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【評価高騰中?】映画『ハケンアニメ!』を観る前に知っておきたいこと【基本ネタバレなし】

「数字的には大爆死だけど、今年BEST3には間違いなく入る良質邦画!」みたいな評価をよく見かける映画『ハケンアニメ!』を観てきました。
語りたいことはネタバレに近いですが、未視聴の方にも届くよう、序盤特に極力ネタバレしない方向で感想を書いていきたいと思います。

『ハケンアニメ!』あらすじ

とりあえずは、あらすじを……、と公式ページを見ていたところ「うん。これベースにしたらネタバレになっちゃうよね!」と思ったので公式よりも薄く書くことにします。

あらすじ【公式より薄め】

吉岡里帆さん演じる、業界歴7年目の“新人監督”斉藤瞳。
監督デビュー作として、毎週土曜日午後5時からのアニメ枠制作に奮闘していた。

対して、同時刻別チャンネルの“裏アニメ枠”に待ち構えるのは、中村倫也さん演じる“天才イケメン監督”王子千晴。8年前に放送された神アニメ『光のヨスガ』以降、スランプに陥ってからの復帰作として注目されてる覇権候補アニメだ。

この2人とそれぞれタッグを組む敏腕プロデューサー行城理(柄本佑さん)と有科伽屋子(尾野真千子さん)が、それぞれのアニメ制作を通じ、より多くの視聴者に刺さり支持される作品「覇権アニメ」を目指す。。。という物語です。

映画『ハケンアニメ!』は万人向けなのか?

「大人の青春群像劇」(R23向け作品)

これが『ハケンアニメ!』のひとこと感想です。
働く人たちが舞台なので「社会人あるある」に溢れている作品です。
残念ながら万人向け……ではないと思います。アニメ界隈の基礎知識がないとたぶん100%楽しめないですしね。

しかし、特にクリエイター向けではありますが、慣れるなり諦めるなりして、仕事が「稼ぐ手段」に成り下がってしまった多くの大人の導火線にボヤ起こすくらいの熱量が期待できます。
SNSでよく見かける「大人はすべからく観ろ」みたいな意見はここに集約されると思います。

感想を検索すると『SHIROBAKO』を引き合いに出している例もちらほら見かけましたが、『SHIROBAKO』は、お仕事紹介にフォーカスされているところ、『ハケンアニメ!』はスポコンだと思います。
業界的なルールが分からなくても熱血で楽しめます。サッカーやバスケの細かいルール知らなくても「ゴールに入れれば点数」くらいわかってれば最低限OKみたいな。
どちらかと言えば、島本和彦先生並みの熱量を楽しむ作品です。『燃えよペン』とか。

脚本がすごい

どうすごいかは、後述の「ちょっとだけネタバレ編」で書きたいと思いますが、いわゆるアニメ的な展開・伏線回収と言えばいいのか、観終わった後のカタルシスが半端なかったです。
この理由だけで、アニメが題材ということで毛嫌いしてる人にも観ていただきたい。観賞後は、いわゆる白飯が進む状態になります語りたいこと満載です。

キャラが立ってる

どのキャラも魅力的です。そして深掘れる。
よくある感想ではありますが「ストーリー知ったからもう観ない」では勿体ないです。そんな単調にストーリーを追うだけの物語ではないです。
それぞれのキャラに感情移入して複数回見直したい作品です。

観る前に知っておきたい基礎知識

あらすじは、ざっくり前述の通りなのですが、アニメの制作現場が舞台なので、ある程度のアニメの知識は無いよりはあった方が間違いなく楽しめます。下記の基礎知識なしでも75〜85%程度は楽しめそうですけども。

個人的には、過去に名作と呼ばれていたので視聴した『ダ・ヴィンチ・コード』を宗教的知識なしで観て、腑に落ちない場面だらけでロクに楽しめなかったことを思い出しましたが、そこまで極端に専門的ではないです。

【基礎知識1】そもそも「覇権」って?

