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季節外れのWHITE ALBUM②~cc共通ルート~

本記事はWHITE ALBUM2 Extended Editionの感想を書き連ねたものです。未プレイの方にはネタバレだったり意味不明だったりで百害あって一利なしです。プレイしてから再度お越しいただけると幸いです(布教)。

前回記事はこちら。

introductory chapterを2周して『雪が解け、そして雪が降るまで』を読んだ時点では春希ともどもかずさに完全に心を持っていかれ、自分はかずさ派かな~
と思っていたら『歌を忘れた偶像』で雪菜にもやられた。負けヒロインに感情移入しがち。

closing chapter 共通ルート

OP冒頭の演出が本当に見事。たった数秒、手を映すだけで春希と雪菜の3年間を生々しく描写してみせている。

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二人の手が一番近づいたとき、先にくじけてしまったのは雪菜だった。それが暗示しているのは1年生の大学祭のことか、医学部パーティー後のことか、クリスマスイブのことか。
『幸せな記憶』は春希視点で1番はかずさについて、2番は雪菜について歌っている。かずさの記憶を引きずりながら雪菜から逃げ続けるという情けない歌詞。

共通ルートで何よりもまず語りたいのはクリスマスイブ、春希を拒絶した雪菜の心理。

このときの雪菜は
春希がかずさのことを忘れていないのに嘘をついて“雪菜を”騙そうとしたこと
ではなく
春希がかずさのことを忘れていないのに嘘をついて“春希自身を”騙そうとしたこと
を問題視し、「ずるいよね」と言っている。

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「あなたは…何年たっても、わたしに嘘をつき続けるんだね」
という言葉は雪菜を騙したことを責めているように聞こえる。ところが、
「忘れられるはずのない思い出を、忘れてしまったかのように嘘で塗り固めて、ずっと、自分を殺して生きてくつもりだったんだね」
と続けており、春希が自分を殺して生きていこうとしたことを嘆いているのだと分かる。

だから「嘘つき…嘘つき嘘つき嘘つき…っ」の声も表情も、怒りをぶつけるのではなく悲しみが溢れている。

さらに決定的なのはホテルに一人残されての独白。

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自分の想いだけを遂げるには春希を受け入れればよかった。一時は「駄目なのに…最低なのに…今の春希くんを否定できないよ」と自分の想いに身を委ねていった。しかし最後の最後に顔を出す本当の雪菜はそうではなかった。想い人が自分だけのために心を殺して生きていくことに耐えられなかった。
この一連の行動は、ある意味では自分で火をつけて自分で冷や水をぶっかけただけともとれるが、それでも相手の本当の幸せを願う強さという点で小木曽雪菜は並外れた人間だと言わざるをえない。

そして、春希はそんな雪菜の思いに気付いていない。かずさを忘れていなかったこと、それを隠し通そうとしたことで雪菜を傷つけたと思っている。
そのすれ違いを端的に表すのが次の画像の対になった二人の言葉。

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思いのすれ違いを描くこの手腕は芸術的とさえいえる。

で、この決裂のあと個別ルートに入っていくわけだが、誰かと触れ合いたいって「そんなこと、思っていいわけがない」だろ!と心の中で叫びながらもまずはサブヒロインから…
…早く雪菜ルートやりたい。

↓↓↓2020/7/11追記↓↓↓

雪菜はマッチポンプと書いたが、そもそもなぜ雪菜は春希を誘惑したのか。春希の分析を借りれば、3年間の辛く苦しい時間によって雪菜は追い詰められ、気持ちが追い付かないまま無理やりにでも春希を受け入れて距離を縮めようとしてしまったのだ。
そのことを踏まえると、本文では否定したが、春希が“雪菜を”騙そうとしたことへの許し難さもやはりあっての拒絶だったのだろう。「何を忘れたって?何を消したって?」というセリフや、レストランでの「だってこれは…これはさあ…っ」というセリフには怒りがにじんでいる(ちなみに「嘘つき」6連発は、icの最後に流れるccのPVとcc本編で声の演技が異なっている。PVは糾弾、本編は悲嘆という印象だ)。
また、これは直接的に二人のやりとりに書かれてはいないが、かずさを忘れて仲間外れにしようとしていることに対して雪菜の内心で《仲間外れトラウマ》が作用した可能性もある。
このように、春希を拒絶したときの雪菜の心理は本文で指摘したような春希を思うものばかりではなく、もっと複雑だったと考えられる。小木曽雪菜はとってもややこしい女の子なのだから。

