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MCU離れは賭けに出る


『シークレット・インベージョン』が完結した。

まだ全ては観ていないのだが、個人的には好きなドラマだ
待望のニックフューリーが主役のポリティカルサスペンスということで期待も大きい

しかしその評価は賛否分かれている

「天下のMCUが?ウソだろ?」

…とも言い切れない

そう、ここ最近のMCUは賛否分かれることが多い
出来もそうだが全体的な不満が噴出し始めている

そんなお話です

※この記事は個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません。
また全方面にネタバレがあります。
ご容赦の後ほど、ご一読ください。




ご存知MCUとは"マーベル・シネマティック・ユニバース"の略であり、『アイアンマン』から連なる「映画やドラマをすべて同一の世界観で描く」という映画史に残るトンデモない偉業を為している怪物大河である。

2019年に『アベンジャーズ/エンドゲーム』をもって"ユニバース"サーガは完結(諸説あり。NWHかな?)し、現在は"マルチバース"サーガのフェイズに入っているのだが

そこからの雲行きが芳しくない

なんでか?
以下、個人的な見解


①.大黒柱の不在

シリーズの根幹を支えていた「トニー・スターク」と「スティーブ・ロジャース」
名実共にアイアンマン、キャプテンアメリカな両人。

この2人のキャラクターの重要性、カリスマ性については語るまでもない。
その2人がエンドゲームをもって卒業。

そこからさらに走り続けたシリーズ
それはパワー不足と言われても致し方ない

とはいえやり手のMARVEL
この穴を放っておくハズがない
新世代のリーダーを創造、埋め作業に入ります

ブラックパンサー、スパイダーマン、Dr.ストレンジあたりですね

しかしご存知の通り、チャドウィックには悲劇が訪れ、ソニーとの交渉にはグラつきが出る
ドクターは健在だが、彼は彼である意味万能さぎるので出ずっぱりは難しい

折衷案としてウォンが出張ってくるのも頷ける
多少の格は落とせるし、何よりあちらのベネディクトよりこちらのベネディクトの方がギャラも安い

さて、偉大なリーダーは在籍中はもとより、引退後の影響力も計り知れない

どうしたってトニーやスティーブの全盛期を追い求めてしまう観客に不備はないだろう

しかし抜けなければ後任も育たない
待っているのは衰退のみだ

しかし新たなリーダーに歪みが出てきた?
ならどうするか?

②.新キャラ祭り

今ではすっかりニューフェイスが増えてきた
エターナルズ、シャンチー、ムーンナイト、ミズマーベル、シーハルク、アイアンハート…

素晴らしい、新人が多いのは良いことだ

しかしここは過去と地続きでもある
引退していない現役にも見せ場がいる

キャプテンは世襲され、ソーは宇宙へ旅に出る、ハルクは元気でやってるし、ブラックパンサーも引き継がれる

この世界では"死"が重い

ヒーローであっても敵を殺めることは少ない
必然的に相手も生きている

その極致であるサンダーボルツなんて一昔前なら夢のチームアップだ

しかしそうこうしているうちに新たな脅威も手始める
当然だ、身内だけで回すわけにもいかない

ネイモアを筆頭に彼らはまだ生きている。

そう、この世界にはネームドが増えすぎているあまりに入り組んでいるのだ

でもこれこそが「シネマティック・ユニバース」じゃないのか?
作品の枠組みを飛び越えて繋がる楽しみがあるんじゃないのか?

でも

③.作品間のリンク不足

そう、皮肉なことに作品数が増えるにつれてリンクが不足し始めているのだ
これは数字ではなく体感だが

MARVELも頭を抱えていることだろう
加速度的に増えていくシリーズ、キャラ

シリーズファンならいい。勝手についてくる。

問題は新参ファンだ。

キャラAとキャラBが数年前の小ネタを話してもピンとこない
世間話ならまだいい
それが話の根底にあるとなると比喩ではなく意味が通じなくなる

何人の新規ファンが『ドクターストレンジMoM』の前に『ドクターストレンジ』だけ予習して劇場へ行ったことだろう
全員の「?」に答えてあげたい

それは赤の他人の結婚式に参列するようなもの
もちろん楽しめないことはないだろうが、それは至難の技である

結果的に作品毎の断裂が起きる。

新顔が出てくるだけなら良い
しかしそこにリンクが見えてくることがない

「アイアンマンの父親がキャプテンアメリカ誕生に携わっていた」だの「シールドというまとめる組織がいる」ということはなくなってくる

なぜか?

