるいは私のようにこの文から確定する三角形が文の内容だと考える人がいるだろう。どれを選んでも間違いではない。このような問題に対する正解を定めて標準化する事が義務教育の役割だと思う。我ながら良くできた問題だと思うので著者の新井氏の見解を聞いてみたいものだ。
追記:論理学の「ならば」と日常会話の「ならば」の解釈は異なるという指摘を他所で見かけた。
論理学的に考えれば30点以下の点数を取った生徒は合格とも不合格とも言えない。なぜなら仮定Aが偽なら命題(A→B)は真だからだ。しかし日常会話ではよほどのひねくれ者でない限り30点以下は不合格と捉えるのが普通だろう。つまり「ならば」は「 if 」 ではなく「 if and only if 」と解釈する。上記の原子の問題の場合「なので」は科学的に「 if 」ではなく「 if and only if 」である事が保証されている。従って(A=B)であり(A→B)と(B→A)の2つの文が表す内容は同じと考えるのが日本語として妥当だろう。新井紀子氏の見解が聞きたい。
参考文献:https://www.chart.co.jp/subject/sugaku/suken_tsushin/86/86-4.pdf
Q.13
本の正解は2.「まちがっている」だが、これは明確に誤りと言える。3の「判断できない」が正しい。なぜなら1つの細胞小器官には複数の酵素が存在するからだ。例えば細胞小器官の1つであるリソソームは数十種類の加水分解酵素を持ち細胞内に取り込んだ異物を消化している。つまり違う種類の酵素であっても(その酵素が存在する細胞小器官の)働き方は同じと言える。また一般的に同じ触媒反応を引き起こす複数の酵素が存在していて、これをアイソザイムもしくは酵素ファミリーという。
この問題の作成者は細胞小器官と酵素が1:1に対応すると勘違いしたのではないか。さらに言えば細胞小器官のはたらきは酵素の種類だけで決まるわけではないので問題文の表現が強すぎる(科学的に正しくない)のも気になる。
Q.21
正解は1.2.4。私は4だけを正解とした。数学と違って日本語で日本語を定義する事は本質的に難しい。まず「欲望を満たすために」という文言が意味不明でお手上げである。サラリーマンは欲望を満たすために出張に行くのか? そうとも言えるような気もするし、そうとは言えないような気もする(私個人は仕事で仕方なく行かされていた気がするが)。欲望の定義を書いてくれないと答えられない。また「生活に必要な物資など」という文言も微妙である。ビジネスホテルに泊まる事は生活に必要なのか? 逆に生活に必要でない物資とは何なのか? 贅沢品か? ゴミか?
Wikpediaを見ると「消費」に関して同じような文言で説明されており、
まあ、なんだ、経済学の用語ですね。つまり読解力の問題ではなく経済学の知識がないと理解できない。3が消費でないのは恐らく自分でピアノを引いてるからだろう(支出を伴わない)。しかし定義文には支出について何も書かれていないので、それを読み取るのは不可能だ。
英語版のWikipediaを見ると、
「消費とは効用を得るための支出、と定義される」と明確ですね。欲望を満たすためにとか意味不明な条件はついてない。また明確に支出(spending)と書かれている。日本語の方はたぶん法律から来てるんだろうけど、いかにも分かりにくい。これは悪問中の悪問。
Q.22
債権の問題も酷いが、これについては他の人の感想を参照して欲しい。
https://note.com/usui_001/n/n9246a2ee5e54
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