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第二章十一話 高校三年順子、決戦

やっと十一話。長かった。既に第一章、第二章合わせて十二万字。第一章一話を始めたのが11月24日。三週間。まあ、SFと違って何も考えないで書けてしまうんですけどね。一話七千字で一時間弱、手間がかかりません。電子ボルトで悩む必要もなく、水素爆弾の球状爆発で、水爆間は何パーセク離さないといけないか?で計算する必要もない。1981年になにが起こったか?という時代考証をする必要もない。これは楽ですわ。

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性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第二章十一話 高校三年順子、決戦

 順子が倒されたところに、タケシたちが追いついてきた。工場から駆け出した楓と佳子もタケシたちに追いつく。これで七人。楓が数えると向こうは八人だ。こっちは男二人に女五人。向こうは?え~?男五人に女三人。順子は意識がなく横たわっている。

 ちょっと、分が悪いわね?と楓は思った。

 美久はざっと相手を数えて、タケシに言う。「タケシさん、私は康夫をやる。タケシさんは、あの子牛みたいな浩二を羽生さんとやっつけて。二人がかりじゃないと無理よ、あれは。南禅さんはゴメン、ヤンキー三人よ。節子と佳子は、恭子、敏子と恵美子をやっちまいな」とみんなに言った。「美久お姉さま、私は?」と楓が美久に聞く。「楓さんは後ろにいて。危ないから」と答えた。「美久お姉さま、私は節子さんと佳子さんに加勢するわ」と言った。「カエデ、気をつけて!」とタケシが言う。
 
 楓が節子と佳子に「私、喧嘩なんて初めて」とコソッと言った。節子が「楓さん、危ないよ。私らに任せて、って言っても私と佳子、喧嘩が強くないんだよ」と言う。楓が「あら?ホント?困ったわね。で、この三人、強いの」と聞くと、佳子が「楓さん、私らより強いよ。特に、真ん中のチビが格闘技やっててさ」という。

「それは困ったわ。じゃあ、左右のノッポと可愛子ちゃん、節子さんと佳子さんでお願いね。私は真ん中のチビをやるわ」「楓さん、危ねえよ、チビなめちゃあ」と節子。「なに言っているんですか?二人共。私があげた口紅持ってる?首にぶら下がっているでしょ?」と二人に言った。

「あ!」と節子と佳子。「二人共いくわよ。接近戦でシュッとやるのよ。叩き潰しましょう!」

「三人でぶつくさなに言ってやがる。かかってこいよ、ノッポの嬢ちゃん」とチビの恭子が敏子と同じ長身の楓に言う。レスリングの構えだ。楓が恭子に突進する。(陸上部の脚力とステップワーク、見せてやる)恭子が楓を捕まえようとする。横にステップを踏んでヒラッと楓が恭子をかわす。恭子とすれ違いざまに、シュッと催涙スプレーを恭子の目に吹きかけた。途端に両手で目を抑えて突っ伏す恭子。のたうち回る。(ほら、一丁上がり。口ほどにもない)

 左右を見ると、節子が敏子にぶん殴られたがなんとかスプレーをおみまいした。佳子は恵美子に倒されたところで、のしかかる恵美子の目に催涙スプレーをおみまい。敏子も恵美子も突っ伏して転げ回る。

「ヘッヘェ、頭脳の勝利よ」と楓は手近の地面にあったこぶし大の石を拾った。のたうち回る恭子を押さえつけ、馬乗りになって、頭に石をゴツンと叩きつける。「こんにゃろ!」恭子はピクッとして悶絶する。「チビ、よっわ~い。ざまあみろ!って、あら、私ったらはしたない」

 節子も佳子も見習って敏子と恵美子に馬乗りになってぶん殴って気絶させた。節子と佳子は顔を見合わせた。「実は、美久ネエさんと順子よりも楓ちゃんの方が強いんじゃない?」と佳子が言った。

 あたりを見回すと、他のみんなは苦戦している。他の人間の様子を察知した楓が「節子さん、佳子さん、南禅さんに加勢して」と言った。

 楓は康夫と闘っている美久の方に行く。楓は「美久さん、口紅よ、催涙ね」と言って、美久の横を駆け去って、タケシの後ろにつく。「お兄、後ろに手を出して。口紅よ」とタケシに催涙スプレーを手渡す。「私は危ないから、下がっているわね」と言って、距離をとった。

