リーガルリサーチについての備忘

【本稿は法務系 Advent Calendar 2022(表)における19日目のエントリーです。おもて明さんからバトンをいただきました!】

第1  はじめに

リーガルリサーチについて体系的に学んだ機会はなく法律事務所に入所してからも手探りで苦労しました。事務所のライブラリーの図書や各種DB(データベース)に地道にあたることはもちろんですが、それ以外にも実践していることをいくつか備忘(及び、留学後の記憶喚起)も兼ねて記します。不完全な部分も多々ありますが何卒ご了承ください。

第2  収集する情報

法分野ごとの文献(コンメンタール逐条解説類や体系書等)や事件案件類型別の文献・実務書[1]をチェックし、引用されている文献や裁判例も芋弦式に確認します。裁判所の専門部[2]や立法担当官[3]・関係官庁の関係者[4]が公表している文献は実務の前提となっていることが多く特に大切だと思います。「○○法研究会」といった編著者の文献は、当局の職員の手によるものであることが多いようです。
関係行政機関のウェブサイト[5]では様々な資料・情報が公表されています。ガイドラインQ&A「よくある質問」等では当局による解釈が提示されていることがあります。各行政機関の年次報告白書違反事例集相談事例集では各法令の執行状況・実績等を知ることができます。
立法過程の資料(パブリックコメント[6]国会[7]・審議会の議事録[8]等)においても重要な解釈が提示されていることがあります(が、探しにくいです…。)。各種調査報告書有識者会議の資料等にも参考になる情報が含まれています。
外郭団体業界団体民間企業が関係官庁に準じる影響力を持っていることもあります[9]。これらの団体が提示する解釈・見解、自主規制・ルール[10]、ガイドライン、調査報告書等の有無・内容もチェックします。これらの団体の白書統計情報では実際の運用状況を知ることができます。
業界団体のウェブサイト[11]は当該業界に関係する法令(業規制や許認可[12])やGL[13]、自主規制商慣行業界用語を調べる上でも役に立ちます。各業界における主要な事業者の有価証券報告書等の開示書類[14]も関係法令や商慣行を調査するうえで役立ちます[15]。
各文献等の出版・公表後に重要な裁判例・事例が登場していないかは判例DBニュースサイト(審理中又は判決に至らなかった案件等についての情報を得られます。信用性には注意が必要です。)等で改めて確認する必要があります。判例DBについては、法令名・条文、判例雑誌名等で絞って検索する方法もありますが見落としのリスクも高まるので注意が必要です。
地方自治体の独自条例業界団体の内部規則新旧法の適用時期(附則などで確認。)は見落としやすいので注意しています。
海外の法令・実務等については、JETROや法務省等の官公庁が情報提供をしてくれていることがあります。
問題となる法分野・事件類型を特定できないことがあります。この場合、問題設定・性質決定が適切ではないこともあるので、誰のどのような利害(公益)が問題となっているか、関連する法令や制度等の関係等を考慮し論点整理を改めて試みます。法律関係が複雑な場合はより小さな問題に分割して考えることも有用だと思います。e-Gov法令検索の「法令用語検索」リサーチ・ナビ(国立国会図書館)で何らかの手がかりが得られることがあります。
以上の情報を収集するために事務所のライブラリーやDBに地道にあたるのはもちろん大切ですが、それ以外に私が実践しているツール・方法の一例を紹介します。

第3  CiNii ResearchCiNii Books

図書や論文を検索できるデータベースです。検索対象は基本的には文献のタイトルのみだと思われます。通常、本文は閲覧できないので文献本文は別途本棚や図書館、DB等で取得します。
キーワードのみで検索するとノイズ(全く無関係の論文が大量にヒットする状態)が発生します。これを避けるために、法律雑誌や出版社の名前・よくあるタイトルをつなげたものと一緒にキーワード検索をしています[16]。これをクリップボード履歴(Win+v)にピン留めしておくとすぐに呼び出せて便利です。
同じ概念が別の言葉で呼称されることがあります(製造物責任、PLなど)。検索から漏れをなくすためには、同義語を”OR”でつなぎます。
検索結果の横に「関連著者」が表示されます。著者名で検索すると関係する文献が他にも見つかることがあります。

第4  Google

検索演算子を活用するとノイズを減らして検索することができます。検索演算子についてはウェブ検索の精度を高める(Google検索ヘルプ)[17]の説明をご覧ください。以下ではよく使うものを紹介します。

