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スエズ運河の座礁事故が世界のサプライチェーンを遮断し世界経済と金融市場に打撃

この座標事故が一週間続いたとすると350隻の船舶がスエズ運河を通過できなくなる。中国・日本その他アジア諸国から欧州への自動車部品、食料、石油などが欧州につかない。欧州で生産した自動車はアジア・中東につかない。欧州の被害のほうが甚大でしょう。これで株は下がる、輸送コストは上がる。円安・人民元安になるでしょうね。

スエズ運河の座礁事故が世界のサプライチェーンを遮断し世界経済と金融市場に打撃も

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座礁事故はエネルギー輸送に大きな打撃

欧州と中東・アジアとを繋ぐ海上交通の要衝であるスエズ運河が、現在、封鎖状態に陥っている。過去151年間の歴史の中で、今まで運航が止まったのはわずか5回だけだという。日本の会社が所有し、台湾船社エバーグリーン・マリン(長栄海運)が運航する巨大コンテナ船が、現地時間3月23日にスエズ運河の紅海側入り口に近い地点で座礁した。中国からオランダ・ロッテルダムに向けて航行中だった。その結果、南北双方向で航行ができない状態が続いている。

スエズ運河庁によると、2019年の船種別同運河通航量では、コンテナ船が5,375隻で最多である。タンカーが5,163隻、バルカーが4,200隻と続き、この3船種で全体の8割弱を占める。また年間1万8,000隻超の船舶が航行し、1日の平均航行隻数は約50隻だという。

ロイター通信によると、現時点でエバーギブンの北方には少なくとも30隻、南方には3隻の船舶が通航を待っているほか、運河の南・北側入り口近辺でも数十隻の船舶が進入待ちとなっているもようだ。約1,300万バレルの石油を積載したタンカー10隻の運航に影響が及ぶ恐れがある、との指摘もある。

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スエズ運河は世界海上貿易の約10%を占める重要ルートだ。特に原油・天然ガスの輸送では戦略的な輸送路となっている。ペルシャ湾岸の産油国から欧州の消費国まで北上する船だけでなく、南下してロシア産のエネルギー資源をアジアに運ぶ船も多い。米エネルギー情報局によると、このスエズ運河と併設のスメドパイプラインの合計で、世界の石油輸送の9%、液化天然ガス(LNG)の8%を担うという。今回の座礁事故を受けて、原油価格が急騰したのも当然のことだ。

自動車のサプライチェーンに度重なる混乱

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また自動車船も、アジア―欧州間の基幹輸送はスエズ運河を経由しており、自動車輸送にも大きな打撃となる可能性がでてきている。

新型コロナウイルス問題による巣ごもり需要の高まりを受けて、鉄道、港湾、トラックなどに加えて、海運にも需給のひっ迫感が昨年から高まっていた。今回の座礁事故は、そうした物流の逼迫を加速させ、輸送コストを一段と上昇させる可能性があるだろう。

自動車業界にとっては、昨年から続く車載用半導体不足に加えて、足もとでは米国テキサス州での寒波による停電が自動車部品の調達を難しくしている。さらに日本では、先日のルネサスエレクトロ二クスの火災によって、マイコンの調達が滞り、完成車の一時的な生産停止が避けられない状況だ。それらの混乱に今回の座礁事故が加わって、サプライチェーンの混乱が非常に深刻になっているのである。

世界経済の回復に水を差し金融市場を混乱させるリスクも

スエズ運河での座礁船引き上げには、満潮がピークを迎える3月28日あるいは29日まで待たなければならない、との指摘がある。スエズ運河の通行の遮断が長引く場合には、現在近くで待機している船舶、あるいは今後スエズ運河を通る予定だった船舶が、南アフリカの喜望峰を大回りするルートを選択する可能性が出てくる。

その場合、航海期間は1週間程度延びるため、世界の物流に大きな打撃が及ぶことになる。さらに、その結果、海運の費用が大幅に上昇し、それらが多くの製品の価格に転嫁されるだろう。

シンガポールからロッテルダムのコンテナ船の運航のケースでは、スエズ運河経由では平均で22日間を有し、平均費用は106万ドル程度だ。これに対して、喜望峰経由の場合には、平均で30.9日を要し、平均費用は148万ドル程度となる。喜望峰経由となれば、コンテナ船の運航費用は平均で42.7万ドル上乗せになるのである。

このように、今回の座礁事故は、サプライチェーンの混乱を通じて、新型コロナウイルス問題からの世界経済の回復に水を差す可能性がある。また、供給不足懸念は物価上昇観測を高め、それが足もとで世界的に高まっている長期金利の一段の上昇と株価の下落を促すなど、世界の金融市場にとっても逆風となる可能性が出てきたといえる。

経済、金融市場にどの程度の打撃となるのかは、スエズ運河の通行再開までに要する時間にかかっている。

スエズ運河で座礁した大型船は、どうすれば“救出”できるのか? 見えてきた「困難な作業」の現実

世界最大級のコンテナ船が、海運の大動脈であるスエズ運河で座礁する事故が発生した。運河の復旧と全面的な正常化の見通しが立たないなか、船の“救出”には相当な困難が伴う可能性が浮上している。

地中海と紅海をつなぐスエズ運河を、毎日50隻ほどの船が航行する。いずれも巨大な船舶ばかりだ。なにしろ、世界の海上輸送の約10%がスエズ運河を横断する。

ところが、2021年3月24日は様子が違っていた。中国からオランダのロッテルダムへ向かっていたパナマ船籍「エヴァーギヴン」号という船舶が、運河の両岸の砂地に挟まってしまったのである。

