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[ep.2]後悔とオンラインMTGと山わさびと

【今回のあらすじ】
徒歩参加者がスタートし、運営・サポートスタッフはオンラインでMTGを実施しました。

【前回までのあらすじ】
[ep.1]起床~払暁~スタート
いよいよ2023年大会が開幕しました。

【メインテーマ】
100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路の実行委員である私・便艦(べんかん)が「運営・サポートスタッフ」として、何をして何を感じたかを主観的に書き記すことを試してみるものです。


●スタート-失敗したカウントダウン

AM5:00に差し掛かり、いよいよスタートの時を迎えます。

私は時間確認用と動画撮影用に2機のスマホを手に持ちながら、スタート場所の交差点を右往左往していました。雨脚は夜明け前に比べて弱まっているものの、傘を差してもいいくらいには雨が降っています。雨合羽を持ってこなかった私はタオルを頭に垂らして、スタートの時刻を確認していました。

スタート場所は「川湯温泉足湯前交差点」です。交差点には信号機があり、スタート時刻に達しても信号機が青にならない限りは歩き出すことができません。

「あと○○秒です!」と高らかに声を張り上げながら、スタートの瞬間の昂揚感を煽っていきます。毎年、私はこの時間を、さながらアジテーターとして振舞うことに恍惚な感覚を覚えるのです。

しかし、ここで大きなミスを犯してしまいました。例年は10秒前からスタートへのカウントダウンを行っていたのですが、今年はカウントダウンの実施を失念してしまいました。私は動画撮影・信号機の確認・時刻の確認を並行していたのですが、信号機が青になっているのを目視確認していたら、いつの間にか時刻がAM5:00となってしまいました。カウントダウンをするのも忘れて慌てて「スタートです!」と声を発しましたが、何ともスッキリとしない始動となってしまったことが心残りです。

続々と徒歩参加者のみなさまがコース上に繰り出していきますが、途中で信号機が赤になりました。後方の方は、もう一度進行方向への信号機が青になるまでお待ちいただきます。

その後、幾度か信号機が赤や青になることを繰り返し、スタンバイしていた徒歩参加者が全員コース上に繰り出していきました。

こうしていよいよ、明日AM11:00までの30時間を過ごす大会が始まりました。私の中ではサポートスタッフは徒歩参加者と違い、大会の終了までの間は「終わり」を迎えることができないものだと思っています。少なくとも全ての参加者が事故・怪我・病気なく無事に大会を終了(グランドフィナーレ)を迎えるまで、徒歩参加者でいうところの「コースを歩いている状態」として取り組みたいという考えで臨んでいます。

徒歩参加者全員のスタートを見送った後、サポートスタッフは全員、川湯ふるさと館の中に戻りました。戻るや否や、私はスタート時のカウントダウンの失敗をしばらく悔やんでいました。

館内入口には数名遅れて来場された徒歩参加者がおりました。この後、改めて川湯温泉足湯前交差点に徒歩参加者が来るコースのため、そこに合流する形でスタートしていただくようにしました。

●オンラインサポートスタッフMTG

スタートの興奮を少し冷ましたくらいの頃にそれぞれ自己紹介をして、サポートスタッフMTG(ミーティング)を実施することになりました。これは、これからグランドフィナーレまでの間、サポートスタッフが何時にどこへ何を持っていって何をする、という内容のすり合わせです。例年は現地にいるメンバーのみで行うものなのですが、今年は新しい試みを実践してしまいました。

今年のサポートMTGは、LINEを利用してオンラインで実施しました。サポートの取りまとめを行っている実行委員会メンバーのドロンジョ様が不在だったことに因ります。PCを利用してLINE動画通話でドロンジョ様と接続し、PCにスマホを接続してスマホをWebカメラとして機能させて、川湯ふるさと館内にいるサポートスタッフの様子を写していました。音声はPCとPAを接続するケーブルが手元になかったため、PCのスピーカーにマイクを当てて館内に響き渡るようにしました。

少し話が逸れますが、ドロンジョ様とは私にとっては印象深い経験をもって名付けられたため、その名前を聞くと本家の「ドロンボー一味」よりも大会実行委員の方がすぐに頭に浮かびます。2009年大会に徒歩で参加した際、コースの後半からゴールまで共に歩いたうちの一人がドロンジョ様です。

2009年6月28日 AM1:04 @摩周第一展望台(左からドロンジョ様、栗総帥、私・便艦、根津氏)

この当時、ドロンジョ様・私・根津氏の3人が杖を突いて歩く様子が「敗北時のドロンボー一味」に見えたことから、ドロンジョ様と名付けられました。確かそのはずです。

話を戻します。サポートスタッフはドロンジョ様の説明を聞きながら資料に目を通し、この後の動きについて確認していきます。私は、オンラインで意思疎通を取ることが容易になったというテクノロジーの進歩を喜ぶ一方で、大会の雰囲気や空気感を五感ではなく視覚と聴覚のみで把握しながら遠隔地でハンドリングしていかなければならないドロンジョ様の難易度を考えたときに、果たしてこの芸当を自分がやれるのか、いやきっとたぶん、やれそうな気がしないだろうなと思案していました。

