見出し画像

『異修羅』好きな真の男であるお前に、ひとつ伝えたいことがある

 掛けたまえ。CORONAは冷えている。

 『異修羅』、履修しているだろうか。してない? それはいけない。今すぐ読む義務がお前にはある。もしくは九月に出る書籍版を買え。保存用と観賞用と布教用と実用と予備と予備の予備と子供に読み聞かせる用の計七冊買いなさい。全人類の義務ですよ。

 そういうわけで本稿は『異修羅』読んでる真の男たちに向けたメッセージであるからして、未読者が読むと、いや、読んでもいい。別にずのうはばくはつしない。ネタバレとか特にないからだ。

 ついでに言うと『異修羅』の話はあんまりしない。推し修羅は音斬りのシャルク氏であるということぐらいだ。かの作品が書籍化すると聞いて、俺の胸の裡に灯った複雑な感情を書き記してゆく。

 『異修羅』はすごい作品だ。なにしろ「とんでもない力を持つ十六人の猛者がトーナメント形式の武術大会でぶつかり合い、その全試合が描写される」なんてコンセプトの時点で面白くなるに決まっているではないか。もちろん『異修羅』の魅力と凄まじさはそれだけで説明しきれるものではないが、主要な骨格としてこの要素の存在は大きい。当然、評価されるし書籍化もされる。それだけの面白さはある。『異修羅』は間違いなく空前絶後の傑作だ。歴史の教科書に載らなかったら俺は担当者のドたまをかち割って中身をカニ味噌と入れ替えてやるぞ。

 だが――俺の胸にあるのは賞賛ばかりではなかった。

画像1

 ――ひとつの作品がある。

 こことは異なる世界の物語だ。

 恐るべき殺人技を身に着けたか、あるいは常人ならざる能力を持っているか、とにかく多種多様な戦闘能力を持つ十六人の猛者が一堂に会し、勝ち抜き方式の武術大会で壮絶な殺し合いを繰り広げ、頂点を目指すダークファンタジー群像劇。当然、すべての試合が描かれるし、場外での突発的な戦闘なんかもあったりする。

 『異修羅』じゃん……?

 ちげーよ!!

 『鏖都アギュギテムの紅昏』だよ!!!!!!!!!

 パクリじゃねーよ!!!!!!!! 投稿年月日見ろよ!!!!!!! 『異修羅』より前だよ!!!!!!!!!

 だがしかし、本作は『異修羅』とは異なり、ほとんど評価されることなく埋没していった。もちろん書籍化のオファーなんか来てない。残念だ。本当に残念だ。こんなに面白いのに。

 作者の目から見ると、本作は『異修羅』に勝るとも劣らぬ超傑作にしか思えないのである。だが、実際の評価は天と地ほども違う。なぜだろう。そこには何か理由があるはずだった。

・余計なクリエイティビティに溢れている?

 『異修羅』の数多い美点のひとつに、「世界設定がわかりやすさと独創性を両立している」というものがある。かの作品の世界は、基本的な大枠としては『指輪物語』を踏襲したお馴染みの剣と魔法のファンタジー世界だ。誰でも知っており、ゆえに理解可能性が高く、読者の脳に余計な負担をかけない。そうでありながら、著者である珪素先生特有のセンスによって古臭さがまるでないエッジの利いたクールな世界になっている。

 一方で、『鏖都アギュギテムの紅昏』の世界は「お馴染みの剣と魔法ファンタジー」ではない。俺が心血注いで創り上げた、剣と血と暴力と絶望とじゃんけんの異世界だ。とにかく読者が見たことのないものをブチ込みまくった。そこにはエルフやドワーフやオーガやスケルトンはいない。これが理解可能性を引き下げ、読者に無用の負担を強いていたのではないだろうか。

・描写が残虐かつウェットすぎる?

