人狼ゲームで強くなるために。(下)

このページでおしまいです。




10 投げられたボールはいったん受けて、それから返す

 前段の「9 敵対的な反論、友好的な反論」とも関連のある事柄です。
 相手の意見を正面から論破しても、相手が意見を変えてくれないときがあります。たとえ、あなたの反論が完璧であったとしてもです。


 そんなとき、相手は

 「自分の意見や疑問が否定された→自分自身が否定された→この人はやはり信頼できない」

というような考え方をしていることが多いでしょう。
 相手は、あなたが自分の意見や自分自身を尊重してくれていないと感じ、反論の内容そのものでなく、あなたの態度や発言の形式に対して反感や不信感を抱いてしまっているのです。「理解はできるが納得いかない」状態になっている、と言い換えてもいいでしょう。そして、一度このような状態に陥ってしまうと、相手に考えを変えてもらうのは多くの場合困難です。


 では、どのような形式で発言するとよいのでしょうか。

「私は、あなたの意見とあなた自身を尊重する。あなたの立場からすれば、その意見や疑いが正当なものであることを私は十分に理解している」

というメッセージを送ることが必要です。
 そのためには、前段で書いたように「ただ」から始まる友好的な反論を用いたり、反論を始める前に一拍おいて「なるほど」と頷く動作を挟んで相手の意見を検討している姿勢を明らかにする、などが有効です。このような対応を意識するだけで、相手はあなたから「自分の意見と自分自身を否定されている」という印象を受けにくくなります。
 相手から投げられたボールをいったん受け止め、それから返す。これは、相互不信に陥らないためのコミュニケーションの方法として有力なものです。




11-1 信じてもらえない時は

 自分の主張が受け入れてもらえない、間違ったことを言っていないはずなのに村人だと信じてもらえない。こんな時、怒りや苛立ちが生まれるのは当然です。
 しかし、その感情をストレートに表明しても、周囲が考えを変えてくれることはまずありません。怒りや苛立ちなどの激しい感情は他者から共感を得にくく、人間は感情的になっている他者を見ると「周囲の理解と信頼を得ることよりも、自身の感情をぶつけることを優先させている人」と判断し、その発言を信頼しにくくなるものだからです。
 その一方で、信じてもらえていない状況下にあるのに感情の表出が過度に少ないと、それはそれで「この人は、信じてもらえなくてもいい理由(狂人である、人狼のゲームプラン上想定内の状況である、などです)があるのではないか」との印象を持たれ、やはり信頼してもらえなくなります。


 厳しい状況を乗り切るために、信じてもらえていないということに対する感情を、過不足なく表明する必要があります。
 そのためには、怒りや苛立ちを

「自分を信じてもらえていないことが悲しい」
「信じてもらえるに足る主張のはずだが受け入れられず、困惑している」
「みんなの信頼を得ることができず、申し訳なく思う」

などの感情に置き換えて伝えるといいのではないかと思います。
 信じてもらえていないことに対する不本意さや悔しさ、当惑や悲しさを表現しつつ、自分はいま必要以上に感情に流されておらず冷静さを保っている、ということをアピールしましょう。そのような姿勢に基づき、抑制的な態度で戦おうとする姿を見せることができれば、あなたを信じていない他プレイヤーもあなたの主張に耳を傾けやすくなります。その中の何人かは、あなたに対する見方を変えてくれるかもしれません。
 また、感情の置き換えを行うことには、自分に生まれた感情を客観的に見つめ、怒りを抑えて自分の主張を冷静に行うことを容易にする、という効果も見込めます。


 なお、感情を抑えられずに冷静さを保てなくなってしまっているときは、信じてもらえていない原因を他者に求めていることが多いでしょう。

「私がこれほど身の潔白を主張していて、その内容も正当なものなのに、みんなが私のことを信じてくれていない」

という考え方だと、怒りや苛立ちは他者に対する攻撃性として表れ、自分自身では制御しにくくなってしまいます。

「私がみんなに信じてもらえていないのは、私が十分に説得的でないからだ」

と視点を変え、原因を自分自身に求めることで、怒りや苛立ちはコントロールしやすいものとなるでしょう。
 信じてもらえない時、ネガティブな感情が湧き起こること自体を止めるのは困難です。しかし、その感情をそのまま他者にぶつけて更に信頼を失うか、うまく感情をコントロールして適切に表明し、逆境を覆すための武器とするかは、あなた次第であると言えるでしょう。




