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【番外編】 男はこの痛みを知るべきだと思った日

「僕のためにツルツルにしてほしい」と言ったから、したわけですよ。とりあえず。探しましたよ。ブラジリアンワックス。
光脱毛だの医療脱毛だと即席でツルツルにできませんからね。ドキドキしながらサロンの扉を開くと思ってたよりもカジュアルな空間で優しげで同い年ぐらいと思しきお姉さんが出迎えてくれたので少々安心。

「デザインどうしますか」
デザイン。デザインてなに。あそこの毛にデザインも何もないだろう。と思ってポカンとしているとお姉さんは
「こういうデザインがあるんですよ」
とイラストを見せてくれた。

指一本分の線…心霊写真の目線みたいだ。逆に不自然じゃないのか。何を隠したいのかが強調されて逆にいやらしさが増す。そこが狙いのスタイルなのか。
トライアングル…これが人気らしい。小さく控えめな三角形。これもまた不自然さが気になるが、お手入れしてますよ、放置してませんよ、でも全抜きは玄人っぽいし温泉とか銭湯で恥ずかしいから…という恥じらいも残したタイプだ。
ハート…これは最強に意味が分からない。誰が喜ぶのか。男もいざ、という時にあそこの毛がハート型だったら失笑してしまわないのか。女も自分の毛を見て「ハァトの毛、かわゆー」などと思うのだろうか。だとしたらそんな女には絶対になりたくない。だって毛だよ。
ハイジーナ…いわゆるパイパンというやつがこれだ。言葉では聞いたことがあったが、これがそれか。海外ポルノ動画で見た女性はほぼこれだった。あの時はよく分からず外人の女にはあそこの毛が生まれつきないものなのかもしれない、と誰に聞くでもなく勝手に思い込んでいて羨ましく思っていた。確かに毛がないことで汚らしさが軽減される気がする。

さあ、どれ。いや、一択だろう。ここはハイジーナ一択。と潔く答えると、お姉さんは少し驚いた様子で
「全部抜いちゃって大丈夫ですか?」
と聞き返してきた。どうも、初回から全抜きをいく人は少ないようだ。この際全部抜いてしまおう。放っておいたらまた生えてくるというし、そこまで神経質になることでもない。頭の髪の毛も同じで、どうせ生えてくるのだから気に入らなければ次は違うスタイルにすればいいという考え方だ。

「じゃあ下着とって台に寝ておいてくださいね〜」
と言われたのでその通りにして待機する。
ノックの音がして先ほどのお姉さんがマスクをして入ってきた。
「じゃあ始めますね〜」

え。ちょっと待って。電気はこのままですか…。

煌々としたライトのもと、あられもない姿で脚を広げるのは耐えられないほどの恥辱。勝手な思い込みで薄暗がりの中で施術は行われると考えていた。マッサージやリラクゼーションエステではないのだから当然といえば当然だし、施術内容を考えると明るくないと無理なのだが、如何せん初体験のブラジリアンワックスだ。分からないことが多すぎる。自分の経験値の低さを恥じると共に、これを乗り切ったらまた経験値が上がる、と思って耐える。

アルコール消毒らしきものが行われたのち、脚を思い切り広げた状態でワックスが塗布される。ほの温かい、というかむしろちょっと熱い。その数秒後一気にビャッと固まりかけたワックスが引き剥がされる。最初のうちはいわゆるVラインからスタートしていたので想像していたよりは痛くないな、と恥ずかしさにも慣れてきて、余裕が出ていたのだが…。個人差はあろうと思うが、私の場合はIラインに差し掛かった時に地獄を見た。痛い。ほぼ粘膜と皮膚のスレスレの部分にワックスを塗って一気に引き剥がされるのだ。ッツゥ〜、となかなか出さないような苦悶の声を出してしまった。お姉さんは慣れた様子で痛い部分の背術の後はグッとその部分を手で押さえて痛みを和らげようとしてくれる。しかし、それもまた慣れていないので恥ずかしい。
痛さと恥ずかしさが交互にやってくるのだから、この時間が1秒でも早く終わってほしい、と言う気持ちしかない。

「次、Oラインいきますよ〜」
Oライン。自分では見ることのない部位だ。Oラインというのはいわゆる肛門周り。ここもきっと痛いに違いない。と思って怯えていたが、こちらは全くと言っていいほど痛みを感じなかった。
無事に初めてのブラジリアンワックスを乗り越えた私は鏡に映った姿を見てみた。すごい。毛がないだけでなんだか別人になったようなフォルムに見える。恐る恐る触ってみると皮膚が柔らかく感じられてツルツルというよりもフワフワだと思った。

それにしても、恥辱と痛みを乗り越えて「ツルツル」にしているということをJを含む男たちは分かっているのだろうか。彼らはきっとシャワータイムにカミソリで剃る程度で済むのだ。毛質も日本人とは違うし色だって黒々としていないから多少の剃り残しがあったとしても誰にも気付かれないだろう。とにかく「僕のためにツルツルにしてほしい」などと言うなら一度でもいいからブラジリアンワックスを体験してほしい。男性用のプログラムがあるサロンもあり女性の「ハイジーナ」にあたるのは「プレイボーイ」と言うらしい。というのも、毛を除去することによって余分な摩擦が減り、快楽を得る際により気持ちよくなれるというのも「ツルツル」の利点なのだという。では実際にどれほど違うのか試してみたいと思う。


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