「迷惑でしょうが」を想像してみた

僕の地元のスナック街に1軒の居酒屋がある、何十年もお客に愛されてる店だ。
ある日僕はその店を訪れた、引き戸を1つ2つと開けていくと、賑やかな声が聞こえてくる。。
「こんばんは」と言うと
大将が「おーいらっしゃい」と返してくれ、女将さんも「いらっしゃい」と返してくれた。
カウンター奥のメニューがよく見える席に座り、出されたお絞りで手を吹きながらあたりを見渡す。
カウンターとは反対側にテーブル席が3つあり夫婦やカップルが座っていた、
カウンターの後ろは座敷になっていて、団体客が座るよになっている。
ふとカウンターの真ん中あたりを見ると、
コップ酒片手にテレビを見ている男が居た、どうやら昔の曲を紹介している様だ。
テレビからはお笑いコンビが昔歌っていた歌が流れている。
(♪メロディー♪)
「前略、生きていく事は哀しい訳で、哀しいからまた生きていく訳で」(セリフ)
(♪メロディー♪)
「路地裏の薄暗い赤ちょうちんが灯台の灯りの様に見える訳で」(セリフ)
(♪メロディー♪)
「今夜わ俺飲みます。」(セリフ)

どのくらい前から飲んでいるのかわからないが、男はトイレに行くにも足元がおぼつかない程ぐでんぐでんに酔っていた。
男はトイレから帰って来るなり女性の名をつぶやきながら、コップ酒を煽るように飲み始めた。
僕が心配になり男に声をかけると
こちらを見ながら男は「迷惑でしょうがほっといてください」と僕に言い返してきた。
男はせきを切ったかのように語りだした。
「どうせ俺は馬鹿な男ですよ!今夜はとにかく飲みたくてこの店来たんです!だから一人にしてください。」
(♪メロディー♪)
「前略、ひとりで飲む酒というのはいつもどこか違う訳で」
(♪メロディー♪)
「うまく言えないけど俺酔いつぶれたい気分です」

映りの悪いテレビから流れるそのコンビの唄を口ずさんだ後のボソっと
「『幸せ』って奴にやっと気づいたけれど、迷惑でしょうが優しくはしないで、上手に話せません、優しさは苦手なんです」
「今夜は思い出つまみに飲みながら時間に浸りたります」
(♪メロディー♪)
「前略、寂しい時に聴く唄は本当に哀しい訳で」
(♪メロディー♪)
「特にこう言う時に聴くと心身とつもる訳で」
(♪メロディー♪)
「何か独りで聴くにわ辛いです」

とテレビから流れてくる台詞が彼の心を代弁するかのように僕には聴こえてきた。
優しく彼を見守りながら再び彼の言葉に耳をかす。
「あいつに惚れました、駄目な俺です一人の部屋には帰りたくはなくてこの店で時間の許すまで酔いたいんです。」
(♪メロディー♪)
「前略、なくしてから気がつく事と云うものがある訳で」
(♪メロディー♪)
「俺がなくしてしまった者は大きい訳で」
(♪メロディー♪)
「ガラス戸を少しだけ開けてみると雪でした」

店に来てからどのくらい経ったのか賑やかだった店内もいつの間にか静けさを取り戻し、お客も数人になっていた。
僕は彼を心配しつつあとを店の大将と女将さんに預けお会計を済まし「ご馳走様でした!また。」と言い引き戸を1つ2つと開けてゆく、後ろから大将達の「ありがとうございました!」と言う声を聞きながら、のれんを避けようと地面に目を向けると薄っすらと白くなっていた。

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