平成29年度 【意匠】問5の枝5:"じっくり解説" 弁理士試験 短答式 本試験

 引き続き【問5】の解説をしていきます。

(問題文の全文は別ページに掲載しています。以下の解説は、自分で問題を1度解いてみてから読むようにしてください。)

【問5】「枝5」は国際意匠登録出願に関する出題です。

【問5】
意匠登録出願及び意匠登録を受ける権利に関し、次のうち、正しいものは、どれか。
ただし、特に文中に示したものを除き、意匠登録出願は、分割又は変更に係るものではなく、かつ、放棄、取下げ又は却下されていないものとする。
5 国際意匠登録出願についてパリ条約第4条D(1)の規定により優先権の主張をしようとする者は、その旨を記載した所定の書面を国際公表の日から所定の期間内に提出することができると意匠法に規定されている

 「枝5」も「枝3」と同様に、問題文の内容が条文に規定されているかを問う問題です。

 まず、意匠登録出願について優先権主張をする場合は、「出願と同時に」その旨の書面を提出する必要があります(15条1項で読み替えて準用する特43条1項)。

 ただし、国際意匠登録出願については、読替準特43条1項は適用しない旨が60条の10第1項に規定されています。

(パリ条約等による優先権主張の手続の特例)
第60条の10  国際意匠登録出願については、第15条第1項において読み替えて準用する特許法第43条第1項 から第4項 まで、第8項及び第9項(第15条第1項において読み替えて準用する同法第43条の3第3項 において準用する場合を含む。)並びに第43条の3第2項の規定は、適用しない。

 では、国際意匠登録出願については、パリ条約優先権の主張はどのようにするのでしょうか。

 その規定はハーグ協定ジュネーブ改訂協定及び共通規則に直接置かれています

 ハーグ協定ジュネーブ改訂協定 6条(1) [優先権の主張]
(a) 国際出願には、パリ条約の締約国若しくは世界貿易機関の加盟国において又はこれらの国についてされた一又は二以上の先の出願に基づく優先権をパリ条約第4条の規定に基づいて主張する申立てを含めることができる。
規則7(5)(c) パリ条約第四条の規定に基づき、出願人が先の出願の優先権の利益を得ることを希望する場合には、国際出願は、その先の出願の優先権を主張する旨の申立て、その先の出願がされた官庁の名称及び出願日の表示並びに可能なときは出願の番号を含む。

具体的には、国際出願の願書[DM1]の【13】「PRIORITY CLAIM(Article 4 of the Paris Convention:パリ条約4条に基づく優先権主張)の欄にチェックを入れることで、パリ条約優先権の適用を受けたい旨の主張ができるようになっています。

(『ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく意匠の国際出願の手続テキスト』p27より引用) 

 よって、国際意匠登録出願については、パリ条約優先権主張の適用を受けたい旨の書面の提出手続きはありません。

 なお、国際意匠登録出願についてのパリ条約優先権主張は、国際出願と同時にする必要があるとされています。

(『ハーグ協定のジュネーブ改正協定に基づく意匠の国際出願の手続スライド資料』p34より引用)

 以上より、パリ条約優先権の主張をする旨の書面を所定の期間内に提出できると「意匠法に規定されている。」とした「枝5」は誤りです。

【発展】
 注目すべきは、意匠法に規定がないことに加えて、国際出願については、そもそもパリ条約優先権の主張する旨の書面の提出という手続き自体が国際出願にはないということです。

 もし仮に論文式試験で(出題可能性はまだ低い買いも知れませんが)、国際出願によってパリ条約優先権の主張を伴って日本を含む複数の協定締約国で意匠登録を受けたい場合の手続きを問われた場合は、

「国際出願の願書にパリ条約優先権の主張をする旨を記載する(協定6条(1)A、規則7(5)(C))。」

と根拠条文とともに解答することになるでしょう。

 というわけで、【問5】の解説を終えました。【問5】は5つの選択肢がともに、

「条文にはどのように規定されているか」

についての正確な知識を問うていたという印象を受けます。

 弁理士試験の受験勉強では条文を離れてはいけないことを改めて教えてくれる問題と言えるでしょう。

 次回は、【問6】の解説をしていきます。

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