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カクテル、"Campari"、「カンパリ」

150年以上もの歴史を持つも、未だにレシピは謎に包まれているミステリアスなリキュール「カンパリ」

カンパリのカクテルでよく使われているのは、「レッド・ベルモット」。ジェームズ・ボンドが好きなマティーニに使うのは、白の「ドライ・ベルモット」。彼は「マティーニを。ステアせずシェイクして」という注文。バースプーンでかき混ぜるのではなく、ちゃんと振って、冷やしてちょうだい、という話なんでしょう。一気に飲んじゃうからシェイクしても問題ないんだろうけどね。

Recreated - Vesper Martini from Casino Royale

『007 カジノ・ロワイヤル』では、ゴードンズのジンを三オンス 、ウォッカを一オンス、キナ・リレ(Kina Lillet)半オンスに氷を加え、単に混ぜるだけではなく、氷で冷たくなるまでよくシェイクし、大きめに薄く削いだレモンの皮を入れる、なんて注文をしますが、バーテンからすればこんな面倒くさい客、叩き出します。

第一、キナ・リレなんてベルモット、普通のバーに置いてありません。キニーネが入ったベルモット(白ワイン+コニャック+香草)です。こんな回転の悪い酒、狭い酒瓶棚に置いておけません。「旦那、ウチは、マティーニ社とチンザノ社の普通のベルモットしかありませんや」と言われるのがオチです。

えっと、何の話でしたっけ?あ、そうそう、カンパリのカクテルの話で、ドライベルモットではなく、レッドベルモットの話でした。カンパリのカクテルでよく使うのは、チンザノ・ベルモット・ロッソとか、フレンチベルモットのノイリー・プラットカルパノなんて置いてあるバーは好感が持てますが。

ネグローニは、ジン、レッド・ベルモット、カンパリを同量ずつ合わせて、氷を入れたグラスに注いでステア、最後にオレンジスライスを添えて、というカクテルです。「カンパリオレンジ」や「カンパリソーダ」のようにジュースやソーダで割らない、ジンも入っているので、かなり強いカクテルです。女性の方は、飲みやすいけど、ご用心を。

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"Negroni"、「ネグローニ」

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久しぶりの土日の連休

 久しぶりの土日の連休がとれた。

 会社のある神田を出て、さて、どうしようか?と思った。同僚は飲もうぜ、と言ってくれたが、どうにも東京で飲む気はしない。ぼくの帰る場所は横浜だ、東京ではない。

 6時45分に神田駅の京浜東北線に乗った。7時18分には降りるはずの鶴見駅に停車した。でも、降りる気はしない。電車は、そのまま新子安、東神奈川、横浜と走っていった。それでも降りる気はしない。桜木町、関内。降りなかった。石川町。石川町。

 いいじゃないか。時間は7時半。そろそろとバーが活気が出る時間だ。

 鶴見で降りようと思っていたから先頭車両に乗ってしまった。それでは元町口だ。プラットホームを京浜東北線10輌分鶴見方向に戻って、中華街口へ歩いた。

 石川町の駅を出て、さて、どこに行こうかと思った。

 ホリデイインか?コペンハーゲンか?

