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イタリアアマーロ(Amaro)の 分類と種類

たぶん興味ない人には
スーパー興味がないだろう。
ただ、少なからずハーブやスパイスに
興味をお持ちの方がいたのならば
アルコールとハーブ、スパイスは
人類史において密接に繋がっている。
その中でも
イタリア薬草酒アマーロ(Amaro)について
知るべきだし区分け区分を作ってみた。


前回の記事では生い立ち、歴史について
記載。見てない人は見て欲しい。↓



この項はイタリアにおけるアマーロの
タイプを鹿山の独断で区分けしてみた。

①Fernet系(フェルネット)

② Alpine系(アルプス)

③Sicilia系
(シチリア島における柑橘系アマーロ)

④vermouth系(ベルモット)

⑤china系(キナ)

⑥Coka系(コカの葉系)

⑦Gentiana light系
(カンパリ、アペロール等々)

⑧Monastery系(修道院系)

⑨Rabarbaro系(ルバーブの根)(大黄)



なぜ独断かというと


アマーロには原産地呼称などの法で
守られてはいない。
よって必ずしも地域性、味の区分け、
これを使わなければいけないという
ルールは実は存在しない。
ただ、僕の中での区分けを紹介したい

アマーロの主産地は北イタリアであり
苦味が強く濃厚なのが特徴。

中部〜南イタリアにいくほど
ワインベースが顕著になり柑橘の
フレーバーが強くなる印象だ。



では早速紹介してゆこう

①Fernet系(フェルネット)


フェルネット系(Fernet)アマーロとしては
最もドライで苦味が特に際立つタイプだ。
それでいてミント、レモンバームなどの
緑色系ハーブも強い。

因みに『フェルネット.ブランカ』が
特に世界中で愛飲され有名であり
【Fernet】の呼称も【Branca社】が
1850年代に商品としてリリースした。

【フェルネットFernet】の意味は
中世時代の文献による
エリクサーの混合レシピによる名称。
いわゆる当時の万能薬。

中世時代に文献に度々登場する
混合レシピ【フェルネットFernet】
からのオマージュとして様々な草根木皮を
配合して造られるのだ。

この『フェルネット.ブランカ』の名称に
あやかって今ではたくさんの
『フェルネット○○○○』が各社存在する。

↑これはチェコで造られるフェルネット

左から
Fernet Jelinek(チェコ)
Fernet Brankca(イタリア)
Fernet Gulch(アメリカ)
Fernet Paolion(イタリア)
Fernet Vallet(イタリア)



総じてアマーロのカテゴリーとして
フェルネット(Fernet)は何か?と問われたら
出自は北イタリア系の高山系植物。
現在ではフェルネット(Fernet)と名のつく
商品は世界中に存在する。
強い苦味はゲンチアナを主体としたものだ。


飲み方は鹿山はフェルネットソーダが好きだ。
焼肉行った後に飲む
フェルネットソーダは最高だ。

コーヒーに10ミリほど足しても
複雑味が増すだろう。

はたまたイタリア系移民の多いアルゼンチン
ではフェルネット&コークが
国民的ドリンクだ。

著名なカクテルでは19世紀から存在する
ロンドンの老舗ホテルSavoy HotelのBarに
あるシグネチャーカクテルに
【Hanky-Panky cocktail】がある。

ジン45㍉
スウィートベルモット45㍉
フェルネットブランカ2dash

是非試して欲しい。


では次

② Alpine系(アルプス)


こちらも北アルプス系のハーブを主軸とした
アマーロ(Amaro)

Alpine(アルプス系)はFernet(フェルネット系)
と同じ北イタリア系の高山植物を主とする
傾向があるが違いはというと
味わいの仕上げ方だ。

比較的度数は20度〜30度代であり、
苦味はそこそこに甘みのボリュームがある
傾向である。
(もちろんメーカーによって違う)

飲み方としても食後酒として
オンザロックで飲まれるのが伝統的だ。

Alpine(アルプス系)と呼称するだけあって
生産地も北イタリアで造られる。

③Sicilia系
(シチリア島柑橘系アマーロ)



