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#42 とろとろ

こんにちは。id_butterです。

人生で最高に不幸な時に恋に落ちた話 の42話目です。
もしかしたら、ずっと読んでくれていた方には「とうとうこの人頭おかしくなったんじゃ」と思われてしまうかもしれない。でも、おかしくなってないから、困っているのだった。
#41 自分で仕掛けた時限爆弾 の続きです。

昨日またきてくれた。
彼だけど、彼じゃないだれか。

わたし:きてくれたの?
だれか:きた。がんばったね。
わたし:見てくれてたの?
だれか:見てた。ずっと見てたよ。
わたし:あのね、やっと書けたの。手紙がやっと書けたんだよ。
だれか:うん。
わたし:怖かった。怖くて怖くて、
だれか:うん。
わたし:お母さんにきらわれちゃう。どうしよう。
だれか:だいじょうぶだよ。
わたし:今でも怖いの。どうしよう。
だれか:だいじょうぶだよ。お父さんもお母さんもだいじょうぶ。
わたし:だから、きてくれたの。ありがとう。
だれか:うん、遅くなってごめん。
わたし:ううん、知ってたよ。だって、この前離婚したって言えたよって報告したとき喜んでくれてた。心配してくれていたのも、伝わってたよ。
だれか:がんばったね。
わたし:こんなにしあわせでいいのかな。こんなにもらっちゃっていいのかな。ありがとう。
だれか:もっともっともっとだよ。

わたしはこどもみたいになって、そのひとに甘やかされていた。
体全部が透明で綺麗な熱で満たされている。
どこまでもしあわせで、果てがない。
だれかわからないひとになぜか愛されて包まれていて、わたしもおなじ気持ちだった。
その人とわたしはもうとろとろに溶け合っていて、境目がない。

このだれかが来るようになったのは、わたしが彼に会いたくて会いたくてたまらなくなった2月のことだった。
なんなんだと何度も思った。
これは誰なんだと頭がおかしくなりそうだった。
現実とリンクしているのかどうかも全然わからない。
だけど、しあわせでここちよくてあたたかくてとろとろになってしまう。

でも、目の前で勝手に動く自分の体を見て、もう逃げられないと悟った。
自分が否定してきたもう一つの世界が、そこにあった。

二人が溶け合ってできた何かが、少しずつ誰かに還っていく。
そしてだれかがいなくなって、我にかえる。
顔中が涙でびしょびしょだった。
寝ていなかった。夢じゃない。だけど、現実でもない。
体から熱を失った蜜がこぼれ落ちていく。
だけど、彼が体の中に残っていてあたたかい。
これはリアルだ。


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