答案作成のルール20190804

「設問表現」と「題意把握」について

来年の論文式試験の合格を目指す受験生に、「平成15年の特許・実用新案の問題I」を解いてもらっています。

【平成15年:特許・実用新案 問題Ⅰ】
 菓子aとその製造装置Aの発明をした甲は、それらを明細書に記載した上で、 菓子aの発明についての特許出願Xをし、それと同時に出願審査の請求をした。 その後、甲は、製造装置Aを改良した菓子aの製造装置Bの発明をし、特許出願Xの出願の日から10月後に、製造装置A及びBの発明についても特許を取得したいと考えた。 この場合において、甲が特許法上とりうる手続について説明せよ。 【100点】

この問題の設問は、

甲が特許法上とりうる手続について説明せよ。

ですから、答案の冒頭は、

「Xの出願人甲は、以下の手続をとりうる。

とし、以後、「甲がとりうる手続」を列挙していくのが、題意に沿った解答と言えます。

注意してほしいのは、この問題では、

「甲がとるべき手続について説明せよ。」

とは問われていませんから、列挙した手続の中で、最終的にどの手続が適当かを解答する必要はない、ということです。

この点について理解してもらうために、平成21年の商標の設問表現を見てください。

設問(2) 
 設問(1)において、丙が請求し得る各審判について、確定した請求成立審決の効果をそれぞれ説明し、甲が提起した侵害訴訟に関し、いずれが丙にとって有利であるか述べよ。

事例の説明も、設問(1)の説明も省略しますが、着目してほしいのは、設問(2)の太字の表現です。

各審判について効果をそれぞれ説明し、いずれが丙にとって有利であるか述べよ。

この設問では、

「各審判の効果をまず列挙して説明し、その後の結論として、最も有利な審判を述べる」

というスタンスが、適切な題意把握です。

もう一度、平成15年の特実・問Iに戻ると、問題文は、

【平成15年:特許・実用新案 問題Ⅰ】
 菓子aとその製造装置Aの発明をした甲は、それらを明細書に記載した上で、 菓子aの発明についての特許出願Xをし、それと同時に出願審査の請求をした。 その後、甲は、製造装置Aを改良した菓子aの製造装置Bの発明をし、特許出願Xの出願の日から10月後に、製造装置A及びBの発明についても特許を取得したいと考えた。 この場合において、甲が特許法上とりうる手続について説明せよ。 【100点】

ですから、列挙する手続のいずれかが適当かを解答する必要はなく、むしろそのように設問では求められていない解答をするのは題意外しを匂わせるので避けたほうがいいです。

では、この問題ではどうやって解答するのが望ましいか?

それは1つには、「とりうる手続」について重みづけすることなく、並列的に解答することができます。つまり、

1. Xの特許請求の範囲にAを追加する補正
2. Xを基礎とした国内優先権の主張を伴うa・A・Bについての出願
3. XのAに係る分割出願
4. Bの別出願(上記1・3のとき)

を、淡々と解答する、これはこれで、「とりうる手続の説明」という題意に沿っています*。

(*実際の答案では、上記の手続に加えて、「5. 出願審査の請求」・「6. 特許料の納付」も解答する必要があります。詳しくは、本問の答案構成を参照してください。)

ただし、

上記のような手続を並列的に列挙する答案だけでは、味気ない、書き足りない

と思う気持ちも、理解できます。

その場合は、それぞれの項目の説明において、
「なぜその手続きを必要があるのか」(必要性)
「どのような時にその手続きをとることが妥当なのか」(妥当性)
を付言できると、答案としては完成度が増します。

もっとも、最初からこのような理由付けを付記するのは難しいです。

とりわけ特許・実用新案では、

「2時間で2通の答案を仕上げる」

という、解答スピードを養成を優先させることを強くオススメします。

したがって、「平成15年の特許・実用新案の問題I」の答案練習では、

(問題文読解・答案構成を含めて)1時間以内に、とりうる手続を過不足なく列挙し、説明する答案

が書けることを目標としてみてください。

最後に参考として、本問について、「結論+要件の検討・効果」だけを淡々と解答したバージョンの答案例を示します。
(『7日間で論文式試験の答案をゼロから書けるようにする講座』(仮称)から抜粋)

【答案例(3)】平成15年 特許・実用新案 問題I
 Xの出願人甲は、以下の手続をとりうる。
1. Xの特許請求の範囲の補正
 Xの特許査定謄本送達前に、手続補正書を提出し(17条4項)、Xの特許請求の範囲にAを追加する補正をしうる(17条の2第1項柱書)。
 Xにおいて、aに加えてAについても特許を受けるためである(36条5項)。
 Aは、Xの当初明細書に記載されているから、この補正は新規事項の追加に該当しない(17条の2第3項)。
 また、「菓子a」とaの「製造装置A」とは、「対応する特別な技術的特徴」(施規25条の8第1項)を有するため、「発明の単一性」(37条)の要件を満たすから、一の出願Xで出願できる(同条)。
2. 国内優先権の主張を伴う出願
 特許請求の範囲にa、A、Bを記載した出願(Yという)をし、その際、所定の書面を提出し(41条4項)、Xを基礎とした国内優先権の主張をしうる(41条1項柱書)。
 Yは、Xの出願日から1年以内(41条1項1号)、かつ、Xの査定・審決確定前(同項4号)に出願する必要がある。
 基礎出願Xに記載されたaとAについて、X時に出願されたものとみなすという利益を得つつ(41条2項)、Bについても一の出願Yで特許を受けるためである。
3. Xの分割
 所定の期間・時であれば(44条1項各号)、二以上の発明aとAに係るXを分割し、Xの明細書に記載されたAについて新たな出願(Zという)をしうる(44条1項柱書)。
 Zは、X時に出願したものとみなされる(44条2項)。
4. Bについての出願
 甲は、上記1及び3の場合には、Bを特許請求の範囲に記載した出願(Wという)を別途しうる(36条)。
 BについてはWで特許を受けうる(36条5項)。
5. 出願審査の請求
 Y・Z・Wの出願人甲は、各出願について出願審査の請求をしうる(48条の3第1項)。
 各出願を審査に供するためである(48条の2)。
6. 特許料の納付
 甲は、特許査定された各出願について、3年分の特許料を納付しうる(107条1項、108条1項)。
 a・A・Bについて特許権を取得するためである(66条1項・2項)。
                                以上
                               (871字)

あなたが来年の論文式試験の合格を目指す受験生であれば、8月の今は、上記のレベルの答案が書けることをひとまずの目標とすることをオススメします。

繰り返しますが、特許・実用新案は、解答内容の充実度よりも、

「2時間で2通仕上げる解答スピード」

このスピード力を養っていきましょう。

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