↑↑↑追記ここまで↑↑↑

ここからは印象的だったシーンにコメントを。

第1の山場は医学部パーティー後の公園でのやり取り。

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この悲痛なセリフ3連発からの…

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次にくる回想シーンでの「痛いの痛いのとんでけぇ~」の落差がエグい。まっすぐで明るくてかわいい雪菜はもういない。icをやってたときはふつうにかわいいくらいにしか思わなかったのに、もうその笑顔を同じ目では見られない。
3年の間に笑顔も変わってしまった。高校生編と大学生篇での印象の違いを生む要素の一つが前髪だ。前髪が短くなってまぶたの影が見えるようになるだけで笑っていても表情が翳っているように見えてしまう。

第2の山場はやはりクリスマスイブ。

見直してみてビビった。雪菜さん、やっぱり男たらしの素質ありすぎ。

魅力的で蠱惑的で煽情的なヤバすぎるものを見せつつも、それでは警戒されたため少女に素早くモードチェンジ。
少女の口調に騙されて深く考えもせずに再び距離をつめてきたところで
「今日…泊まってくるって言ってきた」とダイレクトアタック。

からの…

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「受け取ってくれませんか?
三年前に渡すつもりでずっと包んであったままの、わたしを」

こんなこと言われて理性が吹っ飛ばない男いる?丸戸先生男のツボを押さえすぎ問題。変態ですか?(褒め言葉)
でも春希はこの時点では完落ちしなかったんだよな…むしろこの後いったん冷静になるし。

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それをひっくり返して春希の理性を決定的に崩壊させたのが「左の八重歯」。丸戸先生変t(ry

そして例の決裂に至る。うーん雪菜さんマッチポンp(ry

Twinkle Snow~夢想~

春希とかずさが付き合うifルート。かずさのキスを目撃した後の雪菜の行動でルート分岐する。

雪菜とかずさのほんのり百合いじゃれあい。いいぞもっとやれ。
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あれ、やめちゃうの?

かずさは雪菜に敵わないと思っていた。気持ちを素直に表すことにおいて。
雪菜はかずさに敵わないと思っていた。気持ちの強さ、激しさにおいて。

どちらが選ばれても、このコンプレックスのせいで三人の関係はこじれていく運命にあったんだな…。

それでもこのルートはうまくいく可能性があった。雪菜は恋を諦めて新しい仲間を増やし次に進もうとしていた。それなのに、あの男がぶち壊してしまった。
…ホント、中途半端な優しさは罪だよ、春希くん。

歌を忘れた偶像

たかが学園(高校でないのはお約束)入りたての弟の戯言に本気になる父。雪菜の異変に気付いているのは母だけ。使えない男ども…お父さんはもうちょっとしっかりした人だと思ってたんだけどな。
かずさは「あたし、これから親孝行するんだ。小木曽みたいないいやつになるんだ」と言って旅立っていったが、大学生になった雪菜にとって家族は邪魔くさい存在だったのでは。不良娘が孝行娘になり孝行娘が不良娘になる皮肉。
それにしても、玄関先でイチャイチャしていてもケンカしていてもこの家族は気付かないのだろうか?

切ないラブレターとしての『届かない恋』は本来の受け手に誤読され、受け取るはずのなかった人物に誤配され、呪いの歌となってしまった。
「本物の、絶望の表情に彩られた、春希ですら知らなかった、変わってしまった雪菜」はクリスマスイブに再び現れる。

雪菜は春希には信じられないほど優しいのに、他の男には信じられないほど残酷だ。あれほどこだわっていた三人の幸せを願うことも、春希と結ばれていてこそのもの。いい子の雪菜はこんなエゴイスティックな子に育ちました(ニッコリ)
このときの雪菜を“人間臭くて奥深い”と思うか“自己中心的であさましい”と思うかで好悪が分かれるところ。私は最初はちょっと引いたが、物語を通してみると美点と欠点の山と谷がどちらも際立っていて、ただの善人ではない奥深いキャラクター造形になっていると思うようになった。

2020/6/30記事の構成を変更

最後までお読みいただきありがとうございました。
物語は途中、というかいよいよこれからのところですが、つらつらと感想を綴る想いのシリーズはここまでで中断します。
その代わり、物語の構造にフォーカスした考察寄りの記事を構想しています(エターなるフラグ)。
それではまたお目にかかれる日がきますように。

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