私的使用目的のダウンロード等の違法化、犯罪化について。

文化庁案

 私的使用目的ダウンロード等の違法化に関して、文化庁案は、
「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合」(30条1項3号)には私的使用目的の複製であったとしても複製権侵害になることとするとともに、「特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない」(30条2項)とする解釈規定を置くこととするものである。なお、この規定は、著作隣接権の目的となっている実演・レコード等の私的使用目的の複製について準用されている(ただし、著作隣接権には自動公衆送信は含まれないので、30条1項3号中に「自動公衆送信」とあるのは、準用時に「送信可能化に係る自動公衆送信」と読み替えるべきものとされている。102条1項)。
私的使用目的ダウンロード等の犯罪に関して、文化庁案は、
 「第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、著作物又は実演等著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)の著作権(第二十八条に規定する権利を除く。以下この条において同じ。)を侵害する自動公衆送信又は著作隣接権を侵害する送信可能化に係る自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきもの又は著作隣接権の侵害となるべき送信可能化に係るものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(以下この条において「有償著作物等特定侵害複製」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(119条3項)とした上で、「前項に規定する者には、有償著作物等特定侵害複製を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行つて著作権又は著作隣接権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者を含むものと解釈してはならない。」(119条4項)という解釈規定を置こうとするものである。

特定侵害複製の範囲

 この条文だと、日本法を適用した場合に著作権侵害となる自動公衆送信を受信して行う著作物のデジタル方式の複製が全て「特定侵害複製」となり、その実演、レコード等に係る送信可能化について日本法を適用した場合に著作隣接権の侵害となる送信可能化により可能となった自動公衆送信を受信して行う実演・レコード等のデジタル方式の複製が全て「特定侵害複製」となる。上記著作物や実演等が有償で公衆に提供または提示されているものであれば、上記のような自動公衆送信を受信して行う当該著作物や実演等のデジタル方式の複製は全て「有償著作物等特定侵害複製」となってしまう。

 この場合、第三者の著作物(画像等)を組み込んでいるウェブページについてスクリーンショットをしたり、印刷機能を用いてPDF化したりした場合特定侵害複製となってしまうし、その第三者の著作物が有償で公衆に提供または提示されているものであった場合には有償著作物等特定侵害複製となってしまう。ウェブページに第三者の著作物が組み込まれる例としては、本文中での説明で言及されているものの他、著名人の肖像写真やアニメ等のキャラクターをアイコンとして使用している場合や、著名人の肖像写真等がバナー広告に無許諾で組み込まれた場合などがあり得る。ウェブページに組み込まれた第三者の著作物について本文中で言及があれば32条1項が適用される可能性があるが、アイコンとして使用された場合やバナー広告に組み込まれていたなど軽微な構成部分となっているに過ぎない場合には、権利制限規定の適用を受けられない可能性が高い(ウェブページのスクリーンショットが法30条の2第1項の「写真の撮影」に含まれると読むのはハードルが高いし、印刷機能を用いてPDF化する行為を「写真の撮影」に含まれると読むのはさらにハードルが高い。)。そして、この場合に、第三者の著作物が組み込まれている部分だけをデジタル方式の複製の対象から除外することは通常不可能である。かくして、インターネットを利用して情報を収集するという営みは大幅に制限されることとなってしまう。「受信とともに自動的に行われる複製」に限定すればこれらを規制対象に含むことは回避できると思われるが、文化庁にはその気はない。

 また、フェアユースなどの日本法にはない権利制限規定を受けて無許諾で自動公衆送信されている著作物等に関しては、これを受信して行う複製は全て「特定侵害複製」となり、元の作品が有償で公衆に提供または提示されている場合、全て「有償著作物等特定侵害複製」となってしまう。すると、フェアユース規定やパロディとしての利用を適法とする国においてアップロードされた作品を日本在住者がダウンロードしたり、スクリーンショットを撮ったり、印刷機能を用いてPDF化したりする行為の全てが「特定侵害複製」となってしまうし、パロディ元の作品が有償で公衆に提供または提示されているときは全て「有償著作物等特定侵害複製」となってしまう。

特定侵害複製であることを知りながら

 なお、文化庁案では、「自ら特定侵害複製であることを知りながら」あるいは「自ら有償著作物等特定侵害複製であることを知りながら」行った場合のみ違法または犯罪となるものとしつつ、「自ら特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで」または「自ら有償著作物等特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで」行った場合を含むものと解釈してはならないとの規定を置いている。しかし、これらの規定における「知る」に、いわゆる未必の故意が含まれないことを解釈規定として明示していないので、萎縮効果を生み出すのに十分な条項となっている。「文化庁当初案の考え方に関する資料(侵害コンテンツのダウンロード違法化)」の4枚目には、「違法にアップロードされたものだと知らなかった場合(違法か適法か判然としなかった場合、違法かもしれないと疑っていた場合も含む)に、ダウンロード行為が違法となることはありません。」とした上で、「この趣旨をより確実にする観点から、重過失があった場合(ものすごくうっかりとしていた場合)や、適法・違法の評価を誤った場合(例えば、適法に引用されてアップロードされたものだと勘違いした場合)にも、ダウンロード行為が違法とならないことを、条文上、明記することとしていました。」と記載されている。しかし、なぜか、「違法か適法か判然としなかった場合、違法かもしれないと疑っていた場合」については、ダウンロード行為が違法とならないことを条文上明記しないことにされている(「文化庁当初案の考え方に関する資料(侵害コンテンツのダウンロード違法化)」の15枚目の問15においても、「重過失により違法だと知らなかった場合」「適法・違法の評価を誤った場合」として文化庁が例示するものの中から、「違法か適法か判然としなかった場合、違法かもしれないと疑っていた場合」は抜け落ちている。)。