 今日は、どちらも行く気がしない。どうせ知り合いが誰かいる。

 ケーブルカーだ。ぼくはすたすたと中華街に入って、加賀警察署のある右に折れた。

 金曜日の夜にも関わらず、店はすいていた。もちろん、まだ8時半。みな食事の後に来るのだから、後1時間は暇なんだろう。景気も悪いことだし。

 カウンターに座る。

 ぼくから4席右手において、ぼくと同年配らしい女性が一人で飲んでいる。大きめのタンブラーにカクテルか何か、with iceで飲んでいる。ま、ぼくには関係のない話。

 バーテンが来た。「フランクぅ~、一人かよ?」となじみのバーテンが言う。ちょっとカマっぽい言葉遣いで、優男に見えるが、ジムに通ってボクシングをやっている。ブルースリーみたいな体のヤツだ。喧嘩の時は無茶苦茶活躍する。「おい、ピート、ちょっとはぼくに殴らせたって良いだろ?」「フランク、こういうチンピラどもを片付けるのはおまえじゃねえよ。会社勤めの人間を加賀警察署にしょっ引かせるわけにはいかないぜ。」「おまえなあ、そんなこと言って、女の前で格好良くしたいだけじゃないか?」「あ!フランク、わかったぁ~?」と彼は相手の胸ぐらを掴んで、目立つ顔じゃなく、ボディーにずしんずしんと重いパンチをくりだすんだ。ありゃあ、きく。ぼくも食らったことがある。肝臓と腎臓と下からたたき込むように打つんだ。可哀想に。チンピラは2日は寝るのも立つのも右脇腹を押さえて、うなるんだろうなあ。マッポも顔が傷ついてないとあまり傷害のポイントをつけないからねえ。

 ピートがカウンターから乗り出して、小声で囁いた。

「フランクぅ~、お隣さん、わけありみたいだぜぇ~」
「ピート、ぼくは酒を飲みに来たんだよ」
「俺は忙しいからな、金曜日の夜だしよ。だから、おまえに譲ってやるよ」
「そういう話ではなくて、ぼくは女は最近こりごりなんだよ」
「フランクぅ~、なんかわけありらしいぜ、酒でも奢ってやって、話を聞いてやれよ」
「面倒くさいなあ・・・ま、いいけど・・・」ピートは彼女にお代わりをぼくのおごりということで(もちろん、金を払うのはぼくだ)作った。

 彼女がこっちを向いてグラスをかかげて「サンキュー」と言った。「いや別に」とぼくが言う。

 彼女が顔をしかめた。「いや別に」とぼくがそっけなく言ったので、ご機嫌を損ねたんだろうか?彼女がぼくをみて言った。「あのさ、『いや別に』ってそっけないわね?何か底意がなくってお酒を奢ってくれる人はいないわよね?」と眉根にしわを寄せて言う。

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「なに、金曜日の夜だし、それにしては客はぼくらだけ。底意がなくって、たった一杯の酒を女性に差し上げても許されると思うよ、ぼくは」とボソリと言った。「酒できっかけをつかもうなんて、安上がりすぎるよ、楽しく飲んでいただければ幸いだよ、たまさか、土日休みでハッピーなんだよ、ぼくは。だから酒の一杯くらいは奢りますよ」「ふ~ん、気前が良いのね?」「席4つ離れて、眉間に眉寄せて飲んでいれば楽しそうじゃなさそうだからな、だから、ま、楽しく飲めよ」とぼくは言った。

「おい、キミ、私が楽しい、楽しくない、そんなことは関係ないじゃないの?」
「でも、気になる・・・」
「理屈っぽい男ね、アンタ」
「ぼくはアンタじゃないよ、フランク・ロイドって名前があるよ」
「・・・私、安西薫。どっちを呼べばいいのよ?」
「どっちってのは?」
「フランクか?ロイドか?どっちなの?」
「ああ、フランクでよろしい」
「じゃあ、私もカオルと呼んでね」

 彼女はバーのカウンターのハイチェアから降りて、席4つ歩いてきて、ぼくの横に座った。

「変なヤツ」と彼女が言った。
「誰が?」
「フランクが・・・」
「なんで?」
「ふつう、女の子に酒を奢ったら、アリクイみたいにすり寄って『横の席に座ってもいいですか?』なんてきくけど、フランクは動かないわよ」
「だって、面倒くさいじゃないか?」
「わけ、わかんない・・・」

 ま、そういうわけで、何かわけありの安西カオルと飲む羽目になった。ピートがニタニタしてグラスを磨いている。

 カオルは関内の企業に勤めるOL。男性関係が錯綜していて、悩んでいるとか言っている。「ピート、お代わりだよ、お代わり。ぼくには17年、彼女は・・・ああ、ネグローニね」「ラジャー!」
※ネグローニ:ジン、レッド・ベルモット、カンパリを30ミリリットルずつ合わせ、氷を入れたグラスに注いでステアし、最後にオレンジスライスを入れて完成。イタリアンカクテルとしてもっとも有名なカクテルのひとつ。