1  中央官庁・大学の情報を検索

site:go.jp OR site:ac.jp <キーワード>でGoogle検索をすると概ね中央官庁・大学のウェブサイトに絞って検索をすることができます。ただし、分野によっては地方自治体[18]や業界団体等のウェブサイト上の情報の方が充実していることがあります。これらのウェブサイトはこの検索演算子ではカバーされないので別途調査する必要があります。

2  PDF媒体の資料の検索

filetype:PDF <キーワード>によりPDF形式の資料を検索できます。PDF媒体の情報はフォーマルで信頼度が比較的高いことが多いと思います(官公庁の調査報告書、法律事務所のニュースレターなど)。なお、これらで得られた資料であたりをつけつつも、条文、裁判例等の原典、コンメ等の文献類を別途チェックします。

3  通常の検索

弁護士のブログ、BUSINESS LAWYERS(弁護士ドットコム)等のポータルサイトの記事がヒットすることがあります。有用な情報を得ることができますが正確性については自分で改めて確認する必要があります。

第5  官公庁への照会

1  電話照会

当該法令等の所掌部署を特定するには、①「所掌事務一覧」(内閣官房ウェブサイト)から確認できることがあります。また、②当該法令名と“パブリックコメント”で検索するとパブコメの事務担当部署が分かり当該部署が所掌部署となっていることが多いと思います。
照会先が、中央官庁か地方自治体かは注意する必要があります。執行機関が知事等地方自治体の長等である場合は自治体に照会すべきか検討します(法令の解釈は中央官庁で提示していても、具体的な運用は自治体に委ねられていることがある。)。
意味のある回答を受けるには事前準備が大切です。リサーチ・論点整理をし、秘密保持に注意しつつも前提事実・条件の絞込みをします(これを怠ると、公開情報レベルの一般的回答しか得られない。)。自分の見解(結論・理由)も用意し、それで正しいかどうかを確認します。
担当官の回答の根拠(法令、判例、通達、ガイドライン、パブコメ、依拠した文献、論理)、回答の例外(回答が妥当しない場合)も必要に応じて確認します。
回答を受けた後には、担当官の名前・担当部署を確認します。

2  情報公開請求、グレーゾーン解消制度、ノーアクションレター等

電話照会以外の方法としては、①情報公開請求(法改正に関する大臣官房総務課説明資料)、②産業競争力競争法に基づくグレーゾーン解消制度、③ノーアクションレター制度等があります。①については川上善行「行政解釈の調べ方」(BLJ2013.1.83参照))がとても参考になります。

第6  おまけ

1  日々の情報収集

各種法律雑誌・判例雑誌の目次を見て気になるものを読んだりということ以外に役立つものをあげてみます(業務等との関係でなかなか手が回らないこともありますが…。)。
最高裁判所ウェブサイト
「 最近の最高裁判所判例一覧」で最近の最高裁判例をチェックしています。
商事法務メールマガジン
官公庁の情報(立法、GL、各種調査等)、業界団体・企業のリリース、裁判例などのリンクがまとめられています。週2回の配信です。月1ですが「ビジネス法務」(中央経済社)のLegal Headlinesも有用です。
至誠堂通信
至誠堂書店(東京地裁地下の書店)による新刊の案内です。ざっと見て気になったものを最寄りの書店でチェックします。週1回の配信です。
日経新聞電子版
月曜日に「法税務」の記事が掲載されています。電子版では独自の特集もあります。登録したキーワード(株主総会、顧問先企業名)の情報を自動的に集めてくれるのも電子版のメリットです。
法律時報(学界回顧、判例回顧と展望)
学界回顧ではその年の学説の動向・発表された論文等がまとめられています。毎年11月頃に発売されます。
判例回顧と展望(法律時報臨時増刊)ではその年の主要裁判例がまとめられています。
Reuters Legal
ロイターの法務欄です(無料)。主にアメリカの裁判等の動向を追う&英語の勉強の目的で使用しています。他のニュースサイトについてはTop Five Free Legal News Websites for the Legal News Junkie(ABA)参照。
Podcast
Law 360やBloomberg Law等を聴いています。こちらもPodcastは無料です。
SNS(Twitter)・ブログ
弁護士や法務パーソンのSNS・ブログで勉強させていただいています。速報性があり文献には書かれていない踏み込んだお話も伺え非常に勉強になります。Twitterはリストで管理し、ブログはRSSに登録しています。Facebookには専門家同士が相談し合えるフォーラムがあります。