シチリア島における代表格の
アマーロと言えば
Amaro Averna(アマーロ.アヴェルナ)

先ほどのFernet系、Alpine系が
北イタリアなら
今度は南イタリアを紹介。

シチリア島及びイタリア南部の
アマーロの特徴はというと
柑橘のピールをふんだんに使用。

レモンチェッロ、オレンジチェッロでも
有名な同地はアマーロにも柑橘の皮が
大量に使われる。
またマルサラワインとしても
有名な地である事から
ワインベースを中心とした低アルコールの
アマーロが主体となる。

苦味はそこそこに柑橘の味わいの爽やかさ、
甘さが強いくワインベースが色濃い
飲みやすいアマーロだ。
冷やして食後にストレートが最適だろう。


因みに鹿山は2017年に
その年にシチリア島で開催された
イタリア人のバーテンダーの
カクテルコンペティションで
審査員として招待された。

日本では桜並木があるように
シチリア島でオレンジ、レモン並木の
街路樹がメインでちょうど4月だった事もあり
花が満開で美しかったのを記憶している

シチリア島で開催された
カクテルコンペティション↓

審査員達↓

シチリア島の地元のバーテンダーの人々↓






それでは次にいってよう

④vermouth系(ベルモット)

疑問に思う方もいるかもしれないが
総じてベルモットはアマーロの原型である。
鹿山はアマーロと同じ括りと捉えている。
アルコールに草根木皮を浸漬させるという
観点から鑑みれば同じであり
蒸留技術が確立する以前は
紀元前ギリシャ文明時代に遡れ
ワインに様々な草根木皮を浸漬し
薬効を求めたのがベルモットの起源であり
蒸留技術が確立し薬効を求めたものが
アマーロの起源でもある。

アマーロの歴史については前回の記事で
書いたので見て欲しい。



アマーロ(Amaro)の語源『苦い』という
意味にとって一番大事な要素のボタニカル
それが『ニガヨモギ』
名前の通りニガヨモギは苦い。
イタリアのベルモットには法律でしっかりと
ニガヨモギの使用義務が定義されている。
ベルモットはイタリアのみならず
世界中で作られているがやはり本家は
イタリアであろう。
主に北イタリアが主産地だ。
ベルモットの会社は総じて大手であったが
近年はイタリアの小さなワイナリー
セカンドビジネスでベルモットを手掛けるのが
多く見受けられる。日本でも日本産の
ベルモットを造る動きが多数から聞かれ
今後が楽しみである。
ワインに果実とスパイスを浸漬させる
サングリアが流行っているのだから
ワインにスパイスとハーブを浸漬させた
即席ベルモットサングリアが流行しても
おかしくはないだろう。



では次

⑤china系(キナ)

China系とは
いわゆるトニックウォーターなどの
原料にもなる苦味原料である
キナノキの樹皮の成分であるキニーネだ。

マラリアの特効薬としても重宝され
大航海時代以降世界に流通する。

アマーロの世界観においても商材としては
19世紀以降ニガヨモギ原料から
キナ原料に大きく移行する。

もっと細かく正しく付け加えると
商材がセパレートされた

ニガヨモギは【ベルモット】
キナは【キナワイン】


に分かれたのだ。


味わいはメーカーによって差があるが
糖度は高めでスパイスの味わいも
強めな傾向が多い。
シナモン、クローブ等の味わいに
キナの苦味を加える。
ベースはワインベースとスピリッツベースの
混合が主だ。
これもイタリアでは
北イタリアで多く造られる。

