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バイオ系スタートアップ創業初期の資金繰り ~2021年マザーズ上場 レナサイエンス社に学ぶ~

はじめに


 2021年9月24日に東証マザーズにIPO(新規株式公開)をした東北大発ベンチャー、株式会社レナサイエンス。東北大学の宮田敏男教授の研究成果を社会実装するべく2000年に会社設立され、およそ20年を経てIPOを果たし、さらなる資金を調達しました。

 本記事では、IPOまでの資金調達・収益等を見ながら、レナサイエンス社を例に、医療系スタートアップの活動資金源について少し触れたいと思います。

※記事経験が少なく拙い文章ですが、今後少しずつ上達していければと思います。

1. 会社概要

1-1. 会社設立 

 レナサイエンス社は2000年2月に宮田教授(2000年時点では東海大学助教授)の研究成果を社会実装するべく大学発の創薬ベンチャーとして設立されました。当時の宮田先生はカルボニルストレスや腎疾患(尿毒素等)の関する論文を多く刊行されています。カルボニルストレス含む酸化ストレスは疾患の病態との関わりが強く、糖尿病(*1)、腎臓病(*2)、統合失調症(*3)、アルツハイマー病(*4)、、、との関連が示唆されているようです。

*1: http://www.biomed.cas.cz/physiolres/pdf/59/59_147.pdf
*2: https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/1354750X.2012.749302?journalCode=ibmk20
*3: https://www.life-science-alliance.org/content/2/5/e201900478
*4: https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad190644


1-2. 事業概要

・パイプライン型ビジネスモデル
 レナサイエンス社は創薬パイプライン型のビジネスモデルです。パイプライン型以外の創薬ベンチャーのビジネスモデルの代表格といえば、ペプチドリーム社のようなプラットフォーム型のビジネスモデルです。

パイプライン

※上図は概念図であり、一企業が一つのビジネスモデルを採用しているわけではないです。参考までに。こちらでより詳細に解説されています。

 パイプライン型が自社で創薬シーズを開発するのに対し、プラットフォーム型は創薬シーズを発掘する技術を提供するモデルです。

 古典的なパイプライン型のビジネスモデルでは売上までに資金と時間がかかる一方、効果の高い医薬品で市場を独占できれば非常に大きなリターンが得られます。(1種類で年間1兆年を超える売り上げも;2020年医薬品売上ランキング
 しかし開発に失敗することの金銭的リスクが非常に大きいモデルですし、複数のシーズ開発は資金の制約上、現実的には難しいため、会社の死に繋がります。

 そこで台頭してきたのがプラットフォーム型のビジネスモデルであり、独自性が高い、且つ高速なスクリーニング系を提供し、開発のマイルストーンによって一定の報酬を享受します。パイプライン型とプラットフォーム型では当然ビジネスの核となる特許戦略も異なりますが、別の記事で共有できればと思います。

 レナサイエンス社の開発パイプラインは以下のような構成です。

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 ※レナサイエンス社 目論見書-SBI証券 より

 PAI-1阻害薬やピリドキサミンが臨床に進んでいます。ピリドキサミンはビタミンB6の一種で、2割程度の統合失調症患者で報告されているカルボニルストレスの亢進を抑制することが示されています。PAI-1は血栓性疾患の病態に関わっていることが知られており、宮田先生のグループはPAI-1に作用する低分子化合物によって抗血栓作用を示すことを報告しています(Izuhara et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2008)。当初はこの抗血栓作用での開発を目指していたようですが、マウス骨髄移植の際にPAI-1阻害薬を投与することで造血幹細胞の再生を亢進させることを発見し、慢性骨髄性白血病のパイプラインでもこの作用機序が基になっているようです(段 孝, 血栓止血誌, 2015)。2000年の段階ではわからなかったPAI-1の機能がその後の基礎研究によって明らかになり、パイプラインも増えていったと思われます。PAI-1阻害薬、ピリドキサミンの創薬パイプラインだけでなく、腹膜透析に使われる医療機器や人工知能(AI)を活用した診断システム、評価システムの開発と、腎疾患を中心に幅広い事業を行なっていることが分かります。

・コア技術(知財状況)
 レナサイエンス社関連特許はこれまでに18件で(2021年9月時点)、多くが物質特許で、用途特許や製法特許も一部あります。(参考:医薬品における特許とは)最も古い化合物の出願日が2005年で、他の化合物は2005~2011年が多いので、5年間の延長を考えると、あと10年ほどは切れません。パイプライン型なのでコア技術はシーズの物質特許に依存すると思いますが、2016年の 加齢黄斑変性症予防薬の特許以降、新規の物質特許は出ていません。