電子メールを送りつけられた場合

 また、「文化庁当初案の考え方に関する資料(侵害コンテンツのダウンロード違法化)」の13枚目の問10では、「メールで送りつけられた場合はどうなるか。」との質問に対し、「また、メール送信等は「自動公衆送信」には該当しませんので、これらをもとにダウンロードを行う行為は、違法化の対象外となります。」との回答が記載されている。しかし、まねきTV事件最高裁判決で、1対1送信も自動公衆送信にあたるとされているので、第三者の著作物が組み込まれたメールを相手のPOPサーバに送りつける行為が自動公衆送信行為とされる可能性は否定できない(この場合、そのようなメールをPOPサーバからダウンロードする行為自体が特定侵害複製とされる可能性がある。)。

継続的にまたは反復して

 また、文化庁案では、119条3項において、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害する行為を「継続的に又は反復して」行つた者という要件を付加している。しかし、同一の著作物ないし実演等を継続的に又は反復して受信して複製することは通常考えがたいので、1回1回異なる著作物を受信して複製する場合にも、「継続的に又は反復して」受信して複製したものと解される可能性が高い。すると、アイコン表示やバナー広告等が組み込まれているウェブページについてスクリーンショットを撮ったり、印刷機能を用いてPDF化したりして情報を収集するという作業を繰り返している市民は、「反復して」特定侵害複製や有償著作物等特定侵害複製をしているとされる可能性が高い。有償著作物等特定侵害複製と次の有償著作物等特定侵害複製との間に有償著作物等特定侵害複製ではない私的使用目的の複製行為が混じっていたからといって、有償著作物等特定侵害複製が反復してなされなかったことにはならないからである。

音楽・映像分野における違法ダウンロード刑事罰化の効果

 また、文化庁は、「文化庁当初案の考え方に関する資料(侵害コンテンツのダウンロード違法化)」の16枚目において、「音楽・映像分野における違法ダウンロード刑事罰化(平成24年10月1日施行)を契機に、ファイル共有ソフトにおける「有償著作物等」と考えられる音楽・映像ファイル数は大幅に減少し、その効果はその後も維持されていた。また、ファイル共有ソフトに接続しているノード(PC等の端末)数は、約3割から4割程度減少していた。」「ファイル共有ソフトからのダウンロードについて、違法ダウンロード刑事罰化以降に実際の行動変容があったかどうかに関する質問の結果、「やめた」・「減った」との回答者の割合が約7割程度。」などとして、音楽・映像分野における違法ダウンロード刑事罰化には効果があったと強調しようとしている。しかし、著作権法の目的は、「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」にあるのであるから、音楽・映像分野における違法ダウンロード刑事罰化の結果ファイル共有ソフトからの有償著作物のダウンロード回数が減ったというだけでは効果があったというべきではない。係る規制強化により、著作権者や隣接権者の収入が増えたなどの効果が生じていないのであれば、規制強化は正当化され得ないはずである。しかし、この点に関する資料が出ていない。

 この分だと、継続的にまたは反復してなされる有償著作物等特定侵害複製を犯罪化しても、著作権者や隣接権者の収入増に繋がらない可能性が高い。

捜査等の端緒と立証

 また、特定侵害複製を違法化し、継続または反復して行われる有償著作物等特定侵害複製を犯罪化するとして、その調査なり捜査の端緒をどうするのか、立証をどうするのかなどについての言及が、パブコメ用の資料では、一切なされていない。「文化庁当初案の考え方に関する資料(侵害コンテンツのダウンロード違法化)」の13枚目の問8では、「警察による捜査権の濫用を招くのではないか。」との質問に対し、「音楽・映像のダウンロードについて刑事罰化が行われてから約7年が経過していますが、そのような事例は生じておりません。また、そもそも、捜査・差押えは、裁判所が発する令状に基づいて行われるものですので、無制限の捜査機関の介入が認められるものではありません。」との回答が記載されているが、そもそも、「音楽・映像分野における違法ダウンロード刑事罰化したのち、刑事立件自体がほぼなされていない(パブコメ用の資料には、過去7年の立件、起訴、有罪判決等の件数が記載されていない。)。

 いざ、積極的に立件していこうと思ったら、「インターネットに接続可能な端末機器を持っている」というだけで強制捜査に踏み切るなどする必要があるように思われる。そこまでする動機が捜査機関に生ずるのは、主に別件逮捕をしたい場合であり、政府や警察に不利な言動をする人々をやっつけたいときくらいであろう。なお、有償著作物等特定侵害複製罪自体は親告罪であるとしても、有償著作物等特定侵害複製罪の嫌疑で強制捜査をする段階では被害者による告訴は不要である(有償著作物等特定侵害複製罪の特徴からすれば、被疑者によってその著作物等が有償著作物等特定侵害複製されている被害者から強制捜査前に告訴を受けることは困難である。)。


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