不同意性交罪等が導入された場合

 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案をよく読んでみると、「不同意わいせつ等」「不同意性交等」という名称は、ミスリーディングのように思えてきます。

 改正案の176条1項柱書は、
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者
と規定しており、
177条1項柱書は、
前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、…性交等…をした者
と規定しているので、同意の意思を表明した旨の証拠が残っていたとしても、上記行為または事由により「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」いたと認定されれば、有罪となります。「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にある」ときに、同意する旨の意思が表明されていても、法的には意味がないと言うことです。

 その中で問題となり得るのは、8号の
経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること
だと思います。女性側が専業主婦や主婦&パートであり、生活費の大半を夫の扶養に頼っている場合、夫からの求めを拒み続けることで、離婚に至ったり、生活費を入れてくれなくなったりすると、経済的な不利益を被ることになります。したがって、この場合、女性側は、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益…を憂慮している」と認定されうると思います。そして、独立して生計を立てられるような収入が妻の側にないことを夫が知っている場合には、夫としては、自分からの求めを断ることで上記のような不利益が生ずることを憂慮していることを知り得ていたわけですから、未必の故意があった旨の供述調書を取ることは捜査機関にとっては容易なことです。

しかも、そのような場合に、8号にぴったりあてはまらないとされたとしても、「その他これらに類する行為又は事由」と認定される危険は十分にあります。

そして、今回の改正法の肝は、実際に女性側が「同意しない意思を形成、表明」する必要がないことはもちろん、女性側が同意する意思を表明していても、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態…にあ」ったと裁判官が認定してしまえば、有罪判決が下せるという点です。

なので、この通りの条文で法律案が可決成立した場合、弁護士としてなし得るアドバイスは、「妻を専業主婦ないし主婦&パートにした場合、破局した際に、刑事罰を科せられる危険があるので、止めておけ」ということになろうかと思います。

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