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アマーロの歴史について。イタリアの苦味酒。

BenFiddich店主の鹿山です。






2019年にイタリアはフィレンツェにおいて
開催された【Florence Cocktail Week】
に鹿山は招待されそのイベントにて
BenFiddich的フィロソフィーセミナーをした

フィレンツェの夕暮れとフェルネットコイン






鹿山がイタリアに行ったらどうしても
行きたかったとこ





それはアマーロ(Amaro)の造り手を
どうしても訪ねてみたかった。






アマーロといえば





フェルネットブランカを代表格に
カンパリ、モンテネグロ、アペロール、
アヴェルナetc....

(BenFiddichにあるアマーロ達)






など苦味を帯びた草根木皮の集合体薬草酒。






上記大手はレシピは門外不出であり
ほとんどのブランドの生い立ちは
19世紀中頃〜20世紀初頭に確立している。






新しいアマーロのブランドは
第二次世界大戦以後は長らく
小規模でしか誕生していなかった。






然しながら2000年代以降の
クラフトカルチャーの隆盛により
小さなアマーロの造り手が
増え始めている現象がイタリアで起きている






その朗報をイタリア人バーテンダーから
聞いたので彼らに懇願しフィレンツェから
車で30分ほどかっ飛ばしたTavolaという町に
2007年に誕生したアマーロ製造場が
あると聞いて連れて行ってもらった。




Nunquam製造場




夫婦二人と娘の三人の
小さな小さな製造場である




アマーロ及び薬草酒に使われる様々な
ボタニカル達



手作業での造り
娘さんがレモンもオレンジの皮も
手作業で剥く



アルコールに浸漬中のボタニカル。





これは緑色系のアマーロ


緑色系のハーブを見事に抽出。
苦味も効いており、苦味の元はニガヨモギ


こうゆったもので苦味を作る↓
これは和名で言うと小ニガヨモギ
学名上はアルテミジアポンティカ


フィルター濾過に関してもジョウゴを使って
口の所に綿を詰めての濾過。
現代的な古典的手法


談笑する(左)母と娘
ほのぼのとしていて憧れる


Nunquam製造場においての商品達
様々なボタニカル配合で
商品を作り分けている



Nunquamアマーロ製造場は
2007年に開業と新しい。
特長において
1700年代、1800年代の
古い文献のレシピから引用し現代的に
復刻させている。
故に当時の手法を用い、古典的な手作業
自然の草根木皮の浸漬を心掛けている。
エッセンスなどは使わない。
(大手はエッセンスを使うケースがある。故にロマンが崩れるのでレシピが門外不出のケースが見受けられる)
1800年代、1700年代、それ以前のレシピの
復刻という事は言わば当時の
滋養強壮を目的とした薬である。
それを嗜好品として2021年の現代において
復刻させ売っているのだ。
もちろん全てのアマーロというのは
元を正せば全てが薬


では本題
アマーロとはそもそも何なのか?
どういった経緯で現代に至るのか?



まずアマーロ(Amaro)の意味は
イタリア語で【苦い】の意味



『良薬口に苦し』の言葉は日本だけではない
万国共通言語。
そう、アマーロ(Amaro)の生い立ちは
薬としての目的から生まれている。




ただ、僕らが嗜好品としての嗜んでいる
『アマーロ(Amaro)』という固有名詞の
嗜好品商材が一般化するのは
19世紀中期以降〜




鹿山が所有する
Pierre Duplais'が1855年に著した
酒類製造マニュアル
1855年に記された本には
『アマーロ(Amaro)』の記載は
一切見受けられない


『アマーロ(Amaro)』という商材名は
一体いつどこから生まれたのだろう

ではアマーロがアマーロに
なるまでの歴史を略式ながら
一気に紹介しよう

【①紀元前古代ギリシャ】
草根木皮をアルコールに浸漬
アマーロ(Amaro)の起源
(BC460年~BC370年)

医学界の父と言われたヒポクラテスまで
遡れるだろう。
彼はワインに様々な草根木皮を浸漬し
薬効を求めた研究者である。
この当時は蒸留酒というのは
確立されておらず
醸造酒であるワインそのもの自体の
アルコールに着目し、
アルコール抽出がより効果的というのが
この時代に既に立証されている。
アマーロ(Amaro)がアルコールに様々な
草根木皮の成分を抽出させたものという
定義から考えれば
これが原点とも言えるだろう

