【台詞・朗読】勇者の兄

2015-08-12投稿 こえ部過去作品


何故、あいつを止めなかった。

母さん。何で止めなかったんだよ。

あいつに魔物なんて倒せるはずがない。

あいつ、死ぬよ。きっと。

そもそも・・・俺達みたいな普通の人間に出来る筈が無いんだ。

魔物を殺せるのは特別な人間だけだ。

そうだよ、俺達は勇者なんかじゃない。

あいつだってそうさ。なのに、何で止めなかった。

何で、あいつを行かせたんだ。

いいんだね?じゃねぇよ。なんだよあの質問!

なんであいつを信じるんだよ!

・・・俺の時は、すがって泣いて止めたくせに。

俺とあいつの何が違ってた?

俺だって勇者になりたかったさ、

でも諦めた。あんたを泣かせた事を後悔したから。

もうあんな顔、見たくなかったから。

でも弟を行かせるあんたを見て俺は思った。

もしかしてあんたは、俺に覚悟が無いのを見抜いていたのか?

俺に覚悟がなかったっていうのか?

泣いて止めたら、行くのをやめるくらいの覚悟だったって事か?

違う!!

何でだよ・・・、俺はあんたを守るって、

この家を守っていくって決めたのに

何で今頃、こんな気持ちにならなきゃいけないんだ。

そうさ。俺には何もかもが足りなかった。才能も、努力も、覚悟も。

分かってた、ほんとは分かってたんだよ。

あいつなら、行かなかった事を母さんのせいなんかには絶対しない。

勇者は、そんな弱い人間じゃない。

あいつは強い男だ。俺は兄として誇りに思う。思ってる。

誰よりもあいつの事を思ってる。

俺はあいつを見送った。だから今は泣かせてくれ。

俺があいつを許すのは、その後でもいいだろう・・・?

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