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父の最強ジンクス

「お父さんが好きだったものを置いてあげたりしてくださいね」
そう、葬儀会社の人(といっても近所の花屋の社長だが)に祭壇を設置してもらうときに言われたが、私達は「はて…?」と父の好きなものがとんと浮かばず、葬儀会社の人(父のことも知っていた近所の花屋の社長)が遺影に「なんかいわれとるよー!」と告げ口をしたくらい、父は娯楽のイメージのない人だった。

公務員を勤め上げ、地域の役員やらお寺の世話役やらを歴任したものの、長という立場には絶対にならず、家族にはいつも何をしているのかわからない人だった。
車は国産車、旅行も好まない、好きな食べ物は柿とか寒天とかおはぎとか素朴なもの。

なにが楽しみで暮らしているのだろう…?
親の死に目よりライブに行くと宣言している私にはずっと不思議な人だった。

父が死して後、家に関わるいろんな契約を名義変更していくなかで、父がケーブルテレビのCSチャンネルを2つ契約していることを知った。
1つは時代劇専門チャンネル。
毎月届くチャンネルガイドには赤ペンで観たい番組がチェックされていた。
「よかった…じぃさん愉しんでた」
とは、祖父である私の父を、ほぼ父親のように思っていた私の息子。

そしてもう一つのチャンネルがスポーツ観戦チャンネル。
父は熱心なドラゴンズファン、この地域でいうところのドラキチだった(不適切な表現とか言われないよね…?)。
しかし「球場に行くと負ける」と言って観戦には行かず、私が知っている限り名古屋ドームには行ったことがなく、ナゴヤ球場時代に幼い私を連れて行って私がひどく退屈したっきり試合を見に行ってはいない。
「観とるとまけるであかん」
テレビでさえ、そう言って、でもテレビを消せず、わざわざ風呂に入っていたこともあった。
悪態をつきながら試合結果を見届けたくてスポーツ観戦チャンネルに加入していたのだろう。

そんなドラゴンズ。
今季好調…というかもはや優勝しとる。
連勝が続いたり、勝ったときには、スポーツ新聞を祭壇に供えている。

しかしまぁ、父よ。
観てないと勝つってほんとだったんだね…

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