20世紀初頭より安価で現地で調達できる
ゲンチアナ根のアマーロが主流になるまでは
(カンパリなどの食前酒系アマーロ)
キナ系のアマーロが主流となる。


イタリアよりはフランスのほうがこの
キナリキュール及びキナワインは
生産が多様化されていた。

このキナワインは別名
【Quinquina wine】キンキナワイン
とも言う

現代にもある有名ブランドであれば
Dubonnet(デュポネ)、Cocchi(コッキ)
Byrrh(ビール)、Bonal(ボナル)がある。
フランスが多い

いわゆる大枠の製法カテゴリーでいうと
【Vin de liqueur】となる。
葡萄の発酵途中にアルコールを添加する製法



19世紀中頃以降にキナワインが流行した
その背景にはワイン通ならば誰も知っている
19世紀にワイン畑を壊滅状態にさせた
フィロキセラ害虫が起因している。
良質なワインが不足していた時代背景と
薬用酒が嗜好品に転換され隆盛した時代が
うまくマッチングし粗悪なワインを
甘味や苦味等で覆い隠し保存性も備えた
商品に昇華させたのだ。

さらには
明治時代はフランス産の
キナリキュール及びキナワイン(同義)
が多く輸入され人気を博した。

それに追随し日本の各社も明治時代に
このキナリキュールを生産している。

【機那サフラン酒】
『機那』は『キナ』と読む。
明治時代より現代まで新潟で作られている。
(現在は薬事法の観点からキナは無使用)


もとい日本でも明治以降
【薬用葡萄酒】というものが数多リリース
されている。

これは日本産キナワインの事である。

背景としては
明治以降本格的に始動した葡萄栽培
そして国産ワイン。
然しながら当時としては人々の嗜好の違い
及び流通と保存の脆弱さも相まる。
さすれば劣化したワインが生まれる。

ここに糖分を加え、飲みやすくし
アルコールを添加をすれば
常温長期保存も可能。劣化はしない。

これはサントリーの前身である寿屋の
赤玉ポートワインもその類だ。

更には謳い文句としても健康に良い滋養強壮を
広告として付け加え、
薬用としてなら男女格差のあった時代にも
女性は手に取りやすく、
尚且つ甘くて美味しいの二乗であり
人気を博した。

アマーロのカテゴリーである
China系(キナ)アマーロは日本でも
一大ムーブメントを起こしていたのだ。





では次


⑥Coca系(コカの葉)

↑BenFiddichにある
1950年代流通のブトン社の
コカの葉で作られたリキュール『コカ.ブトン』


この類はchina(キナ)系の
キナワインからの派生の分派。

キナワイン及びキナリキュールが
人気を博した19世紀後期に
コカの葉を使い
より効能を謳った薬用ワインである。

別名【マリアニワイン】とも言う。

マリアニとはこの製法の特許を取得した
人物の名前。
コカコーラの原点とも呼ばれてる人物だ。

気になる人は見てくれ




当時の広告
別名フレンチトニックワインとも言う

出発点はフランスだが
イタリアでもこのコカの葉を使用した
マリアニワイン、又はコカリキュールは
かつて多く存在していた。
日本でも代表的なリキュールは
かつてブトン社が生産していた
コカ.ブトンであろう。
味わいは液体に粘性が出るほど糖度が高く
そこに様々なスパイス、ハーブテイストの
リキュールとなる。
アマーロ(Amaro)の【苦い】とは
大きくかけ離れてしまっているが
これもアマーロの歴史としての一途の派生であるので皆に知って欲しい。


では次

⑦Gentiana light系
(カンパリ、アペロール等々)

Gentiana light系とは
先程のアマーロ(Amaro)の根幹である『苦味』
の主原料のゲンチアナの根を主体としたもの。

従来のアマーロはニガヨモギ、キナの樹皮が
主体だったのに対しこの辺りから
ゲンチアナ系が隆盛する。
その心はキナの樹皮は世界的に需要が増え
高騰し、ニガヨモギはベルモットやアブサンとしての使用が明確化する。
ゲンチアナは主にヨーロッパにも高山地帯に
多く自生し分布しているので容易に手に入りやすかった。