タイトルにもなっている「ハケン」。
SNSでよくネタにされていますが「派遣」ではありません。「覇権」です。

「覇権」とは、簡単に言えば「本放送の視聴率と、BDの売り上げでトップを取ること」です。
むしろ、本放送が振るわなくても、BD売り上げの方に価値がある、まであります。ドラマなどでも「初回見逃したけど、最終回までの数話見た」の方が話題になりますよね?それと同じイメージです。

この定義には賛否あると思いますが、この映画の基礎知識として最低限「覇権」の意味がわかってないと始まりません。最悪、「アニメで戦うってアニメが変形してバトルするのかよwww」になりかねません。

年代的には2010年初頭、深夜アニメが加熱して、ワンクール100本越えのアニメが量産されていた戦国時代と思われます。視聴率とBD売り上げを中心に良し悪しが語られてた時代です。

しかし、ただ数字的にトップを取るだけではいけません。
そのクールだけではく、視聴者の心に刺さり、消費され忘却されゆくアニメ作品の潮流の中でも、伝説として語り継がれる「神アニメ」を制作することがアニメクリエイターの究極の目標なのです。

本作では、その傾向が極まった時代ともとれるので、そりゃもう心血注いで作品に向かう姿勢が、効率重視、ワークライフバランスを良しとする現代の社会人の胸を打ちます。

【基礎知識2】作画崩壊と神作画

アニメの場合、1秒間に12〜24枚必要と言われますので、30分アニメでも相当数の絵が必要となります。

1枚1枚に入魂のペン入れをしたいところですが、締め切り・納期の兼ね合いで時間的制約もありますし、入魂の作画の連続よりも、ある程度省いくことで動いて見せるテクニックもあります。(ダイナミックな動きにするためには、止め絵にした時にデフォルメや不自然な方が効果的だったりします)

それらの制約があってなお、人々を魅了する動画表現(見せ方)があります。
不自然に感じない状態以上の場合「作画がいい」とされ、及第点以下だと「作画崩壊」(クオリティが足りていない)と叩かれる材料になります。
そんな世界で「作画がいい」以上を連発すると、賞賛を交え「神作画」として語られることがあります。

また、「動画絵」では前述の通り「止め絵(静止画)」としてはクオリティを担保できませんので、作中の動画以外で雑誌の表紙やグッズに使用する(動画では無ない)「止め絵」を描くこともあります。
動画制作のアニメーターの場合もありますが、作品の産みの親である監督やイラストレーターが担当することもあり、「神絵師」として扱われることもあります。

【基礎知識3】アイドル女性声優

2010年代は「声優は声だけで勝負する世界」という常識が崩れ、演技力以外でも武道館コンサートを開いたり、バラエティじみたことを(盲目的・狂乱的に)求められた時代でもあります。

「演技できなくても容姿だけでファン(信者)を獲得している」というレッテルを貼られたアイドル的人気の(特に)女性声優を「アイドル女性声優」と嘯かれていました。
覇権候補(人気の出そうな)の作品に(容姿だけで)起用され、「客寄せパンダ」と評されることも珍しくありませんでした。(アイドル声優役を本職が声優の高野麻里佳さんの好演も見どころです)

【基礎知識4】往年のアニメファン向けネタも満載

このほかにも、『機動戦士ガンダム』や『あしたのジョー』などのパロディも散りばめられていますが、キリがないので割愛します。ぜひ本編で探してください。

基礎知識のまとめ

出張版Wikipediaみたいになってしまいましたが、「覇権・作画・声優」この3点は観る前に押さえておくと、数倍楽しめると思いますし、最低限「覇権」の概念を知らないと「結局なんだったの?」になる怖れはありそうです。
あと、埼玉県の秩父が、昨今多くのアニメの舞台にもなっている、というのはスパイス程度に覚えておいてください。

ちょっとだけネタバレ編

ここからはネタバレになりそうな部分も少し語らせてください。

いきますよ?

書き始めますよ?

読みたく無い人はブックマークして読むのやめてくださいね?

では始めますよ?

3

2

1

……

【ちょっとだけネタバレ編】アニメ・演出がすごい

作中に登場する派遣を争う2作品。『サウンドバック 奏の石』(以下「サバク」)と『運命戦線リデルライト』(以下「リデル」)。
声優さんの参加も話題でしたが、スタッフロール見てひっくり返りました。なにこの本気メンツwww

スタッフ(サウンドバック 奏の石)
プロデューサー - 原田拓朗、芦塚明子
監督 - 谷東
演出 - 森川さやか
キャラクター原案 - 窪之内英策
メカニックデザイン - 柳瀬敬之
キャラクターデザイン・作画監督 - 大橋勇吾
アニメーション制作 - コヨーテ
アニメーション制作協力 - 白組