「フランクは女性問題はなさそうねえ・・・」とカオルが言う。
「おいおい、ぼくはホモではないですから、女性と付き合いますし、付き合うと女性独特の、問題がないのに問題を創出するなんてことで、一杯抱えてましたよ」
「あれ?それって、過去形?」
「面倒くさくなっちゃってさ」
「いいなあ、それで解決できるんだ・・・」

 結構酔っぱらったカオルがボソボソと自分の事情を話し出した。

 彼女は、酔ってしまうと、相手を選ばずに退社後、ホテルに行ってしまうようなんだ。今年26歳になるが、十代でも通用する愛らしいルックスの彼女は、これまで霞ヶ関、有楽町、渋谷の会社を転々としてきた。「誰でもいいって思ってるわけじゃないんだけど、酔うと、そうなっちゃうみたい。酔っ払うときって、いっぱい飲んでるわけでしょ?そのときは、きっと飲みたい理由がなにかあるんだけど、自分でもよくわからないの」なのだそうだが、会社を移ることになる原因が、この退社後のセックスのため。

「カオルにしてみれば、帰りのタクシー代が浮くからいいや、くらいの軽い気持ちで一緒にホテルに行くのよ。そうだと思う。そういうとき、ほとんど記憶ないから、朝起きるまで、相手が誰かもよくわかってないし」
「おいおい・・・」

 つまり、会社の同僚や上司、隣で飲んでいる見知らぬ他人、誰でも寝てしまうんだそうだ、酔っぱらったら。相手にしてみればラッキーだが、カオルには、色々な意味でかなり危なっかしい話。
 
 実際、「勘違いした相手が彼氏ヅラしてやたら連絡してきたり、退社後に誘ってきたりするけど、全然そんな気になれないから、断わるでしょ。そうすると『アイツは誰でも寝てる』って噂流されたりして、会社にいるのがウザくなる」ため、別の会社に転々と移っているというわけだそうだ。

「それ、カオル、病気だよ、病気。誰でも彼でも寝てしまってはいけないよ」
「あら、私、まだ酔っぱらってないけど、酔っぱらったら、帰るのが面倒くさいから、私、フランクとでも寝るわよ」
「やれやれ、『フランクとでも』ときたもんだ。あのね、ぼくは誰『とでも』寝ませんよ、いちおう、選択の余地はいつも持ってますよ」
「アラ!じゃあ、フランクはカオルとは寝たくないの?」
「そう言う話ではなくて・・・キミ、酔ってきた?」
「ネグローニ、三杯で?何言ってんのよ。この三倍くらい飲まないと酔わないわよ」
「やれやれ、その三倍飲んだらカオルなんて他人だからな」
「・・・じゃ、そこまで飲まない前に何か言わないの?」
「何を言えば良いんだか・・・」
「フランク、『酔う前にぼくと寝よう』と言えばいいのよ」

「おいおい・・・」
「私が酔っぱらう前に、寝てくれる?私と?」
「まあ、カオルがそう望むんだったら、ぼくもふつうの男だからね・・・」
「!おい!何よ、その言い方!」
「しょうがないだろ、カオルが一緒に寝るのに誰でもいいのか、ぼくじゃなきゃイヤなのか、酔っているのか、いないのか、わからないんだから・・・」
「フランク、女の子の私が、寝てよ、っていっているんだから、さすがの私でも、誰でもいいや、なんて思わないわよ、ネグローニ3杯だけじゃあ・・・」
「やれやれ・・・」
「しよ!寝よぉ~!」
「寝るだけ?」
「バッカ!エッチもよ!カオルはフランクを気に入ったんだから・・・」
「会って、1時間も経ってないのに?」
「時間の問題だと思うの?」
「ま、そうじゃないけどねえ・・・」
「まあ、いいわ、イエスなのね?」
「そう受け取ってくれてもよろしいが・・・」
「まったく、結局、カオル、お酒とエッチが好きなだけなのかもねぇ~」
「お嬢さん、率直なご発言で・・・」

フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス



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