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巨人は梶谷隆幸を獲得するべきか

はじめに

シーズンが終了した翌日、大量に報道される補強話を見るのが巨人ファンの風物詩だと思う。

こんなことを言うと他球団ファンの方は嫌に思うかもしれないが、私はこの補強話を見るのが好きだ。今まで別のチームにいた選手たちが一つのチームに集い、その中で化学変化がもたらされてチームは強固になっていく。そんな姿を想像するのがとても楽しい。

今年も既に何人かの選手の名前が出ている。その中でも特に注目度が高いのが、横浜DeNAベイスターズの梶谷隆幸だ。

梶谷は怪我や打撃不調の影響で、過去二年間とも41試合しか出場できなかったが、今年はついに能力が開花。打率.323OPS.913とセリーグの中でもトップクラスの成績を残している。

そんな素晴らしい成績を残した梶谷を獲得するとなれば、当然巨人ファンも喜ぶはず…。しかし、今年は少し事情が違う。昨年、今年と日本シリーズでソフトバンクに4連敗を喰らったことで、「補強ばっかせずに育成しろ!」という意見が多発しているのだ。

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まあ一部のファンがそんなことを思う気持ちもわかる。自前の戦力で圧倒的な組織を作り上げるなんてかっこよすぎるから。

だけど、だからといって補強しなくていいとはならない。ソフトバンクとあれだけの差を見せつけられたからこそ、補強してチームを強くしなくてはいけないはずだ。それにソフトバンクだって補強はたくさんしてきた。セリーグファンは「同一リーグから選手を取ったらリーグが弱体化するだけ」と言っているが、ソフトバンクだってパリーグから選手は取ってきたし、近年も浅村や西の獲得に動いていた。

何が言いたいかというと、まずは補強でもなんでもしてチームの弱いところを補う。その間にファームで未来の主力たちをじっくり育て上げる。これが今の巨人の最善策だということ。ソフトバンクだってそうやってチームを強くしてきたはずだ。

ここまで私の考えを見てきて、それでも「補強せずに育成した方が良い」と考える人がいると思う。それでいいと思う。別に正解なんてないし、補強しないほうが、中長期的にチームがうまく回るかもしれない。

だけど、ソフトバンクに負けたから感情的に補強を否定するのはやっぱり違うと思う。否定するならチーム事情や選手のことを知った上でやるべきだ。そのほうがよほど有意義な議論ができるし、新しい発見もあるかもしれない。

なので今回は手始めに梶谷隆幸について分析してみることにした。正直、来るかどうかも分からないし、もし来ないならこの記事はなんの意味も持たないだろう。でも、それでも私は書きたいと思った。梶谷の補強への賛否はともかく、意見を発する立場に立つのならそれなりの知識は持っていないといけないと思ったからだ。何の知識もなく闇雲に批判していては、チームにも選手にも失礼だなと、そう感じてしまった。

さて、ここからが本番。もし補強を感情的に批判してしまっているなら、ぜひ最後まで読んでみていただきたい。批判するのはそれからでも遅くないはずだ。ぜひこの記事を自身の意見の材料の一つにしていただければ幸いである。

今年の成績は素晴らしい!…けど

こちらが過去五年間の基本成績だ。18、19の2年は怪我や不調により出場試合数が少ないが、それ以外の3年は全て100試合以上出場している。坂本や丸ほど丈夫というわけではないが、一応試合に出続ける能力はあると思う。

ファンが一番注目する打率は今年三割を超えた。しかも首位打者の佐野と四厘差の二位だったことを考えると、文句のつけようはないだろう。OPSも規定打席に到達した年のなかで初の.900超えを達成。今年の坂本、丸、岡本のOPSが.879、.928、.907だったので、充分一流の成績を残したと言える。

しかし、不安点があることは否定できない。過去の成績を見ても、規定打席に立って打率三割、OPS.900を超えているのは今年だけなのだ。

「確かに今年の梶谷は良かったけど、通算で見たら大したことないし、たまたま今年良かっただけなんじゃ?」

こんな不安を抱くファンも多いと思う。ずっと梶谷のことを見続けているDeNAファンの方ならともかく、巨人ファンには昨年までとの違いはよくわからないだろう。そこで、次の章では梶谷の三つの指標の変化に着目して、今年の梶谷の進化について論じていく。

梶谷の打撃は柔らかくなった

実は今年の梶谷、過去4年間で劇的に変わったところが3つある。1つは打球傾向だ。

上の表は2016~2020年の梶谷の打球傾向をまとめたものだ。今年に入り、梶谷の打球傾向に大きな変化があることがわかるだろうか。

以前までの梶谷は引っ張りの打球が40~50%とプルヒッターのきらいがあった。しかし、今年は引っ張った打球の割合が20%下がり、逆方向への打球が10%増えている

つまり例年よりも打撃に強引さが減り、センターから逆方向へ弾き返す意識が強かったということである。

打撃の強引さが減ったことを表す指標はもう一つある。それはストライクゾーンの空振り率である。

これまでの梶谷の空振り率は15%前後。今年規定打席に到達した選手の中で最も数値が高かったスパンジェンバーグが11.2%だったので、梶谷の空振り率がいかに高いかがわかる。

だが今年の数値はこれまでとは全く違う。空振り率が6.62%と大幅に減っている。まるで人が変わったかのような下がりようだ。先に紹介した打球傾向の変化と空振り率の低下が、梶谷のバッティングから強引さが消えた証明になるだろう。

