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旅は終わり、そしてまた続く

あっという間に2021年も年末を迎えてしまった。メリークリスマス。みなさんいかがお過ごしですか。

昨年のクリスマスは、スマホの電波も入らないニュージーランドの山の中だった。あれからもう1年も経ってしまったのか。

ニュージーランド一周旅の総括を先延ばしにしたままになっていた。今年の7月、およそ9ヶ月に渡った旅を終えてクライストチャーチに戻ってきた。

本格的な冬を迎えるこの街の空には灰色の雲がかかっており、そうそう今の季節は陰鬱な天気がだらだらと続くのだったなあと記憶を思い起こさせた。

海沿いの家の離れを間借りして新居としてからは、少しずつ仕事を始めている。旅の間から始めていた将棋教室に加えて、ライター業、ウェブ制作の下請けなど。ついこの間まではラベンダー畑の草むしりという素敵な仕事もやっていた。

生活は相変わらずギリギリだ。毎月少しずつ貯金を吐き出している。あと1年は誤魔化し誤魔化し暮らせそうだがどうなることか。日本の銀行口座とニュージーランドの投資口座に多少の蓄えがあるのだけが心の支えだ。朝起きたら仮想通貨1万倍に増えていることを夢見て毎晩床についている。

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人生最悪の抑鬱状態にあった精神は多少マシになった。旅をしている間は自分が世界で一番惨めな存在に思えて仕方がなかったが、最近はそれほどでもない。

深い深い海の底、光の届かぬ世界でも具足虫が元気に這い回っている。収入はなくとも毎日好きな時間に起きて好きな時間に寝る生活も悪くないと思えば、体がゆっくりと浮上していく感覚を覚える。

とはいえ心身の調子はまだ復活しきっていない。また地上の空気を吸えるようになるまでにはどれくらい時間がかかるだろうか。胎児のように膝を抱えて丸まりながら、浮力に身を任せる。無理をしても仕方がない。浮かぶときは浮かぶし沈むときは沈む。それだけだ。

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ひとつ思い出したことがある。自分には「日本を縦断してうまいものを食べ歩く」という夢があったのだ。夢、目標、未来、そんなことをこの一年思い描くことはなかったのだが、年の瀬になってふと頭に浮かんだのである。

ニュージーランドを一周しただけで満足している場合ではない、まだ自分には旅する場所がある。最低限の生活費以上の金を稼ぐ意味を見失っていたところだったが、夢のための資金稼ぎと思えば気力も湧くというものだ。

自分へのクリスマスプレゼントにゲーミングチェアを買った。日本円でおよそ25,000円。月収20万円未満の身には大きな買い物だが、これで仕事の効率が上がれば儲けものだ。

庭の片隅の小さなスリープアウト。ここからもう次の旅は始まっている。日本を離れてニュージーランドへやってきて、次はどんな土地を訪れようか。人生は短い。しかし旅をせずに終えるには長すぎるのだ。

(ニュージー放浪日記・完)





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