平成29年度 【意匠】問5の枝2:"じっくり解説" 弁理士試験 短答式 本試験

 前回から【問5】の解説を始めています。

(問題文の全文は別ページに掲載しています。以下の解説は、自分で問題を1度解いてみてから読むようにしてください。)

すでに枝1の解説は終えているので、続けて「枝2」を解いていきます。

【問5】
意匠登録出願及び意匠登録を受ける権利に関し、次のうち、正しいものは、どれか。
ただし、特に文中に示したものを除き、意匠登録出願は、分割又は変更に係るものではなく、かつ、放棄、取下げ又は却下されていないものとする。

2 意匠登録出願をした者は、事件が補正却下不服審判に係属している場合、願書の記載又は願書に添付した図面について補正をすることができない。

 この問題は、

「審査・審判・再審の係属中は、出願の補正ができる」

といったアバウトな知識しかなくても、結果的に正答できてしまいます。

 ただ、その程度のアバウトな理解では、次のように軽くひねられた途端に正しく正誤判断できなくなります。

平成23年【問53】
意匠登録出願についての手続の補正又は補正却下に関し、次のうち、正しいものは、どれか。

3 補正却下決定不服審判の審決取消訴訟が裁判所に係属している場合であっても、当該意匠登録出願の願書又は願書に添付された図面について補正をすることができる。

 上述したように、

「審査・審判・再審の係属中は、出願の補正ができる」

とだけ憶えているのだとしたら、平成23年【問53】「枝3」は「×」になりますね。ところが本問は補正できるで「〇」なのです。

平成29年意匠【問5】「枝2」と、平成23年【問53】「枝3」とを統一的に理解するには、60条の24の「事件」とは何かを正確に理解する必要があります。

(手続の補正)
第60条の24  意匠登録出願、請求その他意匠登録に関する手続をした者は、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる。

『法律用語辞典』(有斐閣)によると「事件」とは、「手続の対象となっている事柄」を指します。

 この定義に基づいて60条の24を分解して読むと、

「出願手続をした者は、出願事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、その補正をすることができる。」

ということになります。

 そこで上記の2つの設問においては、

「出願は審査or審判or再審に係属しているか」

をまずは考える必要があります。

 また、2つの設問のいずれの場合も、出願人による補正が決定をもって却下処分されていることが読み取れます。

「決定をもって補正却下処分がなされた」

とは、典型的には次のようなシーンです。

 ここで重要なのは、出願人が補正却下決定という行政処分について不服審判を請求(47条1項)したときは、その審判について審決が確定するまで(=不服申し立て手段が尽きるまで)、出願の審査は中止されるという取扱い(17条の2第4項)です。

 出願の審査が中止されているのは、出願人のした願書の記載又は添付図面についての補正が、適法なのか不適法なのか、適否が決まっていないからです。

 もし審査官のした補正却下決定に関して、上級審で出願人の不服申し立てが認容されるのならば、出願は補正後の内容で審査が再開されます。一方で、不服申し立てが棄却されるのならば、出願は補正後の内容で審査が再開されます。

 つまり、審査を中止するのは、補正後or補正前のいずれの内容で審査するのかが決まっていないからです。

 そして審査を中止している間は、出願は審査に係属しています。出願が審査に係属しているから、補正却下の適否が決まった後に審査が再開できるのです。

 設問に戻ると、補正却下決定不服審判の審理がなされているときであっても、補正却下決定不服審判の請求棄却審決に対する審決取消訴訟が審理されているときであっても、出願の審査が中止されていることに変わりはなく(17条の2第4項)、出願は審査に係属しているのです。

 よって条文の通り、出願が審査に係属しているのだから、出願人は願書の記載や添付図面について補正ができます(60条の24)。

 問題文で表現を補って理解すると、平成23年【問53】「枝3」については、

3 補正却下決定不服審判の審決取消訴訟が裁判所に係属している場合であっても、出願は審査に係属しているから(17条の2第4項)、当該意匠登録出願の願書又は願書に添付された図面について補正をすることができる。

となります。平成29年【問5】「枝2」については、

2 意匠登録出願をした者は、補正却下決定処分事件が補正却下不服審判に係属している場合であっても出願は審査に係属しているから、願書の記載又は願書に添付した図面について補正をすることができる。(実際の問題文では「できない。」とあるから誤り。)

となります。

 誤解してはならないのは、

「出願が補正却下決定不服審判に係属しているわけではない」

ということです。

 なぜならば、冒頭で説明した通り、「事件」とは「手続の対象となっている事柄」のことであり、補正却下決定不服審判における事件とは、審理対象になっている補正却下決定処分だからです。

 以上より、【問5】「枝2」については「誤り」と正誤判断できます。

 正誤判断のカギとなる条文は「17条の2第1項」の正確な理解です。また、「事件」(60条の24)という法律用語についても、正確な解釈が求められています。

というわけで、次回は【問5】の残り3枝について解説を続けます。

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