見出し画像

エターナル・サンシャイン

感情出力のコントロールがへたな人は苦手だ。
嬉しいでも悲しいでも上下の差が激しい人と長く一緒にいたらつらくなる。
淡々としながら冷たくない人がいい。
だから『エターナル・サンシャイン』のジョエルのことは最初からすごく好きになった。

初対面の奇抜な女の自虐をフォローしようとして「私のことよく知らないでしょ」と一蹴され、
「いい人になろうとした。ごめん」
と呆気なく折れてしまう不器用さ。

人付き合いのうまくなさそうなジョエルが、その奇抜な女・クレメンタインに惹かれていくごとに、穏やかさがなくなり感情のアップダウンが露わになる。
恋愛のいやな部分だなと思う。思うから、記憶ごとお互いのことをなくしてしまおうとする2人を馬鹿にできない。

記憶の喪失をめぐる物語では、記憶の回復や奪取を主題に取ることが多い。
セオリーをなぞりながら、記憶と現実が錯綜する展開は退屈を許さない。部屋の中で雨が降るシーンが好きだった。書店の本がすべて真っ白になってしまうシーンも。

恋愛映画は特に、恋人たちの感情についていけなくて置いていかれることがときどきある。
でも今回は、大事なところはしっかり追走できた気がする。
それまで散々煮え切らない態度を責められていたジョエルが、

「この記憶もいずれ消される。どうするの?」とクレメンタインから最後の最後に尋ねられて、
「楽しもう」
と答えきったときは思わず拳を握って前のめりになってしまった。

ピンクの文字に雪が降る中キスする恋人たちのポスターだけなら、きっとこの映画を観なかったと思う。
前情報なしでおすすめされるがままに観られてよかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?