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日本でもっと難民の話をしよう①-ソマリア難民の話

今まで個人ブログ(http://meanwhile-in-africa.hatenablog.com/)などで難民関連の記事をいくつか書いてきましたが、あらたにnoteでテーマごとの連載や一部有料化を試してみたいと思い、今回がその第一弾です。

筆者は国際協力畑で働くエイドワーカーです。つい先日まで、ケニアの難民キャンプでの某NGOの支援事業を現地側で統括していました。今後はフリーランスになるので、今までの経験にもとづいた発信活動に重点を置いていきたいと思っています。

今日は、2016年の締めくくりということもあり、私の古巣であり今年5月の突然の閉鎖宣言で一気に世界的知名度の上がったダダーブ難民キャンプのお話をしたいと思います。

ダダーブ難民キャンプは、1991年に開設され、人口約27万人(2016年12月時点)の95%以上を隣国ソマリアからの難民が占める、現時点で世界最大の難民キャンプです。

「現時点で」世界最大、という部分は結構大事です。というのも、今年5月にケニア政府がこのキャンプの年内閉鎖を一方的に宣言したことを受けて、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)を筆頭とする援助団体が総力を挙げてソマリア難民の母国への帰還を促しているため、人口は着々と減少しています。別の難民キャンプに世界最大の(名誉でも嬉しくもない)地位を明け渡すのも、時間の問題でしょう。

日本では難民といえばシリアというイメージが先行していますが(日本政府主導でシリア難民150人を留学生として受け入れる計画が来年から始まりますね)、ソマリアはシリアとアフガニスタンに次いで3番目に多くの難民を出している主要難民出身国の一つです。アフリカでは1番ということになります。(ちなみに自衛隊派遣で注目度の高い南スーダンは、ソマリアの次の4番目に多くの難民を出しています。)

ソマリアと言えば長く続く内戦、無政府状態、アル・シャバーブなどのテロ組織、など危険なイメージが強く、日本外務省は、独立を宣言している北部ソマリランドと自治を宣言している北中部プントランドも含めて全土を渡航禁止としています。

ソマリランド・プントランドを除いたソマリア中~南部は、国連の支援を受けたソマリア政府が掌握できていない地域が多く、国家統制に基づく行政や警察といった機能も存在せず、人々が生活を営むためのインフラ整備もままならない状態だと言われます。

母国がこんな状態ですから、隣国ケニアへ避難したソマリア難民の人々も、喜んで母国へ帰還するとはいかないのが現状です。ダダーブ難民キャンプで今年7月から8月に行われた全世帯を対象とした意識調査でも、約4分の3の難民が「帰還を望まない」と回答しました。その理由として最も多く聞かれたのが、ソマリア国内の治安への懸念でした。

一般に、難民状態の解決には3つの選択肢があります。①母国への帰還、②第三国(実績から言って主に先進国)への再定住、③亡命(避難)先の国への統合、の3つです。

ダダーブに居住していて母国への帰還を望まないソマリア難民の場合、残る選択肢は第三国再定住か避難先すなわちケニアへの統合(ケニア国民となる)の2つとなりますが、ケニアは北東部地域に多くのソマリ系住民を抱える多民族国家でありソマリ系国民の増加を積極的に検討しないため、現実的には統合の選択肢はないようなものです。(そもそも、自国への難民統合を積極的に検討する国家なら、一方的にキャンプ閉鎖を宣言することなどなかったでしょう。)つまり、これらの難民が「難民」でなくなるには、再定住以外の選択肢がないのです。

ソマリア難民の再定住を最も多く受け入れているのは米国です。特にミネソタ州のミネアポリスという町には多くのソマリア人が再定住しており、今年11月には全米で初めてソマリア出身の女性がミネソタ州議会議員に選出され、大きな話題を集めました。この女性自身も、米国へ渡る前にケニアの難民キャンプで4年を過ごしたと報道されています。

では、日本はこうした難民の再定住を受け入れているでしょうか?

残念ながら行っていないばかりか、検討もしていないように見受けられます。以下は今年9月に開催された難民及び移民に関する国連サミットの全体会合で安倍総理が行ったスピーチの一部です(出典:外務省ホームページ)。

我が国は,G7の議長国として,又「人間の安全保障」の提唱国として,難民問題に積極的に貢献して参りました。JICAは,日本の援助機関として,トルコやヨルダンをはじめ世界各地でシリア難民や受入れコミュニティへの支援を行っています。日本のNGOも現地の人々と協力しながら汗を流しています。さらに日本は,国連機関とも緊密に連携しており,多くの日本人職員が活躍しています。…日本は,2016年から3年間で総額28億ドル規模の難民・移民への人道支援,自立支援および受入れ国・コミュニティ支援を行うことを表明します。今後も日本は,国際社会との緊密な連携の下,難民・移民問題の解決のために主導的役割を果たして参ります。

日本の難民支援の実績をアピールし、最後に今後3年間で28億ドル規模の支援を約束していますが、「難民の受け入れ」には一切触れていません

世界でこれだけ難民問題が取り沙汰される中でも、難民の受け入れに関して日本で慎重論が根強いのには、欧州、特にドイツでの難民による凶悪犯罪に関する報道が過熱していることが強く影響しているように思います。

実際、国境に押し寄せた何万もの難民を簡素な手続きだけで難民として受け入れれば、犯罪歴の照会もままならず、のちのち問題が生じるのはある意味当然と言えます。他方、地理的に紛争地域から遠く、まして島国である日本には、一度に難民が押し寄せる可能性はまずありません。

再定住というのは、ダダーブのような難民キャンプで暮らしている難民を、厳重な審査・手続きを経て第三国に送り出すものなので、国境に押し寄せる難民を受け入れるのとは全く話が違います。長い時間と忍耐を要するこうした手続きを経た難民であっても受け入れようとしない国家が「難民・移民問題の解決のために主導的役割を果たして参ります」というのは、随分都合の良いお話に聞こえる気がします。

と、日本の難民政策の課題を指摘したところで、今回は終わりにしておきます。難民関連の記事を今後も書いていきたいと思いますので、ご興味がある方に覗いて頂ければ嬉しいです。

それでは、今後もどうぞよろしくお願いします。

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