台湾の長栄集団(Evergreen Group)が運航するこの船は、世界最大級の大型船だ。サッカー場にして4つ分の長さがあり、幅はボーイング747に匹敵する。そして20万トンのコンテナが積まれているおかげで、高さは12階建てのビルに相当する。

この船はしばらくの間、このまま動けない可能性がある。専門家によると、巨大船舶の離礁は容易なことではないという。スエズ運河を所有し運営しているエジプトのスエズ運河庁は、予想される航行再開の時期についてまだ何も発表していない。

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物流ソフトウェア会社のProject 44によると、24日の午後の時点で少なくとも34隻の船が、長さ20フィート(約6m)のコンテナを37万9,000個も積んだまま、運河をどちらの方向にも進むことができずにいるという。物流データ会社のFreightWavesで海運と国際貿易のアナリストを務めるヘンリー・バイヤーズは、国際貿易にとって「かなり大きな問題です」と言う。

極めて珍しい事態

スエズ運河の両岸の間に船が挟まる事態は非常に珍しく、これまで聞いたことがないと、ニューヨーク海事大学で訓練船の船長を務めるモーガン・マクマナスは語る。マクマナスは、スエズ運河を少なくとも5回は航行した経験をもつ。

まれに運河内で船が動力や制御を失うという事態が生じた際は、岸辺の砂地へ乗り上げて調べたり修理したりする。その間、ほかのそれほど大きくない船は通り抜けられるかもしれない。

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ところが、エヴァーギヴンは違う。エヴァーギヴンの技術管理を担うBSMは24日、高く積み上げたコンテナが巨大な帆のように作用し、強風に押されて船が運河の岸に対して直角になってしまったと説明している。この事故の原因を説明する公式報告書が発表されるのは何週間、いやひょっとすると1年も先になるだろうが、いまのところけが人はいないという。

現場の写真には、エヴァーギヴンの船首が砂地に挟まり、そびえ立つコンテナ船よりもはるかに小さな掘削機が船を掘り出そうとしている様子が写っている。「これでは貨物列車に向かってBB弾を撃つようなものです」と、マクマナスは言う。

「かなり最悪の状況」

エヴァーギヴンの救助には、さらに多くの牽引力が必要になる可能性が高い。貨物船には船を安定させるために水を張った巨大なバラストタンクがある。乗組員は恐らくこの水を船首へ移動させるだろうと、海運業の情報サイト「gCaptain.com」の創設者で船長でもあるジョン・コンラッドは言う。

そして高潮になれば、高出力のタグボートが船を現在の位置から押し出すか、引っ張りだすかしようとするだろう。24日には少なくとも10隻のタグボートが救助作業にあたっている。

もしそれがうまくいかなかったら、クレーンの出番になる。クレーン船は20万トンの船からコンテナを引き上げて積荷を軽くし、動かしやすくできる。だが写真を見る限りでは、クレーンや降ろしたコンテナを安全に設置できる場所が岸にはほとんどないかもしれない。

「極めて困難な作業になるでしょう」と、マクマナスは言う。「よく言われるように、事故というものは往々にして最悪の場所で起きるものです。これはかなり最悪の状況です」

船体が損傷する可能性も

BSMは24日の夜、エヴァーギヴンの周囲の砂と泥を取り除くために浚渫(しゅんせつ)機を配備したと説明している。2016年に中国のコンテナ船がドイツのハンブルグ港へ向かう途中でエルベ川の岸に挟まれたことがあったが、このときは12隻のタグボートと2隻の浚渫船を使い、大潮のタイミングを見計らって6日がかりで船を離礁させた。

船が救助されるまでの間、乗組員は船体にひび割れができていないか確認し続けなければならない。船が岩をこすったり、岩が突き刺さったりしてひび割れが生じる恐れがあるからだ。離礁作業によっても船体が損傷する可能性もある。

「船は陸ではなく水に浮かぶように設計されています。船体の違う場所に異なる圧力がかかると、船首が損傷する恐れがあるのです」と、マクマナスは指摘する。予想される最悪の結果のひとつは、船から運河へと燃料が漏れ出して、清掃作業に長い時間と経費がかかることだろう。

救出作業中に何が起きるにしても、最終的にエヴァーギヴンは別の場所へと引っ張られて錨を降ろし、ダイヴァーによる検査を受けなければならない。それが終了してからようやく、欧州北部への旅を続けることになる。

アナリストのバイヤーズによると、船積予約の記録に積荷の詳細が書かれている。そのなかにはベビー服、紳士用と男児用のトレーニングウェア、空気入りタイヤ、電気器具、そして生姜までが含まれているという。

パンデミックによる影響

今回の事故は、ますます巨大化する船舶を使って世界の貨物の90%を輸送しているコンテナ海運業界について、新たな疑問を提起する可能性がある。

海路輸送の需要は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって急激に高まり、中国から欧州北部への空コンテナ輸送のスポット価格は400%以上も値上がりしている。こうした需要に応えるため、船会社はエヴァーギヴンのような巨大船舶に記録的な数のコンテナを積み込んできたのだ。

何らかの問題を起こした船はほかにもある。海運業界は2020年後半と21年初頭にかけて、例年よりも多くの積荷を海で失った。「船があまりに大きくなりすぎて、運行に支障をきたしているのです」と、バイヤーズは言う。

しかし何はともあれ、まずはエヴァーギヴンを離礁させる必要がある。「いま運河で立ち往生しているのが自分の船でなくてよかったと思っています」と、マクマナスは言う。

フランク・ロイドのエッセイ集


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