梶谷が変化したところはまだある。それは打球の強さだ。

上の表は梶谷の打球を「弱い」「中間」「強い」の三つに分類したものである。

まずは弱い打球に注目。前年まで打球の20%以上が弱いものであった。しかし、今年は17.4%と弱い打球の割合が減り、中間・強い打球の割合が伸びている。今年の梶谷は、例年に比べ、より強い打球を飛ばすことができていたのがわかるだろう。

以上の三点を踏まえて、今年の梶谷の変化を推察してみた。

今までの梶谷はどんなボールも見境なく引っ張って打つ傾向が強く、空振りや引っ掛けた当たり(弱い当たり)が多かったのだと思う。それが今年に入りセンターから逆方向への意識を強くしたことで強引さがなくなった。そうすると必然的にヒットゾーンは広くなるし、空振りも少なくなる。どんなボールも柔軟に対応できるので、無理に引っ張っていた時より打球も強くなる。その結果が今年の打撃に繋がったのではないか…。

梶谷獲得の不安点

今年の梶谷は明らかに例年と違う。打撃に柔らかさがあるのだ。それは数字で見ても実感するし、ずっと梶谷を応援してきたDeNAファンも大いに実感しているところだと思う。

ただ、梶谷の成績がよくなったからといって、獲得するべきかどうかは評価が分かれるポイントだろう。

個人的に梶谷獲得に対する不安点は二つある。一つは再現性だ。

確かに今年の梶谷は素晴らしい成績を残した。そして、その成績には確かな根拠がある。

ただ、例年よりはるかに高い成績なので、果たしてこれを来年も再現することができるのかはわからない。坂本や丸ほど毎年安定した成績を残していれば予想しやすいが、あまりに急に成績が上がったので、そこは大きな不安点ではある。

そしてもう一つは年齢だ。

現在梶谷は32歳。今年は主にセンターとライトを守っていたが、守備指標はあまり良くない。どちらも身体能力が必要なポジションなので、このままだと数年後(もしくは来年にでも)にはレフトへコンバートすることになるだろう。

ただ、そうすると現在センターを守っている丸のコンバート先がなくなってしまう。丸の年齢は31歳。こちらもコンバートが視野に入ってくる頃だ。ともすれば、どちらかが控えに回る必要が出てくるだろう。梶谷が巨人に入るとなれば、数億単位の年俸になると思うので、下手をすると不良債権になるかもしれない。巨人はあまりそんなことを気にせずチーム運営をするので、大した問題ではないかもしれないが、今の陽岱鋼や野上の扱いを見ていると、最初は良くても後から面倒臭いことになる可能性もあるだろう。

以上のように、梶谷獲得のデメリットは存在する。ただ、現状の巨人の外野陣を見ていると「梶谷なんか取らずに若手を使え!」とは言ってられないというのも事実である。

上の表は現在巨人にいる外野陣をまとめたものだ。こんなことを言うのは非常に悲しいが、正直どの選手も寂しい成績を残している。

若林、重信、田中俊、石川などはここ数年一軍定着を果たしているが、成績が一向に上がらない。年齢も30近くなっているので、これから成績が伸びてくると考えにくい。

亀井、陽はレギュラーを張れる実力は今も持っていると思う。ただ、40近い亀井にレギュラーを期待するのは酷な話だ。陽も二軍でフォーム改造に取り組んだが、一軍では結果を残すことはできなかった。0か100の極端な選手なので中々扱いが難しい。

二軍では八百板と香月が特筆した成績を残したが、八百板は育成選手、香月は一軍でさっぱり結果を残せなかった。また、これ以上の成績を石川、若林、増田大は残してきたので、それを踏まえると来年いきなり活躍できる可能性はあまり高くないと感じてしまう。

そんな中、北村と松原はこのメンツでは一番期待できると思う。北村は内外野を無難に守ることができるし、打撃のポテンシャルも高い。松原は守備がとにかく素晴らしい。ファームで最多安打をとるなど、打撃もセンス抜群だ。どちらも他の選手よりは若く、一軍経験も浅いので伸び代がありそうだ。ただ、今年一年見ていると、二人とも一軍に適応している感じはしなかったので、その部分に不安を覚えてしまう。

ドラフトで佐藤を指名するという話が出た時、「巨人の弱いところは投手だろ」という声も一部で出たが、今の外野手事情を鑑みると、そんなことは口が裂けても言えない。今年は佐藤以外特筆した素材はいなかったので、結果的に支配下での外野手の獲得には動かなかった。なので、あと数年は自前でレギュラーを張れる外野手を輩出するのは難しいだろうな、というのが今の心境だ。

結局梶谷はとるべきなのか

個人的にはとったほうが良いと思う。

まず、来年のことだけを考えれば間違いなく必要な存在だ。現状の巨人の外野事情と梶谷の打撃の変化を考えれば、とらない手はない。今まで埋まらなかったトップバッターとして活躍してくれれば、巨人の打線は今年以上に活性化するだろう。

中長期的に考えると、絶対に梶谷が必要というわけではないかもしれない。ただ、守備が衰えてレギュラーで使えなくなっても、代打であれば十分に貢献できるだろうし、他の選手に良い影響も与えてくれるかもしれない。

現在の巨人の両翼は明確な弱点だ。そしてその弱点を補いきれる若手選手も数少ない。悲しい哉、これが巨人の現状である。

ただ、一巨人ファンとしては、若手の躍動が見たい。それは補強否定派のファンと全く同意見だ。松原がイチローみたいになってくれたら。北村がクリーンナップを打てるぐらい活躍してくれたら。だから仮に梶谷を補強したとしても、梶谷を控えに回すぐらい今の若手たちが活躍してほしい。それが私の本望だ。


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