 もちろん、『異修羅』にも残虐な描写はあった。冒頭からしてひっでぇことが起こっている。だが、それらを描く筆致は、どこか一線を引いた、透徹したものだった。必要以上に苦悶と絶望を描くことなく、それはカサカサに乾いたドリトスのごとく読者に受容される。登場人物にはもちろんさまざまな悲喜交々が存在しているものの、珪素先生はそれらに過剰に入れ込んだ描写をしない。これがテンポの良いリーダビリティを実現していると思う。

 一方で、『鏖都アギュギテムの紅昏』はとにかく読者にありったけの苦悶と絶望と狂気を浴びせようと、全編うなるほどの力を込めて描いた。登場人物が感じた、怒り、狂気、渇望、悲哀、痛み、覚悟、愛おしさ、譲れないもの――それらをギトギトに煮詰めて煮詰めて、工業用原液めいた濃度の心理描写で読者を殴り倒す。相手は死ぬ。読者は疲れる。

なぜ自作のネガキャンをしているんだ

 そうだよ!!!!!! 俺は『異修羅』が書籍化で話題になってるタイミングでこんな記事を公開してあよわくば新規読者を獲得しようというこすい思惑で今キーボードを叩いているんだろうが!!!!!!!

 『鏖都アギュギテムの紅昏』のここが凄い!!!!!!!

・誰も見たことのないタイプのバトル!!

 本作の世界では、じゃんけんに負けると頭が破裂して死ぬ。

 な……なにを言っているのかわからねーと思うからもう一度言おう。

 じゃんけんに負けると頭が破裂して死ぬ世界だ。

 そうゆう世界で、個人間の戦闘技能はどのような発展を遂げるのか。それを突き詰めて考え抜いた結果、極限の知略戦闘が描かれることになった。敵の手のモーションから次に出される手が何なのかを予測する程度のことは登場人物全員が当たり前のようにできる。そういう世界だ。読者の度肝を抜く展開の数々が唸るほど盛り込まれている。ジョジョや福本漫画や嘘食いが好きな読者を殴り殺す自信はある。

・誰も見たことのない基地外キャラクターども!!

 本作の武術大会は「八鱗覇涛」と呼ばれるが、この参加者十六名全員が作者のクソ重感情を乗せまくった、他のどの作品でも見ることのできないキャラクター性を秘めている。基地外はお好きですか? 結構、必ず満足させて見せましょう。もちろん、ぶっ飛んでるだけで感情移入不可能な奴は……いや、いないこともないが、少数派だ!! 安心しろ!! 俺を信じろ!!

・誰も見たことのない奇妙な能力を秘めた武器の数々!!

 八鱗覇涛の参加者は、原則として「神聖八鱗拷問具アルマ・メディオクリタス」と呼ばれる武具を所持している。これらは普段は血中に溶けているが、宿主の意志に反応して凝固し、武器の形を取る。

 神が人間に与えた神聖な祭具であり、それぞれが奇抜な特殊能力を持っている。

 参加者は十六人。神聖八鱗拷問具も十六振り。

 追憶剣「カリテス」。忘却剣「オブリヴィオ」。
 起源槍「イニティウム」。終極槍「フィーニス」。
 演繹棍「インケルタ」。帰納棍「リガートゥル」。
 虚構鎌「フォルトゥム」。形象鎌「ウェリタス」。
 因果鎖「ノドゥス」。矛盾鎖「エブリエタス」。
 相似斧「アナロギア」。対称斧「アドウェルサス」。
 陰陽爪「クルトゥーラ」。太極爪「コグニティオ」。
 無謬刀「アルビトリウム」。迷妄刀「メルギトゥル」。

 どうですか!! 中二マインドにゾクゾク響きませんか!! 俺は響く!! 全部登場します!! 全部それぞれの名を冠するにふさわしい独創的な力を発揮します!! ビーム撃つとかカマイタチ飛ばすとかそんな凡庸な能力はひとつもないぜ!!

 武術と、じゃんけんと、拷問具の特殊能力。

 この三つの要素を組み合わせて、登場人物たちは極限の死闘を展開する!!

未来へ

 いかがだったろうか。拙作『鏖都アギュギテムの紅昏』は、『異修羅』好きな真の男を必ず満足させられる傑作だと確信している。

 しているが、現実の評価は厳しいものだ。

 いったい俺に何が足りないのか? その答えはいまだ見つかっていない。この両作品を読み比べれば、受ける作品と受けない作品の違いというものに新たな理解が得られるかもしれない。

 もし何かわかったら、教えてくれると嬉しい。俺はダメ出しが欲しい。自分に何が足りないのか知りたい。

 だがやっぱり『鏖都アギュギテムの紅昏』は超傑作にしか思えないので、問答無用でおすすめするぞ!!!! この土日でにも、どうですか!!!! お客さん!!!!!!


この記事が参加している募集

推薦図書

小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。