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「食べる」の美学 〜ごはんにまつわる好きな本4冊〜

自分で料理をするのは苦手だけど、「料理」「食べること」に関する本を読むのは好きです。


誰の日常にも存在するものへの視点にこそ、独自性が出る。つまり、「食べる」を通して、自分とは違う感性を知るのが好きなのです。

ということで、「食べる」にまつわる好きな本を紹介したいと思います。いつもの風景への視点をちょっと変えてくれるような本たちです。


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帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。(高山なおみ著)

日々の楽しいこと、悲しいこと。家族、恋愛、仕事。どんな出来事のそばにも必ず「ごはん」はある。

そして、イライラしたからちょっとジャンキーなものを食べてやろうとか、悲しいことがあったから体を優しくあっためてくれそうなものを食べようとか、その日の出来事と食べるものは、意識的であれ無意識であれリンクしている。

だから、日々の出来事とごはんをじっくり見つめてみると、自分の心の真ん中が見えてくる。

ヒトの形になる前の、というか、ヒトという服を着る前の体。骨でもないし、筋肉でも内臓でもないもの。何か“ふぬふぬ”とした原始的な粒みたいなもので、たぶんばあさんになって、死んで体がなくなっても、私の中からなくならないもの。
この本を書いていた時期、きっと私はその“ふぬふぬ”が何なのか、そればかりを探っていたような気がするのです。(あとがきより)

読んだあとに、日記を書きたくなるような、日常のささいな出来事を残しておきたくなるようなエッセイ集。「プロローグ」は何度読んでも泣いてしまいます。

この本を読んだあと、巻末のレシピ集にあったかぼちゃのミルクスープを作ってみました。おいしかったです。

ハナレグミのアルバムタイトル「帰ってから、歌いたくなってもいいようにと思ったのだ。」は、この本が元ネタだそうな。


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それからはスープのことばかり考えて暮らした(吉田篤弘著)

まず、タイトルが素敵。

路面電車の一駅隣にあるさびれた映画館。古い映画に出ている無名女優。教会の見える部屋。近所のサンドイッチ屋。そしてスープ。

全体を通して流れているあったかい空気に、ぬくぬくとした安心感を抱く小説。月並みな感想すぎるけど、スープが食べたくなります。


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土を喰う日々(水上勉著)

食べ物を作るのは土で、野菜には旬がある。

24時間野菜が買える街で暮らしていると、そんな当たり前のことを忘れてしまいます。

9歳から禅寺で暮らし、お寺の畑で取れる野菜を使って精進料理を作り続けた筆者の感覚が、都会育ちにはすごく新鮮。形だけの“オーガニック”とは違う、まさに「土を喰う」。ほうれん草や高野豆腐の食べ方、味噌の使い方、すごく勉強になる……。

料理を通して「自然」や「宇宙」に思いを馳せてしまうような本です。

1月から12月まで、月ごとに章が分かれているので、四季の繊細な移り変わりを感じられるのも良いです。


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ささやかだけれど、役に立つこと(R・カーヴァー著)

レイモンド・カーヴァーの短編集「CARVER'S DOZEN(村上春樹訳)」他に入っている短編。あたたかいパンが少しだけ心を救ってくれることもある。

「泣きながらごはんを食べたことがある人は、生きていけます」という、某ドラマで話題になったセリフを思い出しました。とても悲しい話だけど、ラストの小さな救いが良いです。

カーヴァーの短編集はこれしか読んだことがないのですが、ありそうでなさそうなささやかな出来事や、日常の一コマの描き方に、誰にも似ていない独特さがあって引き込まれます。


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そんな感じで、そろそろおなかがすいてきたので、晩ごはんの買い出しに行ってきます。

「食べる」にまつわるおもしろい本、ぜひいろいろ教えてください。

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