ヒグチアイさんのライブイベントに行った話、感じたこと

ヒグチアイさんが主催するライブイベント「氷山〜好きな人の好きな人〜」に行ってきました。
出演者は日食なつこ、mol-74、ヒグチアイ。
音源を定期的に聴くという意味ではmol-74しか知らなかったのですが、日食さんもヒグチさんも、ピアノやキーボード弾き語りを軸にした音楽ということでずっと気になっていたのです。
いちばん好きな楽器なんですよね、ピアノって。それは多分、苦しい時期にずっと聴いてたからなのかも。

ピアノをメインにしたジャズとかロックとか。音源を聴く限り、絶対に好きな音楽性。この2人がmol-74と一緒に出るなんて凄い巡り合わせ、ってことで、ほとんど何も考えずにチケットを取ったのです。
「この3組を集めたのって凄いでしょ。私が集めたんだよ」ってMCでヒグチさんが言ってたけど。確かにこれは凄い。私のためにあったようなブッキングです。


まず出てきたのは日食なつこさん。
「大停電」と「水流のロック」がとても好きなので聴きたいなー、と思ってたのだけど、両方やってくれたのでとても嬉しい。
この人はライブの進め方が独特で、MCまで全て作り込まれているんですよね。MCまで含めて全てが作品になっているというか。
歌うのと全く変わらない声音で喋っていると思ったら、いつの間にか足下まで次の曲に浸っている、というか。
全てに隙がなさすぎて、息つく暇がない。
気づいたら終わっていました。
何というか、心を掴まれたままにばっさりと幕が落ちてしまった感じのライブで。もっとこの世界観に浸っていたかった、ってまず思った。
ワンマンに行ってみたいです。

歌声も話し方も、凄くかっこいいなこの人。

あとは何より、ドラムのkomakiさんとの絡みが凄まじかった。

『ここでふたり起こした逆流で
世界がどよめけばいいと思うんだよ』

って歌詞が「水流のロック」にあるのですが、
二人の作る音楽って、まさにそれ。
巨大な質量を持ちながら美しく跳ねる川の流れみたいなピアノと、そこに強烈なインパクトを与えて激流に変化させる地形のベースとしてのドラム。
大地は水を支え、水は大地を彩る。
二人で起こした流れの美しさ強さを、ただ外から眺めるだけ。
空から降り注ぐ太陽光、薄暗いろうそくの明かり、古びた部屋に降り注ぐ木漏れ日。そんなふうに、光を強烈に感じる音楽でした。



mol-74に関しては、ライブ含め最近よく聴いているので概ね期待通り。
他の二人に挟まれて、異質な普通のバンド編成。しかも殆どMCも無しに、ひたすらに演奏するというスタイルで。自分たちの音楽に自信がないと出来ないな、と。
ただ、やっぱり彼等の音楽って精神への浸透力がとても高い。乾いた大地にきらきらと降る雨のようなものを思わせます。
最初は一歩引きながら聴いていた観客も、最後の「Saisei」では完全に引き込まれていて。
3組の中でいちばん優しい音楽。もしかすると、このイベントでいちばんファンを増やしたのは彼らなのかも。

演奏の話をすると、
何故かこの日は高橋さんのベースの音がとても強くて。骨太なサウンドになっていました。
このイベントでその調整は正解なのだろうか、ちょっと腕組みして考えてしまいましたが、「%」とか「ノーベル」みたいな華やかな曲には合っていたし、「Saisei」にはベストなバランス。
彼らはそっちのほうに歩いていこうとしているのでしょう。
美しい時間でした。



というような2組で。こんなテンションでもう一組を見て終わりなのかな、と思っていたら、最後のヒグチアイさんで印象が完全に塗り替えられました。
このイベントは、最後のヒグチさんが全て持っていった。あまりにも凄すぎて、他の人のことほとんど覚えてないよ。
例えば日食さんの弾き語り。演奏力も世界観も凄いなーって思いながら聴いていたけれど。
例えばmol-74の美しさ。すごく透明で、世界の優しさに触れてるみたいだったけれど。
ヒグチアイさんのスケール感は群を抜いていた。凄まじい歌唱力。そして何より、演奏に込められた魂の力強さ。

ヒグチさんのことは去年、ラジオで「猛暑です」を聴いて知ったんですよね。
猛暑ですe.p.というアルバムがすごく好きで、「猛暑です」とか「ラジオ体操」とかが聴ければいいなーって軽い気持ちで聴いていたのだけど。
あのアルバムの曲、一曲も無かった。マジか。
全然知らない曲ばかりで、知ってるのは一曲だけ。
でも、知ってるとか知らないとか全く関係無かった。その世界に引きずり込まれてしまった。

彼女の凄さはどこにあるのだろうか。
キーボードの演奏も凄い。
声量も凄いし歌の力も凄い。
作品自体のクオリティも凄い。
でもやっぱり、他のアーティストに比べて最も優れているところは、逃げないところなんじゃないかと思ったんですよね。
作品と、ひいては自分自身と向き合うことから逃げない。
そして自分を曝け出すことから逃げない。

そんな力強さ。視線の強度。
そういうものが好きなんだな、と。
エモい作品が好き、一言でそう言ってしまうことは簡単だけど、
その裏にあるものは、逃げない姿勢。



そしてアンコールで演奏した「備忘録」。私が知っていた唯一の曲でしたが、知っている作品とは全然違った。
彼女の見てきた世界を追体験しているような。凄まじい演奏だった。
きっとこれが、正しく魂をのせた作品なのだなと。

私も、そんな作品を一度でいいから作ってみたい。

未だにその世界から抜け出せない、凄く良い時間でした。すごいイベントだった。

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