申告義務があったとする法的根拠及び説明の有無

 文化庁は、文化庁の「文化資源活用推進事業」の補助金審査の結果、補助金適正化法第6条等に基づき、全額不交付とした理由として、以下の点を掲げています。

 補助金申請者である愛知県は,展覧会の開催に当たり,来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず,それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上,補助金交付申請書を提出し,その後の審査段階においても,文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告しませんでした。
 これにより,審査の視点において重要な点である,[1]実現可能な内容になっているか,[2]事業の継続が見込まれるか,の2点において,文化庁として適正な審査を行うことができませんでした。
かかる行為は,補助事業の申請手続において,不適当な行為であったと評価しました。

 この決定には、以下の問題があります。

① ここでいう「来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実」とは何なのかが具体的に記されていません。

② 補助金申請者である愛知県がそのような「重大な事実を認識していたにもかかわらず」とありますが、そのように認定する根拠は何なのかが具体的に記されていません。報道によれば、上記不交付決定をするにあたり愛知県関係者からのヒアリングをしていないようなので、なおさらその根拠が問題となります。

③ 「それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上,補助金交付申請書を提出し」とありますが、そもそも文化庁がいうところの「来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実」というのは、採択の決定通知を受領し、補助金交付申請書を提出する段階で、文化庁に申請することになっていたのか、そうだとするとその根拠がどこにあるのか、そしてそれは上記補助金の申請者に伝わっていたのかが問題となります。

④ 「その後の審査段階においても,文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告しませんでした。」とありますが、そもそも文化庁がいうところの「来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実」は、審査段階において申請者が知った場合に文化庁に申告することになっていたのか、そうだとするとその根拠がどこにあるのか、そしてそれは上記補助金の申請者に伝わっていたのかが問題となります。

 補助金申請者である愛知県が、「表現の不自由展・その後」という作品があいちトリエンナーレにおいて展示されること、並びに、上記作品が、過去に公立の美術館で展示されたが途中で撤去されたものを集めたものであると言うことを知っており、その中に「平和の少女像」が含まれていたので、極右から攻撃の対象となることは予測していたが、それへの対処を計画していたので、何とかなると思っていた場合に、愛知県が「来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実」を知っていたと言えるのかといえば、難しいのではないかと思います。
 報道によれば、上記補助金申請をするにあたっては、そもそもどのような作品を展示するかについての具体的な説明すら求められていなかったのに、「平和の少女像」についてのみ具体的な申告義務があったとするためには、とてもではないけれども言語化することが困難な複雑なルールを想定する必要がありますが、上記補助金に関してそのような複雑なルールが設定されていたとする根拠が見当たりませんし、そのような複雑なルールについての説明が申請者になされていた形跡がありません。

 これは、「平和の少女像」を含む「表現の不自由展・その後」に対する感情以前の、手続の問題ですので、「表現の不自由展・その後」に対する嫌悪感を優先させて文化庁のこの決定に賛意を示す人を、今後法律家の一員とは考えたくありません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?