トワコ 群野葵(高野麻里佳)
タカヤ 潘めぐみ
リュウイチ 梶裕貴
マユ 木野日菜
奏の石 速水奨

運命戦線リデルライト
アニメーションプロデューサー - 松下慶子
監督・絵コンテ・演出 - 大塚隆史
キャラクター原案 - 岸田隆宏
キャラクターデザイン・作画監督 - 高橋英樹
アニメーション制作 - Production I.G

充莉 高橋李依
清良 花澤香菜
デル 堀江由衣
詩織 小林ゆう
七菜香 近藤玲奈
圭 兎丸七海
悠樹 大橋彩香
Wikipediaより抜粋

作中の動画・CGもぬるぬるだし、スピンオフの期待が高まるのも当然のクオリティですね。

そして、要所要所の表現として、サバクは青(シアン)、リデルは赤(マゼンダ)で色分けされています。
この演出は『サマーウォーズ』を筆頭とする細田守監督を思い起こさせます。鑑賞する上でとても楽でした。

【ちょっとだけネタバレ編】脚本がすごい

終幕に近づくにつれ、回収されてくる怒涛の伏線回収。
もうね、序盤がやや退屈だなー、とか思ってたことを謝罪します。

そして何より、実写本編とアニメのリンクが素晴らしいのです。
まさに監督が届けたいメッセージ表現というか、作品は監督の魂そのものであることが美しく描かれていました。

このリンクが伏線となり、二重三重に回収されていく様が、カタルシスというかアハ体験的に脳汁を吹き出させます。

実写作品ではあまり用いられない、「アニメならではの手法」な気がしますので、アニメ好きの王道的展開とも言えるんじゃないでしょうか。この点はアニメ好きには太くぶっ刺さりました。

【ちょっとだけネタバレ編】キャラが立っている

この作品は基本、監督とプロデューサー4人を中心に物語が進み、比率としてはサバクが多めに描かれています。
その中で斎藤監督・行城Pの立ち振る舞いにより、助監督、作画・背景監督、外注先、声優などと絡む群像劇になる訳ですが、どの登場人物も個性豊かに描かれます。

葛藤、作品への情熱、マーケティング的視点、それぞれの成長、それらの要素がアニメ制作を通じて、広範囲に、無邪気に、熱量をもって不意に飛んでくる作品でした。

そしてほぼ全てのキャラの印象は、登場時と終幕付近で異なることでしょう。
成長するキャラもいれば、感情・思考が変化する者、キャラの主張は変わらないが視聴者側が真意を知ることでキャラの印象が変わる……などなど、さまざまで捨てキャラが少ないのが印象的でした。
個人的には、行城Pに感情移入して観ていたので「ちょっと損したかな?」とすら思いましたw

小野花梨さん演じる“神アニメーター”並澤和奈の恋愛事情も気になります。タクシーのその後もね。

さいごに

年代的には2010年台の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』とか『STAR DRIVER 輝きのタクト』あたりの舞台裏な気がしました。

女性週刊誌『an・an』(マガジンハウス)に2012年10月(1830号)から2014年8月に連載され、2014年8月に単行本が出版された[2]。連載時から挿絵はCLAMPが担当。2015年には第12回本屋大賞にノミネートされ、3位[2]。2017年に文庫本が刊行された[3]。
Wikipediaより抜粋

キャッチコピーは「好きを、つらぬけ。」。
公式TOPのやや下部には「想いと想いがぶつかり合う!胸熱お仕事ムービー!」とあります。

時代背景としても、前述の通りアニメ戦国時代かつ、ワークライフバランスとか36協定とか薄い時期だったと記憶しています。
いかにいいアニメを作るか、を追い求めていた時代なのかもしれません。(アニヲタとしても)

2022年現在の価値観で見るとブラック企業なのですが、クリエイティブってこうなんですよね。生活の手段としての仕事にしちゃうと難しいんですけど。
表面だけ観ると「こんな働き方してたら身が持たん」と妙に冷静になったりしちゃいましたが、「人生の数年はこんな風に熱く生きたい」と思えたのが冒頭で挙げたキーワード「青春」の部分。

ただ、個人的にぶっ刺さったのは仕事のやりかた。
行城P贔屓になりますが、「魂込めた、良質の作品が売れる訳ではない。クソみたいな作品だってやり方次第では売れる」んですよね。(特に現代は)いいものを作るだけで評価される時代ではないんですよね。悲しいかな。

だからといって、熱くなることが不要なわけではない。

売り方だけに終始して「納得できないものを、世に出したらお仕舞いなんだよ」。


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