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「妖精さん」の話

大学生の頃。学校からの帰り道、いつものように山手線に乗った。池袋から運良く座れて、しばらくうとうとしていたら、突然目の前に立っていた知らないおじさんに軽く肩を叩かれた。

「秋葉原だよ」

ハッと目が覚めて、「ありがとうございます」といそいそお礼を行って降り、総武線のホームに向かいながら、あれ?と思った。どうしてあのおじさんは、私が秋葉原で降りるとわかったんだろう。


こんなふうに、日常の中で突然ふっと現れて、さりげなく私を助けてくれる存在のことを、「妖精さん」と呼んでいる。妖精さんはいろんな人に姿を変えて、ときどき私の前に現れる。(と思っている)


***

ものすごく悲しいことが続き、ある日プツッとスイッチが切れてしまった25歳のとき。大学を卒業してからほぼ連絡を取っていなかった友人から、突然「元気?」とメールがきた。流れで、その週末にごはんを食べに行くことになった。

新宿の、オフィスビルの地下にあるイタリアンでピザを食べながら、ひたすら悲しさを彼にぶちまけた。そして彼は、10代の頃に起きた救いのない悲しい話を、ぽつぽつと話した。学生時代にはまったく知らなかったことだった。その数時間、私は彼の1を聞いて10がわかると思ったし、おそらく彼も同じように感じていただろう。二度と再現できない共鳴だった。

その日を境に、ゆるやかに、でも確実に気持ちは上を向いた。彼とはその後、連絡をとっていない。


***

妖精さんは、あるときはバスで隣の席に座った人だったり、あるときは古い友人だったり、あるときはカフェの店員さんだったりする。スッと現れて、あとくされなく去ってゆく。

カサついた東京の街で妖精さんに出会うと、なつかしいようなあたたかいような、不思議な気持ちになる。次会えるのはいつかな。


ちょっとなに言ってるかわかんなかったらすみません。でも、そういうことないですか。

あしたもいい日になりますように!