2  よく使うDB(有料)

Westlaw
裁判例や雑誌の文献(NBLや商事法務等)を調査するのに使っています。判例秘書やD-1 Lawも使いますが個人的にはWestlawが好みです。
Legal Library
搭載されている文献は限られているのでこれだけでリサーチが完了することはありませんが、ブラウザから気軽にアクセスでき便利です。
Practical Law
海外案件の初期調査として各法域の情報や雛形を収集するために活用しています。アメリカの法律・概念の調査については、LII(Cornel Law School)が無料で使うことができます。

3  法律以外の情報

国立国会図書館「リサーチ・ナビ」
調べ方を調べることができるウェブサイト。統計分野別統計企業(国内・海外)、産業情報ガイド[19]、白書[20]等がよく使うものでしょうか。

第7  おわりに

備忘及び記憶喚起を兼ねて思いつくままに記してみました。実際には、リサーチをしたものの一義的な答えが出なかったり、(リサーチ結果を前提とする)具体的なアクションの検討が肝であったりすることが多いというのが実感です。もっとも、的確なリサーチは案件処理の前提であるため大切な業務の一つだと思います。他にもこんなリサーチをしているといったことがあれば是非教えてください!
【この記事は法務系 Advent Calendar 2022 (表)における19日目のエントリーでした。明日は、伊藤雅浩先生です!】