④.テーマが重い

近年のトレンドとも言えるかもしれない
典型的なポップコーンムービーは減り、アクション大作でも世相を取り入れることが当然となってきた

人種問題、テロリズム、AIの台頭や女性社会…

もちろんこれを否定する気はない。
素晴らしいことだ、とハッキリ言える。

ただ。

それによってわかりやすさがなくなっていく

地に足着ければ「スーパーパワー持ち同士が知り合い」なんてそうそうありえない
良くも悪くも「ご都合主義」が消えていく

昔はよかった、なんて言いたくないが
アイアンマンにもハルクにもキャップにも明確なヴィランがいてそれを倒す

それだけの構造でなくなってしまったのは一抹の寂しさを感じる

「敵にも事情がある」「そもそも敵なのか?」「自分自身との戦い」…

…いや、わかるよ
わかるんだけどさ

落としどころ見えてますか?それ

結果、快活なヴィランが不在となり作品の空気は重くなる。

前述したように日々複雑になっていくユニバース
いや、ユニバースではない。
ここはもうマルチバースなのだ。
ネズミ構ばりに複雑化していく

繰り返すが「昔はよかった」などとは言いたくない
そんな思考停止で終わらせるには勿体ないほどの大河なのだ

ん?昔?

⑤.観客の嗜好変化

今は2023年である。

『アイアンマン』公開はなんと2008年!
そう、シリーズ開始から15年経っている

そもそも世相だけでなく、観客の趣味嗜好も変わってきているんじゃないか?
15年同じものを好きでい続けるのには一種の才能が必要だ

15年も経てば義務教育は終わるし、平成すら折り返す。

出来不出来ではなく、単純に「好き」が変わっていく観客が多いのではないか?
だからこそあの手この手でジャンルを変えつつも対応してくれようとしてるんじゃないのか?

おそらく一番避けたいであろう「マンネリ」を躱しているからこその複雑さではないのか?

「悪いやつが出てきた!ヒーロー登場!やっつけておわり!」

ここに留まっていたら経年劣化は今の比ではないだろう。
だからこそテーマも相関図も、世界そのものも複雑化しているのではないだろうか?

しかし観客が観たいのはある種、マンネリと類語の「様式美」でもある
ここのズレが生じ始めているのではないか?

思えばエンドゲームまでは観たいものを観せてくれていた

集うヒーロー達、ムジョルニアを操るキャップ、そして「Avengers,Assemble!」…
これは様式美のフルコースである

NWHなんてさらにその奥の極致である
ピーターが3人集まり、過去のヴィランが時空を超えて集結する…

ファンが思い描いた夢そのものだった

そう、「だった」のが問題である

⑥.出し惜しみ

近年のMCUに一番思うことはこれだ

それぞれに出し惜しみのようなものが見え隠れする
いわゆる「完全燃焼」がない。

マルチバースは可能性の塊だ

なにせ今までのアベンジャーズに加えてX-MENもNetflixの彼らも交われる

ワンダビジョンには驚かされた
当時、まだ不透明だったX-MENからピエトロが登場してきたのだ

ワンダからすれば「誰?」
ビジョン世界からすれば「ピーター」
そして我々観客からすれば「ピーターであり、ピエトロ」

そんな絶妙な違和感を配役ひとつでまとめ上げた
並の脚本力ではない。三重構造のメタである。

しかしここがクライマックスだった
彼はただの一般人であることが判明する

X-MENのピエトロをモブで消費するところを観たかっただろうか?

その続編でもあるドクターストレンジMoMでは再び驚かされた

なんとプロフェッサーが出てくる!リードも!あの黒歴史とされたブラックボルトまで!

しかしここでも肩透かしを食らう
あくまで別世界の彼らは「噛ませ」として消費される

シーハルクではデアデビルが出てくる
"満を持して"というやつだ
今回は別キャラではなく正真正銘の本人様!

