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24/01/27(土)THE BEAT☆RUSH@福生市民会館

 ある本を読んでいて、“ザ・ビートルズ(以下、ビートルズ)が活動していた頃にドラムのリンゴ・スターが使っていたものとほぼ全て同じ機材を持っているドラマーが日本にいる”と知った。(書籍「革新の天才ドラマー リンゴ・スター研究」より)そのタイミングでそのドラマーがメンバーとして活動ているビートルズのトリビュートバンドが数日後にライブを予定していると分かったら、それは気になるというものだ。
 
 その方の名前は杉澤高史さん。「あんちゃん・☆」という名前で音楽活動をされていて、自身のライブはいつも必ず自前の機材を全て持ち込んでいるそうだ。氏のトリビュートバンド「THE BEAT☆RUSH」は世界的に評価されているビートルズのトリビュートバンドのようで、興味はますます募るばかり。気付けば開催前日にチケットを購入し、神奈川の隅からはるばる福生へ向かっていた。

24/01/27 福生市民会館
THE BEATLES MEMORIES 〜 NOW AND THEN トーク&ライヴ〜

MC: カンケ
トークゲスト:伊藤銀次・杉真理
トリビュートバンド:THE BEAT☆RUSH
https://fussa-shiminkaikan.jp/event/240127.php
※リンクは2月1日現在はすでに「過去のイベント」となっています



 本編はTHE BEAT☆RUSHによるビートルズの楽曲演奏と、MCとゲストによるビートルズにまつわるトークが交互に行われるスタイルで行われた。THE BEAT☆RUSHの演奏は正に気持ち良いの一言!私のような初見の人間もしっかりと惹きこむキレ味のあるシャウトがかったカウントで始まる演奏。なんと瑞々しかっただろうか。演奏のテンションはもちろんのこと、本家メンバーの歌い癖、イギリス英語の発音、ファンなら思わずニヤっとしてしまうMVのちょっとしたワンシーンの再現など、随所に満遍なくリスペクトを感じる本気のパフォーマンスだった。そんなに深くビートルズを聴き込んでいるわけではなかった自分でさえ、「これはCDで聴いたあの音だ!」と思わされる、確かに記憶とリンクするバンドサウンドのリアリティ。MCのカンケさんによるとドラマーの方だけでなくメンバー全員が機材にはかなり拘っているそうだ。
 
 そして個人的な目当てだった杉澤氏によるドラミング。カバーバンドやトリビュートバンドの一つの評価の表現に褒め言葉としての「完コピ」という言葉が用いられるが、そんな言葉を使うのは却って無粋のような、もはや芸術というべき「リンゴ・スター」の演奏だった。シンバルを設置するスタンドまでもリンゴと同じものを使っているという機材への徹底ぶり、演奏のフレーズやダイナミクスの機微、演奏時の身体の動き、表情に至るまで全てリンゴ・スターへの愛で溢れていた。究極のリスペクトは芸術になるのだ。何より歌声が本当に素晴らしかった。
 
 THE BEAT☆RUSHがビートルズの楽曲を披露するたびにの楽曲の魅力を、そして杉澤氏を通してリンゴ・スターというドラマーがビートルズにとってどれだけ重要な役割を果たしていたかを、私は何度も再確認した。バンドのアンサンブルを大事にしながらビート一辺倒にならないモダンでユニークなアプローチを盛り込み、それでいて楽曲は至ってポップで人が思わず耳を傾けて聴いてしまう…そんなバンドでドラムが叩けたならドラマー冥利に尽きるというものだが、そんなクリエイティブなことを何十年も前から既にやっていた人、それがリンゴ・スターでありバンドとしてのビートルズなのかもしれない。

 私はビートルズが活動していた頃はそもそも生まれていないので、リアルタイムで彼らを追う事は叶わなかった世代である。しかしTHE BEAT☆RUSHという素晴らしいトリビュートバンドを通じて、この目で見ることが叶わなかったバンドの音楽を、生演奏で、大きな会場で全身で浴びるというライブ体験を少しでも自分の中に抱くことができたのはとても貴重な出来事だった。帰りの電車の関係で途中で抜けなくてはならなかったことが本当に悔やまれたので、また是非観たい。

 最後に、今回のnoteはTHE BEAT☆RUSHのライブレポートを主な内容として書こうと決めたため余談のような形で少しだけの記載になってしまうけれど、MCカンケ氏とトークゲストとして登壇されていた伊藤銀次氏・杉真理氏によるリアルタイム世代ビートルズ話や、お二人のこれまでの制作活動にまつわるエピソードも本当に面白かった。「イエローサブマリン音頭」を聴かなくては。時代背景と共に音楽を考察するのはとても刺激的な時間だ。そして半ばサプライズ的に披露された伊藤氏と杉氏によるビートルズの「If I Fell」は、伊藤氏が歌い出した瞬間その場の景色がセピア色になったようなほろ苦い切なさを帯びた温もりを感じるひと時だった。


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