●山わさびのおにぎり

開始から27分ほどで、リモートのサポートMTGは終了しました。毎年のことですが、実はスタートしてからの数時間はサポートスタッフにとって有閑の時です。最初のCP(チェックポイント)の担当者でさえ現地にAM8:30ごろにいればいいので、少なくともあと3時間弱、やることがありません。2つ目以降のCP担当者はさらに時間が余ります。大会が進むにつれて過酷さを増すその時を迎えるまでの少しの間、歓談を楽しんだり、朝食を摂ったり、休んだりします。

私はテーブルに1つだけ残った「山わさび」のおにぎりを食べることにしました。開会式前に1ついただいたのですが、余っているならいいだろうと思い、残りの1つの封を開けてガブリと口にしました。本大会で毎回用意されるおにぎりの具材「山わさび」。道外の方には珍しい具材のせいか、毎回すぐになくなってしまいます。

横の方で、「山わさびのおにぎりが食べたい」という声を耳にしました。振り返ってみると、実行委員会メンバーのかわけんこさんでした。第1回大会から数年の間はお兄さんが参加され、ご縁があって数年後に妹である「かわけんこさん」が参加し、今では実行委員会メンバーとなっています。こういう繋がりこそがこの大会の魅力の一つだと思うんです。

ところで当然のことながら、山わさびのおにぎりの余りはありませんでした。なぜなら私が最後の1個を口にしてしまったからです。私は大会の興奮からなのか、睡眠時間が短かったせいなのか、最後の1個を口にしてしまったことを申し訳ない思い、とはいえ新品を差し出すことができないことの混乱のため、あろうことか、半分食べかけの山わさびのおにぎりを「これしかないですけど、いかがですか?」と差し出す始末でした。

私はかわけんこさんとカルチャー系の話で通じる部分が多いことで、非常に懇意にしてもらっていると思っています。それでもさすがに半分食い散らかされたおにぎりを私から差し出されたら、さすがのかわけんこさんですら「いや、いらない…」と、憫笑を含んだ表情で一蹴するしか方法はなかったでしょう。私は残りのおにぎりを飲み込むように口に押し込みました。

このように人気の「山わさび」ですが、どこかのタイミングで、実は今年はそんなに評判が良くなかったと耳にしました。どうにも「辛すぎた」というのがその理由のようです。確かに例年に比べて舌と鼻腔にパンチの効いた風味が襲い掛かる感覚はありました。とはいえ、これこそが山わさびの魅力ではないでしょうか。ただ思い返してみると、確かに子供が食するには刺激が強い気がしました。刺激物が苦手な方からしたら、不快感を感じてしまうのも止む無しといったところでしょうか。

●スタート地点に先頭が戻ってくる(1回目)

スタートから50分ほど経ったAM5:50過ぎに、スタート場所だった「川湯温泉足湯前交差点」に先頭が近づいてきているという情報が入りました。コースの流れとして、スタート後からゴールまでに3回この交差点を経由するのですが、その1回目の先頭が到着しそうです。

一部のサポートスタッフからは「かなり早いねー」といった声が上がりました。これは徒歩参加者の歩行速度が速いという単純な理由の他に、大会開催直前にコースが一部変更された影響に因る部分が考えられます。

本来であれば、「硫黄山」の麓を通り「つつじヶ原自然探勝路」を歩いていくコースでした。しかし今回は残念ながら前日からの降雨による路面の泥濘を考慮し、このルートの通過を見送ることしました。(以下サイトは、もともと通る予定だったルートを紹介した環境省のページです)

このコース変更により、総距離は当初告知していた「100.9km」から0.7km短くなり「100.2km」となりました。コース変更が決定した際、もしも総距離が100kmを切ってしまったらどうしよう…と不安に思っていましたが、とりあえず100kmをキープできていたようで安心しました。

ふるさと館から外に出てみると雨は止んでいました。それでも気温は低いままで、温度計は14.6℃を示していました。天気予報を見る限りだと、これより気温は上がることはなく、風が強くなるとの予報でした。

間もなくして、先頭を歩く2名が交差点を通過していきました。運営・サポートスタッフが出迎えます。

程なくしてスタートから1時間が経過し、AM6:00を迎えました。グランドフィナーレまであと29時間です。あっという間というべきか、まだ29時間も残っていると思うべきか。その両方を噛みしめながら、これからこの交差点に向かってくる徒歩参加者の通過を待ちます。

[ep.3]催しは想定外に/超克的なリアル につづく