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身体が震える理由

ここ数日晴れの日が続くことが少い。冬の時期特有の雲に塗りつぶされたような立体感のない空はとても好きなのだが、とにかく毎日が憂鬱で身体が動かない。朝起きなくてはならない理由も無く、布団の外は白い息が出るほど寒いので布団から出たくない。

 なんの予定もなく、好きなだけ暖かい布団で眠れるのはとても幸せだ。何物にも代えがたい幸福を感じる。それは単に布団の中の心地よさから感じている幸福だけではない。

 際限なく仕事が忙しかった時、どれだけ欲しても睡眠時間が取れなかった時、何もせずに布団の中で好きなだけ寝て過ごすという幸せを実感した。そして、自室と寝床を失った時にも改めて布団の中の幸せを思い知った。

 家に帰れず、数少ない知り合いの家を点々としたり、それもかなわない時にはネカフェやカラオケボックス、そこからお金が無くなるとゲーセンのトイレ、駅前のベンチ、シャッターの下りた店舗の前、歩道橋の下などで身を小さくしてバックパックを枕代わりに眠っていた。

 まだ気温の高い夏場なら問題ないのだが、冬場に外で眠るという行為は本当に死を身近に感じさせられる。刺すような冷たい外気と、冷え切ったコンクリートが身体から体温を奪い続けてくるからだ。

 当時私が薄着だったこともあるのだが、たまらず近くの居酒屋の裏口から使わなそうな段ボールと新聞紙を拝借してしまった。クシャクシャに丸めた新聞紙を着ているパーカーの中に詰め、コンクリートに段ボールを一枚敷いて、その上に寝るようにしてからは幾分か寒さがマシになったのを覚えている。

 そんな生活が何日も続いたわけではない。こうして無事家に帰宅し、少なくとも外よりは暖かい部屋でこうして文章を綴れている。知人と「ホームレスの練習ができたね」などと笑い話として語る事もあるのだが、出来れば居場所や行き場を失った時の絶望感はもう二度と味わいたくない。

 シーズン的にもかなり寒い時期ではあったが冬本番だった訳でもないので、この時期のホームレスの人々の事を考えるとそれだけで気分が暗くなってしまったりする。将来的に雨風がしのげる家や、誰かと繋がることの出来るネット環境だけは失いたくないと思っているのだが、、

 こうして寒さが厳しい季節になってくると、つい思い出してしまう記憶であり、私の身体が震えているのは室内の寒さからなのか、この寒さの中を宿無しで過ごさねばならない将来が待ち受けている不安からなのか、最早わからない。

おいしいご飯が食べたいです。