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400才

演劇、とも ダンス、とも言えそうで言えない、舞台、というほど形式張ってもいないし、パフォーマンス、にしては主張が前面に出ている気配が薄い。

なんとも言いにくいので「お話」と呼ぶが、『400才』は、400年生きているさめのお話だった。

登場人物はひとり、着ぐるみのさめが生活を営む。絵画を見つめてコーヒーを淹れ。手紙を書いて、何かに苦悩する。踊る。唄う。

コーヒーをドリップするための道具をひとつひとつばか丁寧にテーブルへと運ぶ様子、ためらうような歩調に、400年とは裏腹の、生まれたばかりのようなぎこちなさを感じた。
けれど、案外長い月日は人もさめも赤子に返すのかもしれない。

「きみが元気だといいなと思います」
そう手紙をしたためた直後の暗転中に、紙を破る音がして。

どす黒い闇となって シルエットだけで踊る姿に、触れて慰めたくなったけれど、触れれば崩れそうな危うさも孕んでいた。

ときはおそらく深夜、さめはお気に入りらしい人形を相手に身振り手振りで話しかけるも、答えは返ってこない。

「忘れたくないことも 忘れてしまう」そう唄う、耐えがたいほどの孤独感が、しかしふしぎと悲壮ではなかった。

途中、さめが自室のテーブルと椅子を倒して、パーツがばらばらになり部屋が木片だらけになるところがあった。

さめは戸惑いながらも遊び始め、等間隔に並べた木片を端から倒してドミノにする。最後の1本が倒れたとき、さめも横にころがった。

もしかして、羨ましかったんじゃないかなと思う。他者からの影響を受けることができる木片が。

自分以外に動くものも、熱を持つものもない世界で、さめはずっとひとりだ。隣にもたれかかって倒れかかってくる存在がほしくて真似したんじゃないだろうか。

結局、数秒だけ床に寝そべることはあったけれど、さめが目を閉じて安らぐシーンはどこにもなかったように思う。彼は眠れずに、401年目を迎えるまで、ひとり遊びを続けるのかもしれない。

ダンス・荒悠平
彫刻・大石麻央

#400才

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