※ちなみに今回のIPOでの調達額約16億円(手取り概算)のうち、間質性肺炎、グリオブラストーマに2000万円の基礎研究費、AI関連に1.5億円、抗体医薬や核酸医薬等の新しいモダリティの医師主導治験を実施資金(導入資金)に6億円ほど投資するようで、今後はAI関連や低分子以外の薬剤のパイプラインは増えそうですが、自社でのシーズ探索に注力するかは不明ですね。


2. 資金調達・収益

2-1. VCからの資金調達歴
 過去VCからの資金調達は2018年にDCIパートナーズ、ケイエスピー、東北大学ベンチャーパートナーズから8.5億円調達し、その後2019年に1.3億円、2021年に2.4億円調達の後にIPOをしました。一般的なスタートアップの資金調達では数百~数千万円のシードラウンドから、ラウンドA→B→C→D→IPOという流れが多いですが、レナサイエンス社はアーリーフェーズ(シード~ラウンドA辺り)での調達はなく、初回8.5億円の資金調達を実施しました。

2-2. 公的資金による研究開発
 レナサイエンス社は設立から2年後の2002年に経済産業省の大学発事業創出実用化研究事業(現在はNEDOに移管)に採択された後、2012年と2014年のJST A-STEPに採択され、公的資金を獲得しています。その間の記載はHP上ありませんが、宮田教授ご自身は基盤A(数千万円規模)を何度か獲得されています。また、目論見書では2005年にNEDO大学発事業創出実用化研究事業に採択されていることが記載されています。~2012年までは知財の出願履歴を見ても新規物質特許の出願数が多く、探索フェーズであったことが分かります。
2019年にはAMED CiCLEという大型の公的資金を獲得しており、IPO直前の2021年5月にはAMED 橋渡しプログラムシーズCに採択されています。

2-3. ライセンス契約による売り上げ
 IPOまでのライセンス契約としては、2016年10月にEirion Therapeutics(米国)と、2019年にあすか製薬と、2020~2021年には極細内視鏡、呼吸器AI、新型コロナウイルス、AI透析に関して共同研究、オプション契約等を締結しています。Eirion Therapeuticsとの契約のあった2017年3月決算では事業収益として約7000万円が計上されており、あすか製薬との契約も事業収益の額から同規模であったと推測されます。ライセンスやオプション契約等が続いた2021年3月決算では2.1億円の収益を計上しています。
以下、目論見書よりライセンス収益情報を転載しています。

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創業初期の資金調達について(まとめ)

 近年のスタートアップはシードラウンドから外部投資家を入れることが頻繁にある中で、公的資金を活用し、ライセンス契約を経て外部投資家から資金調達したという点でピックアップしました。以前と比較しスタートアップや創業直前で使える公的資金もJST, NEDO, AMED(医薬品、医療機器)をはじめいくつかありますので、上手く活用しながら事業をスケールすることも十分可能であると思います。
 外部投資家を入れることのメリットとデメリットはありますが、医薬品開発は非常に時間がかかる一方、VCのファンドの期限は10年+2~3年が多いので、それまでにExit(IPO及びM&Aのタイミング;投資家が当該企業の株式を売却してキャピタルゲインを得ること)が望まれます。外部投資家を入れるタイミングは重要ですね。メリットデメリットの話は、後々別の記事で紹介できればと思います。

 レナサイエンス社では2005年にNEDO⼤学発事業創出実⽤化研究事業の採択以降約7年間、外部からの資金調達やライセンス契約は(HP及び目論見書の沿革欄を見る限り)記載がありませんでした。公的資金で賄っていたと考えられ、その期間を基礎研究と特許取得に力を入れ、治験は大学と連携し、医師主導治験で実施していました。知財が固まり、他のモダリティのパイプラインも第II相の治験に進み始めたタイミングで、一気にアクセルを踏むために外部投資家を入れ、まとまった資金を調達したのではないかと思いました。

 公的資金をうまく活用している他の例では、東大発ベンチャーのジェリクル社がVCの出資を受けず事業を拡大しています。年々スタートアップの資金源も増えていますので、出資だけでなく融資や公的資金も念頭に入れ、上手く活用していきたいですね。


のうさぎ(バイオ系の研究してます)


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