 私もアラフォーで、さすがに男三人はキツイわ。組み手と実践じゃあ違うしねえ、と南禅が思っていると、節子と佳子がきた。「節子、佳子、危ないよ」と言うと、「南禅さん、ほら、催涙」と佳子が南禅にスプレーを手渡す。「私ら弱いからね。南禅さんがシュッとやってよ。私と節子は左の一人をやるから南禅さんは残りお願い」と言う。

「ほほぉ、こいつが役に立つか」と南禅が言って、「ケッ!ゴキブリめ」とあっという間に催涙を浴びせ二人をのした。節子と佳子も二人がかりなら大丈夫だ。蹴りを入れて、股間を蹴り上げる。節子が「ふん、浴びやがれ!」と残りのスプレーを浴びせた。

「いやぁ、この仔牛ちゃん、強いね、タケシくん」と羽生が言う。「ぼくもぶん殴られてフラフラですよ。合気道技なんて効かない」「おっかしいなあ、自衛隊の体技も効かないよ。あの分厚い筋肉でパンチが弾き返される」二人は浩二の両腕のウェスタンラリアートを食らって仰向けざまにのびる。

 浩二は羽生に馬乗りにのしかかってぶん殴り始めた。タケシは浩二の後ろからチョークスリーパーで浩二の首を締め上げるが、太い首に手が回りきらない。しょうがない、最後はこれか?と催涙スプレーを浩二の目に残り全部吹き付けた。

 タケシは弾き飛ばされる。浩二は馬乗りになっていた羽生の上からどいた。目を押さえて膝立ちする。よろよろして羽生は立ち上がり、目を押さえている浩二の側頭部に回し蹴りを食らわせた。タケシも浩二の後頭部に頭突きを食らわせる。さすがに浩二も横ざまにぶっ倒れた。

 康夫は手強い。順子にやられてダメージを受けているがそれでも美久の攻撃を受けてかわしている。こっちは美久一人。そこに、三人組に腹をしこたま蹴られていて、フラフラになった順子が意識を取り戻して近寄ってきて、美久の横に立った。「ケッ!美久、こいつはわたしの相手なんだよ!」と言って康夫に殴りかかる。康夫は弱っている順子の腹に蹴りをみまった。ひざまずく順子。

 クッソォ、康夫は喧嘩なれしてやがる。こいつに催涙吹き付けるスキがない、と美久は思った。美久の突きがかわされる。康夫のパンチがフック気味に美久の顔にめり込む。この野郎、乙女の顔を傷つけやがって。

 康夫のパンチにたじろがず、美久は前に出た。じゃあぁ、バックハンドで首筋に袈裟斬りチョップじゃあどぉかぁ~?橋本真也直伝「ツバメ返し」だぜぇ~!と美久が体を回転させて康夫の首筋にチョップを食らわす。フラッとする康夫。いったぜ、チクショウ!おまけだ!と、美久は康夫の脇腹に回し蹴りを食らわした。しかし、その脚を持ち抱えられた。逆に後ろから羽交い締めにされる。「おいおい、美久さん、こういう場面じゃなかったら、順子や三人組よりもいい女のおまえを犯してやるのにな」と美久の首筋に息を吹きかける。

 いつの間にか楓がどこから探してきたのか鉄パイプを持って前に出ようとする。順子が腹を押さえながら起き上がって手で楓を制止する。「嬢ちゃん、危ないぜ、下がってろよ」という。「じゃあ、順子、このパイプ」と楓は順子にパイプを手渡した。パイプを杖に順子は腹を抑えながら立ち上がった。美久は康夫に後から羽交い締めにされ首を絞められて意識が朦朧としてきた。

 順子は力をふり絞って、美久と康夫に駆け寄ると、「美久、頭を下げろ」と大声で言って、飛び上がりざま、横殴りに康夫の側頭部にパイプを叩きつけた。美久を羽交い締めにしていた康夫の力が抜けた。美久は自由になった。

 さらにパイプをおみまいしようとする順子をゼイゼイいいながら美久は止めた。「順子、それは過剰防衛だ。殺しちゃおまえ重罪になるぜ。その代わりに私がいいものを康夫に食らわしてやるよ」とネックレスを引きちぎって、催涙スプレーを構えて、康夫の目に全量吹きかけた。意識が朦朧となっていた康夫は激痛に転げ回った。

「美久お姉さま、この石、手頃よ」と楓がトコトコとよってきて「こんにゃろ!」と美久が止めるまもなく、康夫の頭にこぶし大の石を叩きつけた。楓さん、やること、大胆、と美久は思った。