【②イスラム世界による蒸留技術の発展】
8世紀〜


西方における非キリスト者の亡命先として
ヘレニズム文化(ギリシャ)を受け継ぎ
隆盛した中世イスラム世界において
錬金術における蒸留技術は大いに進歩。
地の利から東方における中国文明圏も
取り入れながらこの時代の寵児となる。
この時代のイスラム世界においての
蒸留技術により香水、
主に薔薇水などが誕生。
後にできる嗜好品飲料の礎となる
この時代に蒸留技術は飛躍的進歩を遂げた

(当時のイスラーム帝国の勢力図)

【③ヨーロッパにおける修道士の探究】
〜修道会の誕生〜
12世紀〜

ここからはリキュールの原型となる。
無論、広義で言えば
アマーロもリキュールであり、
本当の意味でのアマーロの
生い立ちは修道会から由来すると
鹿山は考える。
ヨーロッパにおける修道会の始まりは
1100年以降から始まり
1100年頃イタリアにサレルノ医学校が
設立され、先に述べたアラブの錬金術師の
全ての著作と古代の巻物を研究、模範

製剤法における
エッセンス抽出、濃縮、蒸留
様々な物質の混合の研究がなされ
それは【エレクシール】【秘薬】である。

その後訪れ文化が華開く
ルネッサンス期において
身体に良いものだけでなく、
美味しく飲ませる試行錯誤が
現代に通ずるリキュール及びアマーロの
誕生となるのだ。

【④大航海時代による物流の発展】
(15世紀〜)

現在のアマーロの根幹になる味わいの植物が
入手可能になり、この時代から今の
アマーロの味わいの根幹が出来上がる。
クローブ、シナモン、ナツメグ、キナ

東洋とアメリカ大陸より
様々な植物が西欧にもたらされた時代。
更には西欧へ持ち込まれた植物を元に
植物研究がさらに進む。
大航海時代を象徴するボタニカルが
クローブ、シナモン、ナツメグ、キナ
この4つは今のアマーロの根幹でもある。

【⑤フランス革命〜修道会の解散〜】
18世紀後期以降〜

フランス革命始まりの日とされる
【バスチーユ牢獄襲撃】の有名な図


この事変が特権的秘薬だったものが一般に
おりてくる。ここがポイント


フランス革命やナポレオンの台頭、
ヨーロッパにおける当時の
啓蒙思想の発達による反修道会的風潮が
フランスで起こり修道会を解散させられる。
ある種の職を失う修道士達は高学歴な為、
今さら、ガテン系や農民に
などなるわけもなく(なりたくない)
当時彼ら(修道会)の専売特許であった
秘薬の知識を糧に
民間に伝え生きる活路を見出す。



【⑥〜産業革命期〜】
〜レシピを得た起業家の誕生〜
19世紀〜


フランスの混乱期より
修道士から得た知識を元に多くの
起業家が誕生し、フランスからイタリアへ
その流れは流入。産業革命期という時代も
重なり流通の発達、生活の向上が著しく
一般庶民の間でも
嗜好品文化が発達し需要が向上する。
この時代より
修道士からレシピを享受した起業家達が
現代における企業化した
いわゆるアマーロ『Amaro』の
生産者が台頭する
産業革命により流通網、生産力向上により
人類は飛躍的に進歩するのだ。

【⑦19世紀初頭〜中期】
『アマーロ(Amaro)』『苦い』
〜商標の誕生〜


修道会から企業化し飲みやすく洗練された
薬草酒は
イタリア一般民衆において
嗜好品として定着した。
それはいつしか
食事前の食欲を刺激する(食前酒)
食事後の消化を容易にする(食後酒)
この苦味酒文化が薬である滋養強壮から
嗜好品へと変貌してゆき
いつしかそれを総称して
『アマーロ(Amaro)』『苦い』
と呼ばれるようになった。



【⑧19世紀後期〜20世紀初頭】
〜製氷技術とソーダファウンテンの誕生〜 
〜アマーロの流行〜


この二つの技術が一般化した事により
19世紀飲料革命が起きる。

冷たくて爽やかな炭酸の飲み口が
可能になったのだ。

そう、『冷たい』の一般化というのは
19世紀の『飲料革命』である。

日本酒で例えるならば
『冷や』と『冷酒』の違い。
日本においても冷蔵技術が発展以前は
熱燗か常温
温かい熱燗に対して常温が『冷や』と
呼ばれた。後の冷蔵技術に伴い
冷やすということでバリエーションが増えた

話を戻すとこの冷蔵技術普及により
カンパリやスーズ(ゲンチアナ系)
等の軽く爽やかな
アペリティーボスタイルの
冷たいカクテル用の
アマーロ(Amaro)が大流行する。