11-2 「パッション」の正体

 前段で、信じてもらえない時は抑制的に感情を表明し、冷静な議論の進め方を心がけるとよい、と書きました。しかし、そんな悠長なことを言っていられないシチュエーションも実際には多いでしょう。
 具体的には

「議論終了まで時間が残されていない」
「このままだと占い師である自分が追放され、村人が大きく不利になる」「自分が追放されると人狼勝利が確定してしまう」

といった場合です。このようなときには、むしろ怒りや苛立ちを積極的に発言に乗せ、共感を得る必要が出てきます。

 重要になるのは、まず「焦り」を表現することです。
 「猶予が残されていないことに対する焦り」は、多くの場合他プレイヤーと状況が共有できることもあって、比較的共感を得やすい感情です。そこで、焦燥感を強く表明することで他プレイヤーの共感を呼びつつ、焦燥感とともに怒りや苛立ちを強く表現しましょう。こうすることで、本来共感が得にくい怒りや苛立ちを一時的に共感してもらいやすくすることができます。
 身振り手振りを大きくしたり、早口で喋ったり、語調を激しくしたり、など動作や話し方のインパクトを意図的に大きくすることで、余裕のない状況を利用して自分の怒りを他者に伝染させることが可能になります。
 相手はあなたの怒りと焦りを自分自身のものであるかのように錯覚し、あなたを信頼しやすくなる効果が見込めるでしょう。


 切羽詰まった状況で重大な判断に迷ったとき、発言の内容だけでは人狼か村人かが定かでないとき、よくわたしたちは「その人にパッションがあるか、ないか」という点に着目して最終的な決断をします。
 「パッション」とは「村人や真の役職だけが持ちうる、論理を越えた何か」のような説明をされます。では、その「何か」とは一体何なのか? ということを適切に説明することは難しいのですが、多くの場合において、「パッション」がある、というのは

「適切なタイミングと手段で表明される『猶予が残されていないことに対する焦燥感+勝ちたいという切実な気持ち+自分が信頼してもらえないことに対する怒り』」

に他プレイヤーが共感を示している状態である、と言い表すことができるように思います。
 つまり、「パッション」は逆境から生まれるのです。


 状況を読み、自身の感情を制御しながら解き放ち、意図的に「パッション」を演出することは、非常に困難ではありますが全く不可能ではないと思います。
 それを上手く達成できたとき、あなたは形勢を逆転させて勝利に近づくことができるのではないでしょうか。


おわりに

 たいへん長い文章を読んでいただいて、本当にありがとうございます。いろいろな事柄について書きましたが、多くの項目で共通して伝えたかったのは「話すにせよ聞くにせよ、眼前の相手を尊重し誠実な態度で臨むことで、相手からの共感と信頼を得る」ことが結局は自分の主張を受け入れてもらうことに繋がるので、人狼ゲームで強くなるためにはそのようなコミュニケーションの様式を身に着けるのがよい、という点です。

 綺麗事だ、と思われる方もいるかもしれません。そうした方のために、少し違う視点からもまとめをしてみようと思います。
 多くの人間は、自分を尊重し誠実な態度を取ってくれる相手を「尊重しない」「信頼しない」という決断をする際に、大なり小なり心理的負担感や罪悪感を覚えます。人狼ゲームにおいて、あなたに対してこのような心理を抱いた相手は、あなたに付け入る隙を晒していることになります。
 眼前の相手を尊重し誠実な態度で臨むことで、相手に心理的な「貸し」を押し付けましょう。相手は、心理的負担感や罪悪感から逃れるため、あなたへの「借り」を返すため、あなたに対して無意識のうちに友好的な態度を取ろうとします。そこに生まれる隙に乗じて、自分の訴えや主張を相手に植え付けましょう。
 コミュニケーションに対する誠実な態度は、相手をコントロールするための最も狡猾な手段であるとも言えるのです。


 ここに書いてあることを信じるのも信じないのも、あなたの自由です。実践しようとするのか、自分には必要ないと考えるのか、それもあなたにお任せします(判断を相手に預ける手法です)。
 いずれにせよ、ここまで長らくお付き合いくださったあなたが、人狼ゲームにより強くなるよう、そして人狼ゲームの中でも外でもよりよいコミュニケーションが図れるよう、九州の隅っこより心から祈っています。

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