そんなゲンチアナ系
メジャーブランドで言えば
カンパリがそれだろう。 

低アルコールで比較的ライトな味わいに
抑えられている。

このゲンチアナ系のアマーロは
19世紀後期〜20世紀初頭以降
爆発的に流行する。
そして現代に至るまで主流派となる。
そうなる背景とは


製氷技術の進歩とソーダファウンテンの誕生


この二つの技術が一般化した事により
19世紀飲料革命が起きる。

冷たくて爽やかな炭酸の飲み口が
可能になったのだ。

そう、『冷たい』の一般化というのは
19世紀の『飲料革命』である。

日本酒で例えるならば
『冷や』と『冷酒』の違い。
日本においても冷蔵技術が発展以前は
熱燗か常温
温かい熱燗に対して常温が『冷や』と
呼ばれた。後の冷蔵技術に伴い
冷やすという選択肢が一般化した。

話を戻すとこの冷蔵技術普及により
カンパリやスーズ(ゲンチアナ系)
等の軽く爽やかな
アペリティーボスタイルの
冷たいカクテル用の
アマーロ(Amaro)が大流行する。

カンパリソーダなどがそれだ。

食事前の食欲を刺激する(食前酒)
においてアマーロのソーダ割り
はこの時代にスパークリングワインと並んで
一世風靡をする。

この時代こそがアマーロのルネッサンス期

カンパリの創始者ガスパーレ・カンパーリさん彼がアマーロソーダの概念を創り上げた



では次

⑧Monastery系(修道院系)

アマーロの原型は修道院における
修道士の製剤法の探究から始まる。
エッセンス抽出、濃縮、蒸留
様々な物質の混合の研究がなされ
それは【エレクシール】【秘薬】からの
出発点である。
その後訪れ文化が華開く
ルネッサンス期において
身体に良いものだけでなく、
美味しく飲ませる試行錯誤が
現代に通ずるリキュール及びアマーロの経路

イタリアで修道院系といえば
ルネッサンス期メディチ家の庇護のもと
発展した世界最古の薬局
サンタマリアノヴッェラが有名だろう。


コチニール(カイガラムシ)で赤く染色した
リキュール『アルケメス』は
カンパリの原型である。

因みに鹿山が所有する19世紀の古書に
このサンタマリアノヴェッラの『アルケメス』
であろうレシピの記載がある。

【Alkermes de Florence】

各種スパイスをアルコールに浸漬し蒸留、その蒸留液に薔薇水で希釈しコチニールで染色。


ようやく最後

⑨Rabarbaro系(ルバーブの根)(大黄)

このRubarbaroはイタリア語で
ルバーブの意味であるが僕らが食べる
茎の部分ではなくの部分だ。
ルバーブの根は中国では『大黄』という。

Rubarbaro系のアマーロで有名なのは
Zucca社のアマーロであろう。
他にも各社作っている。
先程紹介した
サンタマリアノッヴェラでも
Rubarbaro系の商材もリリースしている。
味わいはほのかな苦味と甘みのバランス。
食後酒向きであろう。

この主原料にある大黄も古来東西貿易の
時期から中国よりヨーロッパに流入しており
歴史的には薬。そのまま嗜好品へと転換し
現代に至る。


因みに大黄をベースとした日本の薬草酒に
福山藩が誇る1650年代から続く
保命酒がある。これも江戸時代から
鎖国の時代でも中国から 
大黄を輸入して作られている。


今でも保命酒は広島県福山市鞆の浦で
4つの蔵が脈々と受け継がれ生産されている。


以上僕の中でのアマーロの区分け。
アマーロは原産地呼称などの法で守られていないので一概に決まった定義は存在しないが
アマーロ好きバーテンダーとして
広く知って貰いたいが為に
広義の意味での紹介をさせて頂きました。

①Fernet系(フェルネット)

② Alpine系(アルプス)

③Sicilia系
(シチリア島における柑橘系アマーロ)

④vermouth系(ベルモット)

⑤china系(キナ)

⑥Coka系(コカの葉系)

⑦Gentiana light系
(カンパリ、アペロール等々)

⑧Monastery系(修道院系)

⑨Rabarbaro系(ルバーブの根)(大黄
)


商材の紹介は一部だったけど
BenFiddichには
たくさんのアマーロがあります。
飲みきて飲み比べしたら
経験値の比較対象ができてアマーロがより
好きになってくれたら幸いです。

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