カンパリソーダなどがそれだ。

食事前の食欲を刺激する(食前酒)
においてアマーロはこの時代に
スパークリングワインと並んで
一世風靡をする。

この時代こそがアマーロのルネッサンス期


ソーダファウンテンと製氷技術の確立は
現在に至るBar業界の
確立といっても過言ではない。





【⑨第二次世界大戦以後〜2000年代】
〜アマーロの衰退〜


1945年以降
新しい世界基準、価値観が生まれ
世界中のものが容易に手に入る時代の到来

人は新しい価値観を求め
古い、伝統的なものというのは
日本でもそうであったように
いつしかダサい物になった。

アマーロというのもイタリアでは
『おじいちゃんが飲むお酒』という
レッテルが貼られた。

ただ、これはイタリア国内での話しであり
イタリア系移民というのは
中国系移民同様世界中に散らばっている。

例えばイタリア系移民の多い
アルゼンチンでは
フェルネットブランカ(アマーロの品名)
は永遠に潰えることのない人気銘柄

フェルネットコークは
アルゼンチン人の国民的ドリンクだ
(フェルネットブランカ✖︎コカコーラ)

因みに鹿山もラムコークなんかより
フェルネットコークが大好きだ。
スパイスの集合体のコーラに
薬草ボタニカルの集合体のアマーロが
合わさる全量ボタニカル集合体の
ドリンクなんて素敵じゃないか

アルゼンチン人にあったら
こう聞いてみて欲しい。

【Do you like fernet coke?】

彼らの顔はほころび
友達になれるだろう

【⑩2000年代以降〜】
〜アマーロ再びの隆盛〜


2000年代以降に
カクテルカルチャーに火が付いた。
今だとあまり言わない言葉だが
ミクソロジーカクテルという
新しいスタイルのカクテルが流行し、
既製品を使わない
フレッシュフルーツ、スパイス、ハーブを
使ったカクテルが流行。
今だと当たり前に思うかもしれないが
このスタイルというのは当時世界的に
革命を起こした。
その後、スペインで流行した
エルプジレストランのような分子料理から
オマージュを受け様々な
最新機器でカクテルを作る。
その後、
2010年くらいにある程度行き着いたのか、
原点回帰が始まり19世紀〜20世紀初頭時代の
製氷技術が一般化した事により生まれた
カクテル文化隆盛期時代
(19世紀〜20世紀初頭)
クラシックカクテルのツイスト時代が到来。


この2010年あたりからアマーロが再び流行る


きっかけは歴史に埋もれた
クラシックカクテルの発掘、復興

古いカクテルブックには
アマーロを使うレシピが散見されるのだ。

そしてアマーロというのは苦い
その苦味がカクテルに甘みや酸味ではない
新たなテクスチャーとしてカクテルに
奥行きを与えてくれるのだ。

更にいうと2010年以降は
今までBar文化が乏しかった国々でも
経済発展に伴いBarが誕生する。
代表されるのが中国や東南アジアの国々。
そういった国々では
西洋のバーテンダー達が最初に
コンサルティング等で来日し、
文化と土台を作ってゆく。
よってアジアの国々のBARは
アメリカンスタイル的だったり
ヨーロピアンスタイル的だったりする。

自ずとアマーロの世界への出荷先の母数も
増えたことだろう

日本は?というと
僕がバーテンダーを始めた2004年当時に
比べると認知度はグッと上がったと思う。

アマーロなどの草根木皮の集合体は
薬草酒であり、ここ数年で
薬草酒専門Barも増えている。
みんな『薬草酒Bar』でググってみてくれ。
日本全国たくさんの『薬草酒Bar』が
最近増えているのだ。
かくいうBenFiddichも
薬草酒を主体としたBarである。

(BenFiddichのバックバー)



これが現代の僕らが飲んでいる
『アマーロ(Amaro)』
という呼称の生い立ち。
実は呼び名自体はそんなに歴史が
あるものではない


またアマーロ(Amaro)の呼称は
イタリア国内においての
苦味薬草酒の総称であり
近隣諸国でもアマーロ(Amaro)と
同じような製法で作られる
苦味薬草酒がある。


例えば
旧ソ連圏においてはアマーロと
同じベクトルのものは
Balsam(バルサム)と呼ぶ。

これはラトビア(旧ソ連) の
Riga市(リガ)にある
【Riga Black Balsam】から端を発し
有名になり当時の旧ソ連圏において
同様の呼称が広まり生産が広まった。
遠くは極東の地であるウラジオストックの
北にあるウシュリースク市にまで
Balsam(バルサム)の工場はある。




はたまたイタリアのアドリア海の対岸に
あるクロアチア及び
旧ユーゴスラビア圏内での
アマーロのベクトルは
【Pelinkovacペリンコバック】と呼称

クロアチア語である【Pelinkovac】の意味は

Pelin(ニガヨモギ)kovac(〜により)

『ニガヨモギにより作られた』
という意味の商標となる。

これはニガヨモギを主体として
苦味の味わいを付けた
アマーロという事になる。

残念ながら
バルサム酒もペリンコバック酒も
日本には正規では輸入をされていない。

両方BenFiddichにはあるので
飲みに来て欲しい。




次に
アマーロ(Amaro)を構成するボタニカルは
どういったものなのだろう?