[1] 最新裁判実務大系商事法務ハンドブックシリーズ等。
[2] 東京地裁民事9部の裁判官らによる『民事保全の実務』(きんざい)等。
[3] 法令解説資料総覧(第一法規)旬刊商事法務自由と正義等の各種雑誌に掲載される立法担当官解説記事、商事法務の『一問一答』シリーズ等。
[4] 消費者庁表示対策課職員らによる『景品表示法』(商事法務)等。
[5] 許認可・処分権限を有する行政機関による解釈は実務上の前提になっていることが多いです。また、そのような明確な権限を有しない行政機関による解釈であっても、有識者による会議を経ているものは実務上相当の重みがあることがある。後者の例として、経済産業省『「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」』など。
[6] 「パブリックコメント 結果公示案件」(電子政府の総合窓口)から検索することもできますがやや探しにくいと思います。WestlawLegal Libraryから調べた方が見つけやすいと思います。e-Gov法令検索の「沿革」から法令番号を特定し法令番号で検索します。
政省令のパブコメで法律本体の解釈が提示されていることがあります(特に法律自体についてパブコメが実施されていない場合。)。
[7] 国会議事録は次の手順で調べています。:
法令データ提供システム上で法令名を検索
②左のタブの沿革一覧を一番下にスクロールし、日本法令索引をクリック(日本法令索引のHPに移動)
法令沿革から対象の改正を選択(法令番号法令名を確認)
審議経過から各議事録を閲覧。なお、下の「趣旨説明」「参考人招致」といった記載も参考になります。
⑤(キーワード検索したい場合)審議経過が含まれている会議録を対象として検索(国会会議録検索システム)をクリック(国会議事録検索システムへ移動)
国会会議録検索システムにキーワードを入力(特定した法案の会議録内をキーワード検索できる。)
[8] 調べ方について国立国会図書館 リサーチ・ナビ「審議会等資料の調べ方」参照。
[9] (一例として、外為法における日本銀行一般財団法人安全保障貿易センター(CISTEC)、第一種金融商品取引業における日本証券業協会、上場企業にとっての証券取引所や議決権行使助言会社等)
[10] 自主規制・ルールのなかには、法令等の根拠に基づき制定されたものがあり、その役割が法律で定められていることがあります。その例としては、景品表示法に基づく公正競争規約認定個人情報保護団体の個人情報保護指針があります。また、そうでない場合も、業界団体が会員企業に対して除名等の処分権限を有していることがあります。
[11] 業界団体のウェブサイトの調べ方:
①Google上で演算子(一般社団法人、公益社団法人、といった言葉をつなげたもの。例:” (社団法人 OR 財団法人 OR NPO法人 OR 非営利法人 OR 特殊会社 OR 独立行政法人 OR 公社 OR 組合 OR 会議所 OR 事業団 OR 金庫 OR 組合 OR 協会 OR 協議会 OR 連盟 OR 連合 OR 中央会 OR 機構 OR 団体 OR 研究会 OR ネットワーク)”)を活用し検索(ただし、うまくいかないことが多い…。)
②各分野における代表的な企業のウェブサイトから、加入団体を確認します。
なお、ヒットした団体が信用できるかどうかは、当該団体の属性(一般社団法人は誰でも設立できてしまうので当然に信用が高いとはいえません。他方で、公益社団法人や特殊法人、法令上設立が求められている団体は信用性が高い傾向。)、加盟企業・当該団体の役員の出身元企業(著名企業や一部上場企業、中央官庁が関係していると信用性は高い傾向。)を確認し判断します。
・業界団体のサイトでは関連する官公庁や団体のリンクがまとめられていることがあります。適宜、芋づる式に、各リンク先の情報もチェックします。
[12] 許認可を調査するうえでは、総務省「許認可等現況表」も有用です。許認可の統一的把握を試みた調査ですが最新版ではないことに留意が必要です。
[13] 業界特有の規制についてのGLだけでなく、一般法について業界に応じた法解釈が提示されていることがあります。後者の例として、個人情報保護法の特定分野ガイドラインなど。
[14] EDINET等の公式サイトはやや使いにくく、Xebral等の商用DBの方が使い勝手はよいようです。
[15] 他には、「業種別審査事典」(きんざい)も有用です。
[16] 私の例を紹介します。以下のものをキーワードと一緒に検索します。他にもおすすめありましたら教えてください。
【雑誌の例】(判例タイムズ OR 金融法務事情 OR 金融・商事判例 OR 銀行法務21 OR 労働判例 OR ジュリスト OR 法学教室 OR Business law journal OR Libra OR NIBEN Frontier OR ビジネスロー・ジャーナル OR RETIO OR パテント OR ビジネス法務 OR 月刊監査役 OR 商事法務 OR NBL OR 事業再生と債権管理 OR JCAジャーナル OR 法曹時報 OR 法律時報 OR 判例時報 OR 法学セミナー OR 法律のひろば OR 自由と正義 OR 民商法雑誌 OR 法の支配 OR 時の法令 OR 月報司法書士 OR 国民生活 OR 旬刊経理情報 OR 登記情報 OR 公正取引 OR 外国の立法 OR 立法と調査 OR 法令解説資料総覧 OR レファレンス OR 季刊労働法 OR 労務行政 OR 労政時報 OR 情報法制研究 OR 日本私法学会 OR 金融法学会 OR "law & technology" OR 仲裁とADR OR 日本取引所金融商品取引法研究 OR 調停時報)-判決
【図書の例】(コンメンタール OR 逐条 OR 注釈 OR 註解 OR 注解 OR 条解 OR 詳解 OR 論点体系 OR 総覧 OR 精解 OR 解説 OR 講義)
(一粒社 OR 岩波書店 OR 大蔵省印刷局 OR 財務省印刷局 OR かんぽう OR ぎょうせいOR 行政調査会 OR 金融財政事情 OR 経済産業調査会 OR 経済法令研究会 OR 警察時報社 OR 勁草書房 OR 現代人文社 OR 弘文堂 OR 三省堂 OR 自由国民社 OR 尚学社 OR 商事法務 OR 新日本法規 OR 信山社 OR 清文社 OR 成文堂 OR 税務研究会 OR 青林書院 OR 綜合労働研究所 OR ダイヤモンド OR 第一法規 OR 大成出版 OR 第二東京弁護士会 OR 立花書房 OR 中央経済 OR 中央法規 OR テイハン OR *大学出版会 OR 東京法令出版 OR 同文館出版 OR 日本加除出版 OR 日本評論社 OR 日本加除出版 OR 日本法令 OR 発明学会 OR 発明協会 OR 判例タイムズ OR法学書院 OR 法曹会 OR 法律文化社 OR 有斐閣 OR 労働法令協会 OR 労働調査会 OR 労務行政 OR *研究会)
[17] 他によく使うものは、完全一致検索検索から語句を除外(ノイズを除去する)、ワイルカード検索検索を結合(同義語(製造物責任、PL)を検索する。)、特定のサイトを検索などでしょうか。
[18] 地方自治体を検索する演算子としては” site:metro.tokyo.jp OR site:city.*.jp OR site:city.*.*.jp OR site:pref.*.jp OR site:town.*.*.jp”が考えられるが網羅的かは未確認です。
[19] 業界特有の諸規制(自主規制含む)・GLや商慣行等を調査する際には業界雑誌や業界団体のウェブサイトが有用です。
[20] 規制当局の執行実績や活動内容がまとめられています。執行状況の調査や、研修資料等に引用するデータの収集に役立ちます。

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