 南禅と羽生、タケシがヤンキー共をひとっ所に引きずって集めた。

 順子はぶっ倒れて、腹を抑えている。

 サイレンの音が聞こえ、警官たちがやってきた。楓が警察に通報して、救急車も呼んでいた。

 工場からグラウンドに警官たちがやってきた。楓は腰に両手を当てて「お巡りさん達、遅いよぉー。終わっちゃったよ」と言った。「お巡りさん達、廃工場にいる紗栄子さんと智子さんともう一人は?」と聞くと、節子と紗栄子が拉致された時と同じ警官が「今、救急隊員が手当をしている。しかし、大乱闘だな。こいつらが犯人か?八人か?」と言う。康夫、浩二、ギャルとヤンキーの三人組。

 腹を押さえて横たわっていた順子が半身を起こして言う。「お巡りさん、私もだ。九人だよ」と言った。

 美久が順子に駆け寄る。「痛てて。痛え。クソォ、やってくれたぜ」と順子が言う。「美久、恩になんかきねえからな。笑えよ。康夫と恭子、敏子と恵美子に裏切られた私を。紗栄子と智子は気の毒したぜ。止めようとしたんだがな。信じてもらえないだろうけど」と美久に言った。「このバカヤロウ!順子・・・」と美久。

 楓が「お巡りさん、私と節子さんと佳子さん、救急車に一緒に乗ってっちゃダメですか?紗栄子さんと智子さんがどうなるのか、一緒にいないと。あとで、取り調べ?というのは受けますから」と警官にたずねた。「ああ、この警官と一緒に行ってください」と言われて廃工場に楓と節子、佳子は戻っていった。

 警官が「派手にやったもんだ。早く通報してくれればいいものを」と美久に言う。「お巡りさん、通報するもなにもないよ。紗栄子と順子が智子の後を追って、コイツらにつかまって、こっちはトラッカーでなんとか追跡してここを割り出したんだ。間に合ったかどうか。警察ってのはいつも遅いんだよ。犯罪が発生しないと動かないんだよ」と美久も腹を抑えて言う。

「お巡りさん、ぼくらとコイツラも手当が必要ですよ。追加の救急車とパトカーが必要では?」とタケシ。警察官が「それは手配しています。なんだ、キミは美久の彼氏か。あれ?そこのお二人さんも前の時おられましたよね?」と警官はタケシと南禅、羽生を見て言う。

「ハイ、自衛官です。私が羽生二等空佐、こちらが南禅二等空佐であります」とゼイゼイいいながら場違いな敬礼をする。「お勤めご苦労さまです」と警官も敬礼をし返す。

「南禅、犯人逮捕と正当防衛で言い訳が立つかなあ?自衛官乱闘、なんてマスコミに出るとマズイな。広報にも言っとかないとなあ」と羽生。「まあ、羽生くん、私らはこってり上から絞られますよ」と南禅。

「いえ、お二人は犯人逮捕補助で、まあ、調書は書いておきます。これからどうなるかわかりませんがね。女の子が助かればいいんだが。こっちも所轄の身ですから。千住警察署の生活安全課(少年犯罪担当部署)担当なのか、半グレ絡みで刑事組織犯罪対策課担当なのか、本店(警視庁)が出てくるのか、所轄区域でOK牧場の決闘をやられたんで、こっちも大目玉ですよ」と警官。「お互い苦労しますね?ご苦労さまです」と羽生。

「いずれにしろ、美久、みなさん、みなさんがいなかったら、こんなに早くコイツらを逮捕できなかったでしょう。お礼申し上げます」と警官が敬礼を美久たちにした。

 話のわかる人だわ、このお巡りさん。しかしなあ、これ楓さんがいなかったら、絶対に負けていたね、楓さん、スゲえなあ、と美久は思った。兵藤楓。わたしの義理の妹になっちゃうの?わたしも『兵藤美久』だって!キャッ!おっと、バカなことを妄想してちゃいけない。病院に行かないと・・・

 警官が付近を捜索した所、紗栄子のバイクとカメラバッグを発見した。順子のマンションを捜索すれば、物的証拠も出てくるので、紗栄子が盗撮した動画は副次的な証拠になるが、少なくとも四人がクスリをやっていたことはわかる。紗栄子と順子の会話も動画に残っている。順子の弁護の役にたつだろう。それに、この動画で順子の目が覚めたのが一番大きい効果だった。



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