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スタディーノート3 親密圏喪失の危機

本日もシットウェは雨である。おそらくこれからの記録も冒頭は雨のことについて書くことになると思われる。元寇を打ち払った神風もかくやと思わせるほどの横殴りの雨なのである。

 壊れたレンタル自転車が直っているか確認するためバイクショップへ足を運んだ。昨日ロヒンギャ国内避難民キャンプへ向かう際、強く漕いだためかチェーンがはち切れていた。店に到着するとすでに自転車は修理されていた。お代もいらないそうだ。なんとありがたいことか。そんな時さらに雨足が強まってきたので少しの間だけ店でステイさせてもらうことした。
店主とその助手、そして隣の呉服屋の店主もいた。互いに言語を通しての意思の疎通が難しいとはいえ、なんとか身振り手振りでどこからきたか、アルバイトで大学病院の看護助手をしていることなど自己紹介をした。さらに付けっ放しのテレビには「NHK WORLD JAPAN」が流れ、京急の事故や間人蟹特集で一気に話は盛り上がった。

 話の流れでフェイスブックを交換することになり、私はすんなり了承した。しかし、彼の携帯に自分の名前をタイプして申請ボタンを押そうとした時、「おや?」と思った。なぜなら私のフレンド欄にはロヒンギャ問題関連の人がいて、写真にも簡単にアクセスできるからだ。私のロヒンギャに対する姿勢は絶対に変えないという確信はあっても、彼らがそれを見ることによってバイシクルショップでできた親密圏が喪失されるのではないかと脳内に緊張感が走った。
携帯の持ち主が画面をじっくりと覗き込む顔を観察する。人差し指がスクリーン上をするすると滑っている。するとなんと顔をしかめるではないか。思わず目線をテレビの方へずらしてしまった。しかしそのまま親指と人差し指で画像をズームした。写真の中の私の顔が見にくかったらしい。なんとか事なきを得て、小雨の中ホテルへ戻るのであった。道中、彼は口に出さなかっただけかもしれないなと頭をよぎる。あちらからの親密圏の保持の努力があり得ることを忘れてはならない。
もし眉間にしわを寄せたのがロヒンギャの写真を見たことだったとしたら、そのまま何か問われたとしたなら私はどう答えたであろうか。アラカン人とロヒンギャの間で起きたことと私が考えていることをそのまま話せば、ロヒンギャに対する感情を何か掴めたのではないか。ホテルに着いてふと思った。

写真・自慢の妻を見せてくる従業員。ホテル唯一のヒンドゥー教徒である。居心地の良さはムードメーカーの彼にあるかもしれない。

#ミャンマー #シットウェ #旅 #危機 #雨 #土砂降り

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