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「進撃の巨人 果てに咲く薔薇」

 http://kodansha-novels.jp/1904/attackontitan/
 こちらの本について、わたしからのコメントです。

 彼女達がうちに来たのは、2018年の、いつのことだったかな。
 そんなにはやい時期ではなかった、ことは確か。
 馴染みの編集さんが、「ちょっと会って欲しい人がいるんですよ」みたいな感じで紹介してきた。最初は、は? え、何言ってるの、っていう感じだった。正直なところ。
 嬉しい! 絶対わたしがやります! という感じではなかった。正直にいうならば。作品はもちろん知っていたし、好きだったし……いや、知っていたからこそという方が正しいのだろう。知っていたからこそ、いきなりそんなことを言われたら、面食らう。「わたしの師匠筋にあたる人がみんなすごく好きで、だから自分の系譜にもないことはないとは思っていて。あと音楽が……昔から好きで、近くはないですけど、ご縁もあって……」とか、しどろもどろに言ったけれど、そう説明しながらも、断る心づもりの方が大きかったのだと、今となっても思う。
 だって、いや、だって、ねぇ? よそのうちの子なわけでしょう、しかもそんな、おっきな、あなたのところの、大事な……。
 ……いやいやもっとふさわしい人がいるんじゃないですか。なんで、わたしに……というようなことを言っているうちに、うやむやのまま紹介された。
「まあちょっと、ちょっと会うだけだから」そんな感じで。もしかしたら口車にのせられたのかもしれない、わたし。

 彼女達は、海を越えてやってきた。

 どうも……どうも……。言葉は? ああ、そう……もうそのままでもいいんじゃない? そういうわけにもいかないっか……。でも……ああうん……そう、そうね……。ええ……まあ、うん……いや、どう? 無理なんじゃ……いや、ううん……まあ。
 ……とりあえず、なんか……あたたかいスープの一杯でも飲んで、ちょっと落ち着いてちょうだい。狭い家だけども……。

 そんな感じで、ぎこちなくわたしは、対応した。彼女達に。

 ──で。正直なところ、正直なところよ、わたしはよそのうちの子を育てるの、そんな得意なわけじゃないのよ。経験はないこともないけど……上手くやれたと思ったことなんてないし。だいたいこう、至らなさで、後悔ばっかり残るし。自分の子はね、まあその辺諦めつくわけじゃない。そういう親からうまれたんだから諦めなって。でもよそのうちの子はさぁ……。

 それなりに短くはない期間、ものをつくるということをやってきて、苦い思いだってしているのだ。それ以上に、幸福な人生を送らせていただいているけれども。
 わたしじゃなくてもいいんじゃない、とわたしは、それこそ何度も心の中で呟いた。

 わたしじゃない方がいいと思うよ。わたしじゃなくてもいいんじゃない? わたしじゃなくてもいいとは思うけど……ああ、だめよ、だめ、そんなの……いい? ここは、こう。こうしてくの。こうだよ。うん。上手じゃん。うんうん。

 そうこうしているうちに、ああ、こりゃもう最後までだなと、すっかり心を決めてしまっていた。そういうの、よくわかるのだ。曲がりなりにも、自分のことだから。そうして、しばらく一緒に暮らして。
 最後まで、よそのうちの子よ、大事な預かり子で、わたしの子ではないけど……そう、言い続けてきたんだけども。
 最終的に、最後になって、まあ、ちょっと諦め気味に思った。
 あなた達、どうしてうちに来たのか、なんとなくわかる気がする──って。
 頼りない養い親だけど、ねえ、たくさんの人に愛されるといいね。……この国でもね。

 最後の原稿として、彼女達を送り出した時に、元凶というか発端というか、とにかく、古なじみの編集さんが聞いた。
「どうです? 子供は駄目でも、姪っ子ぐらいには、なったんじゃないですか?」
 ならないよ、とわたしは心の中で答える。
 よその子は、よその子よ。それはずっとそうだし、かわりようがないじゃない。

 よその子だけどねぇ…………いい子だし、大事な子よ。それだってその通りでしょ。あーあ。
 これだから嫌よ、よその子って。
 わたしの子は、死ぬまでわたしの子だっていえるけど、よその子は、最初がわたしの子ではないんだから、ほら、こうしておくる日が、来てしまうじゃない。
 心配は、していないわ。わたしの力不足があったとしても……まあ、これ以上は、でないわ、力。
 それじゃあ、いってらっしゃい。
 ああ、うん、そりゃあね……。まあ……うん。楽しかったわよ。楽しかったわ。どうも、ありがとう。



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