アマーロ(Amaro)は語源の通り
【苦い】の意味。
この苦味の根幹が
主にこの
三つのボタニカルが主軸となる


左から『ニガヨモギ 』
真ん中 『ゲンチアナルテア』
右 『キナ』


アマーロ(Amaro)の苦味の元というのは
この三つのいずれか、
もしくは複数組み合わせ
によって生まれる。
匙加減は各生産者に委ねられる


又、これら三草は別の酒類、飲料としても
有名だ。

①『ニガヨモギ』は言わずとしれた
アブサンやベルモットにも必ず

②『ゲンチアナルテア』は
カンパリやスーズの苦味の元

③『キナ』は
トニックウォーターの苦味の元としても有名


先ほど長々と書いたアマーロ(Amaro)の
年表について復習になるが
アマーロ(Amaro)のルーツは
紀元前ヒポクラテスの時代より
ベルモットがそれである。
それはワインに浸漬したニガヨモギ。

その後の15世紀〜の大航海時代以降に
キナの樹皮がヨーロッパ国内でも流通
トニックウォーターの起源でもある。

19世紀に企業化したアマーロ生産者は
19世紀当時のアマーロ(Amaro)の苦味は
キナが主流であった。

いわゆるキナリキュールである。

キナリキュールもアマーロ(Amaro)である。
しかしキナはヨーロッパ原産ではなく
南米などの別大陸の輸入品であることから
後に高騰し
ヨーロッパ原産で安価に
手に入る苦味健胃剤であった
ゲンチアナルテアにとって代わる。



アマーロ(Amaro)というのはこの三つの
いずれかの【苦味】を軸としたテクスチャー
に香り、味わいを構成させるボタニカルを
フレンチのソースのように足してゆく。

いくつかわかりやすく区分けしてみよう。

味わいを構成するのに
五つに分けることができる

【①柑橘系のボタニカル】
オレンジピール、レモンピール、
ベルガモット等の爽やかな構成部分

【②スパイス系のボタニカル】
シナモン、クローブ、ナツメグ、カルダモン
コリアンダーシード等の
スパイシーな構成部分


【③緑色系のボタニカル】
ミント、レモンバーム、ローズマリー、
タイム、セージ等のハーバル緑色系構成部分

【④お花系のボタニカル】
バラ、カモミール、ジャスミン、
オレンジフラワー等の華やか系構成部分

【⑤ルート(根)系ボタニカル】
ジンジャー(生姜)
カラマスルート(ショウブの根)
オリスルート(ニオイアヤメの根)
アンジェリカルート(西洋当帰の根)
ルバーブの根(大黄)
等の味わいに奥行きを持たせる構成部分






以上の【①苦味】を軸にした
『②花系』『③根系』『④緑色ハーブ系』
『⑤柑橘系』『⑥種子、樹皮スパイス系』


これらの草根木皮集合体がアマーロ




ではそのイタリアにおける
アマーロ(Amaro)にも
カテゴリー(分類)はあるの?




はい。あります。

僕の独断で大きく分けると


①Fernet系(フェルネット)

② Alpine系(アルプス)

③vermouth系(ベルモット)

④china系(キナ)

⑤ Rabarbaro系(ルバーブの根)(大黄)

⑥Sicilia系(シチリア島柑橘系アマーロ)

⑦Monastery系(修道院系)

⑧Gentiana light系(カンパリ、アペロール等)


このカテゴライズとしては
長くなるので後編に詳しく書きたいと思う。
楽しみにしてて欲しい



長くなったので一度締めます。
続きはまた次回




バーテンダーの僕から言わせると
アマーロは(Amaro)
まるでカクテルのように積み重ね
一つのグラスならぬ
一つのボトルに作品が収まり
さながらボトルカクテルと捉えている。


アマーロ(Amaro)のボトル一つ一つを
とっても皆、全てが配合が違う。
できたら様々なアマーロ(Amaro)を
飲み比べて欲しい。

その比較対象が経験値を積むことで
そのボトルに含まれる素材の強弱を
感じとることができるようになり
個々のボタニカルに興味を湧き、
後に植物に興味を持つことができるだろう。



植物は良い






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