平成29年度 【意匠】問10の枝4:"じっくり解説" 弁理士試験 短答式 本試験

 引き続き【問10】の解説をします。

(問題文の全文は別ページに掲載しています。以下の解説は、自分で問題を1度解いてみてから読むようにしてください。)

 「枝4」の解説に入りましょう。

【問10】
意匠権者である甲から意匠権侵害の警告を受けた乙がなしうる主張のうち、意匠法上明らかに理由がないものはどれか。
4 甲が丙に対して提起した意匠権の侵害を理由とする差止請求訴訟において、裁判所が当該意匠権に無効理由が存在するとの丙の抗弁を認め、甲の丙に対する請求を棄却する判決をし、その判決が確定した場合において、当該意匠権に無効理由が存在するとの裁判所の判断は対世的効力を有するので、乙に対しても当該意匠権の侵害を主張しえないとの主張。

 「枝4」はぱっと見で読み応えがあるため、わずか2行の「枝5」を先に戦後判断したくなる衝動に駆られるかもしれません。「枝1」でも言及した通り、枝ごとの解く順番は、原則として「短い選択肢から長い選択肢へ」ですから、「枝5」を先に正誤判断したくなったら迷わずそうしてください。短答式試験では何よりもリラックスして1枝1枝といていくことが大切です。

 本題に戻って「枝4」ですが、この選択肢では新たな登場人物として「丙」が出てきました。

 問題文では、甲と丙が意匠権侵害訴訟で争って、丙が準特104条の3の抗弁をし、その抗弁が認められたと読むことができます。

 準特104条の3は、侵害被疑者側の反論として有効ですが、仮にこの反論が認められたとしても、それはその裁判限りで有効なのであって、合議体が変われば判断は異なることがあります。この点は無効審決確定の効果が権利の消滅(49条)という対世効を有することとの大きな違いです。

 それに対して、「枝4」における乙の主張は、

「準特104条の3の主張認容の効果は対世効を有する」

と主張しているわけで、的外れであると正誤判断できます。

【応用】
 もし仮に侵害訴訟における準特104条の3の主張が認められたことが対世効を有するなら、それは事実上、意匠登録が無効になったのと同じですから、いわゆるダブルトラックの問題なんて発生しないことになります。侵害訴訟という民事訴訟における判断と、登録無効の成否について争う行政訴訟の判断とは結論が異なりうることは、常識として有しておきたいところです。

 よって、「枝4」における乙の主張には意匠上の理由がないと正誤判断できます。したがって、「意匠法上明らかに理由がないもの」が問われている【問10】は「枝4」が正解です。

 以上で、【問10】については正答がわかりました。本試験については「枝5」の正誤判断をするまでもなく、意匠の問題を終了し、他の法域の問題の回答に移ることをオススメします。

追記:「平成29年弁理士短答式試験:意匠法の解説を終えて」

 今回の一連の過去問解説では、本試験での解答思考をリアルに再現することを優先させたため、解説していない選択肢があります。今回の解説を通じて、迷いなく正誤判断しなければいけない問題のレベルを感じてもらえればと思います。

 また今回の短答式試験の解説は、紙面が限られている冊子版の過去問集と異なり、スペースを気にせずじっくり解説することに徹しました。目標としては、弁理士試験の短答式試験をどこよりも/誰よりも詳しく解説することを目指しています。このことが、過去問集の解説では今一つ理解できなかった問題の正確な理解につながることがあれば嬉しく思います。

 もっとも、このボリュームで全問を解説しようとすると、全問を解説するのには時間がかかりすぎることも身にしみてわかりました(汗)。今後は、平成29年の他の法域の本試験解説をするか、あるいは、「弁理士法第10条1項1号及び2号に関する短答式筆記試験問題」の解説をするか、いずれかを試みたいと考えています。

 とりわけ「弁理士法第10条1項1号及び2号に関する短答式筆記試験問題」については市販の過去問集では問題と解答・解説の収録がされないことも見込まれます(現にTACの最新の年度別過去問集には収録されていませんでした)。そのため、平成29年短答式試験のもう1つの本試験問題について解説を加える準備をはじめています。

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