見出し画像

絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #12

  目次

 ――アンタゴニアスの武力によって、〈法務院〉を叩き潰し、その体制を物理的に崩壊させることは可能であった。
 第三大罪メタ・オブリビオンによる大規模な技術の失伝は、メタルセルユニット構造の電子神経網へのアクセス難易度を信じられないほど跳ね上げた。そこに蓄積されていたはずの古の叡智に、人類は手を伸ばすことすらできなくなったのだ。
 結果、機動牢獄なる劣化品が出回ることになる。人類の持てる力は、かつてアーカロトが本当にただの少年であった頃とは比較にならぬほど衰えていた。
 ゆえに、容易とまでは言わないが、可能ではあるのだ。アンタゴニアス一機で〈法務院〉を倒すことは。
 だが――意味がない。
 アーカロトは、〈法務院〉が敷く秩序を言下に否定できないでいた。罪業変換機関にすがらねば生きていけぬ状況下で、むしろよく人民を導いているとすら思う。コンスタントに重罪を犯させながら、同時に社会の秩序は維持し続けるという無理難題を、彼らは厳密な階級制と、食糧配給券の流通制御と、手厚い医療福祉によって成し遂げた。
 〈無限蛇〉を十全に稼働させれば、現在の全人類に十分な食料をいきわたらせることは容易である。だが、衣食足りれば礼節を知ってしまい、社会全体が産出する罪業量が見る影もなく目減りし、結果文明の崩壊を招いてしまう。ゆえに、人口のほとんどを占める貧民たちには、うち何割かが意図的に飢えるよう、配給券の流通を制限しているのだ。
 貧民たちは配給券を奪い合って罪を重ね、それが〈無限蛇〉の次なる活力となるのである。目覚ましい罪業をその魂に宿した者は〈原罪兵〉に改造され、発信機とともに野に放たれ、そこでさらに十分な罪業を溜めれば機動牢獄収監の栄に浴することになる。そして貧民たちの反乱に対する絶対的な抑止力となるのだ。
 その一方で、医療面に関しては、下層民を非常に手厚く保護していた。事故や病気による死ほど無意味な死はない。それは端的に言って人材リソースの無為な損失である。ゆえに治療技術は奇妙な発展を遂げ、この分野だけは失楽園以前にそう引けを取らない水準である。
 この現状を踏まえたうえで、「誰も泣かない世界」を実現させるために、なにをすべきなのか。

 ――何はなくとも、罪業変換機関への依存を断ち切らないことにはお話にならないのである。

【続く】

 こちらもおススメ!


小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。