しかしここでの扱いには賛否が分かれる
個人的にはMCUベスト級に好きなドラマなのだが、嫌いな人の気持ちも痛いほどわかる

わかりやすく全年齢ナイズされたマイルドなデアデビル、やりすぎなオチと地雷がいくつもある

「あれがアリならなんでもアリじゃん…」
そんな声が多かったのを覚えている

加えて観客は第四の壁を越えられるMARVELキャラを『デッドプール』で通過済みでもある

デッドプールが絶妙な匙加減でふざける(軽々と他社でもイジるがシリアスな空気は読む)のに対してシーハルクはやりっぱなしのような雑さがあった

「下ネタが抜群に上手い男友達」と「ただエグいだけの下ネタを言うだけの女子」の違いを見ているようで居心地が悪かった、という意見には共感すらしてしまった。

さて、ここでも前述の「テーマ性」が塞がってくる
有色人種や女性のヒーローが増えた昨今(これはスゴい良いことだと思う)、テーマがテーマなので気軽に批判もしにくい

トニースタークは紛れもない天才だった。
カリスマ性も抜群。だが人間的には欠陥も多々あった。
直接的に言えばクズな一面もあり、その負の面がヴィランとして立ちはだかってきた一面もある
だからこそ惹かれたのだ
彼も我々と同じように失敗をする人間だから。

クリントやスコット、ピーター(スターロードさん)あたりに至っては立派な前科者ですらある

対して新規のメンバーはどこか浮世離れしている節がある
あまりに人間が出来ている小市民が多い
感情移入がしづらいのは俺が男であるから…だけではないハズだ

どこか他人事のような面々が放射状に拡がり増えていく
それが絡むことは少なく、集合図が描かれることはない
しかしシリーズを予習していることは織り込み済み
単独作でも複雑化は止まらない
そしてこれらは勧善懲悪ではない

そりゃエンドゲームやNWHでファンは離れてしまう
・良い区切りだった
・観たいものは一通り拝めた
・思い入れのあるキャラたちは着地した

そう、ちょうど良すぎたのだ

⑦.時期

現実とは無常で、無情である。

奇しくもこの頃はコロナ前後あたり
NWHとワンダビジョンでバッサリ分かれてしまった
公開停止の玉突きや製作の中止なども重なり、糸が切れてしまったファンも多いだろう

しかしシリーズは止まらない
今でも一年に数本は映画かドラマが公開される
そして今後数年それは変わらない

完璧主義でもあるMARVELだ
なによりスケジュールの問題もある
今後も予定はパンパンに詰まっている

一応「製作ペースを落とす」ことが発表はされているものの、それにも限界がある
このままではとっ散らかったまま空中分解、なんて洒落にもなっていない

おそらくアベンジャーズ4や5であるシークレットウォーズで過去のMARVELキャラ(MCU以外も)を総出演させるのであろうが、そこが最後の区切りになるだろう

それ以上はないし、語るべきテーマも残ってはいない。

果たしてそこまで貯金が保つのか?
はたまたファンが先鋭化してひとつのオタク文化として終わるのか?

俺は応援していきたい。

映画好きを決定付けてくれたシリーズだ。
救われた夜も少なくない。

このまま終わってしまっていいワケがない!

どこかでひとつ大きな花火を打ち上げるヒーローはいないだろうか…

①.大黒柱になれて
②.新キャラを操縦できて
③.作品間のリンクをコントロールでき
④.テーマの重量を自由自在にできる、かつ
⑤.嗜好変化に耐え得る柔軟さを持っていて
⑥.出し惜しみをしない、そしてソイツは既に
⑦.スケジュールに組み込まれている

…そんな夢のようなヤツがいるのか…?

MARVELには万を超えるキャラがいるという。

その中に、一人だけいる。

全てを笑い飛ばし、全てを救う。
どんな反則でも許される。

それでいて彼には揺るぎない倫理観もある。

観客が求める勧善懲悪すら演じられる。

予測不能で理解不能、しかし毅然としたヒーロー。


彼の名は


「呼んだ?」

「DEAD POOL」 "死の賭け"


そこに希望は、まだある。


おわり

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