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全日本解放戦線“緑の会”

GREEN DA・KA・RAを知っている人間はいるだろうか。
知っているが、思えば意外と飲んだことがないな、という人もいるんではなかろうか。2年前の僕のように…。

 2年前の夏の日、僕は前職を退職してまだ間も無く、コールセンターの短期バイトをしていた。
受電業務のみだったのだが、流行病の影響を受けた人に向けた、国の制度についての案内が主な内容なので、それはそれは重たく、悲しい電話が日がな一日鳴り続ける。
外に出れば夏真っ盛り、太陽燦々であるが、心持ちは土砂降りというような日々が続く。流行病の影響ではないにせよ、僕も失職していたので、明日は我が身という気持ちもあり、少し滅入っていた。
そこで見出した解決策、解決策とは思っていなかったが、自然と辿り着いた答えは、飲酒だった。
メンタル不調を解消する際の常套手段は、サウナか酒である。
職場でなんとなく仲良くなった人達と、終業後に週3回、多いときは週4回は街へ繰り出していた。人によっては死ぬという病が流行っているのにも関わらず、日本最大の歓楽街には夜通しネオンが輝き、若者が騒ぐ。
コンビニで缶の酒を買ってサクッと飲んで気持ちよく帰ることもあれば、ドロドロになって朝まで飲むことも多々あった。緊急事態宣言下にやることではないが、ならではの混沌というのも飲酒に拍車がかかる要因となっていたのであろう。

 そして、その日は来る。
正直、ドロドロになるまでお酒を飲んだので、どのような夜を過ごしたかは覚えていない。
ドロドロになって、どうにかして家に帰り、当然出勤ギリギリの時間に目が覚める。朝の支度もそこそこに、大急ぎでセンターへ出勤して、まずは水、とにかく水、と思い自販機へ向かうと前日一緒に飲んでいた友人と鉢合わせる。
ドロドロの後、小便として多量の水分とともにアルコールを排出して、カラカラの乾物になった僕を見て言う。
「顔やばいね、GREEN DA・KA RA飲むといいよ」
これが僕とGREEN DA ・KA・RAとの出会いだった。
初めてGREEN DA・KA・RAを飲み、衝撃を受けた。体調はみるみるうちに回復、ビチャビチャの泥から直立する泥へ。なぜ今まで飲んでこなかったのか。この日からGREEN DA・KA・RAが、僕の好きな飲み物上位にランクインするのであった。

 GREEN DA・KA RAを知っている人が読めば共感の嵐、雨霰なのであるが、知らない人が読むとDA・KA・RA・NA・NI?という話だろう。本当であれば「GREEN DA ・KA・RAとの出会い、感動」まで書き切ったわけで、さっさと布団に入りたい頃だが、何も知らない諸君のためにGREEN DA・KA・RAについて説明しておこう。

GREEN DA・KA・RAは簡潔にいうと、「特定の状況で飲むとべらぼうに美味くて水より飲みやすい水」だ。これを飲むと万病に効くとも言われている。
鉄の塊と野菜果物を一晩水に漬けたような味。

よく同じ系譜で語られるポカリスエットの謳い文句の一つを紹介しよう。
「水よりも、ヒトの身体に近い水。」
というものだ。あえて“人”と書かずに“ヒト”と書くことで何か深い意味があるんではないかと勘繰らされる、かなり巧妙に作られた謳い文句である。
ここで一つ、お呼びでないかもしれないが、僕が思うGREEN DA・KA RAの謳い文句をば。
「鬼美味い水、飲まないと死にます。」
稀代の天才アインシュタインから、物分かりが悪く微生物ほどの脳もない方まで、全ての生きとし生ける人間にアプローチできるような簡潔でズシリと響く謳い文句である。素晴らしい。どうやったらこんな謳い文句が頭に浮かぶのか?稀代の天才なのか?と聞かれると思うが、答えは簡単。鬼美味い水だからである。これに尽きる。

おふざけもこのくらいにしておいて、僕が考えた謳い文句の後半「飲まないと死にます。」の部分。これは正真正銘本当である。GREEN DA・KA・RAを飲まないと死ぬというよりは、GREEN DA・KA・RAを飲まないと死ぬ状況において、飲むとすっかり生き返るというのが正確かもしれない。しかし針小棒大なキャッチコピーは世の中に溢れていて、それらと比べれば大袈裟なことではない。

 GREEN DA・KA・RAが本領を発揮するのは、極度の二日酔い時、もしくは汗が5リットルも出るような激しい運動をした直後である。
僕はGREEN DA・KA・RAを、水に鉄と青果を漬けたような味と表現したが、それらの味は通常時に飲んでも、甘味と共に薄らとしか感じられないだろう。
上記したように、水分が著しく失われたタイミングにおいて飲むと、舌先にまず自然な甘み、そして果物!野菜!ときて、最後に鉄分の味が口の中にブワッと広がる。水分不足のときに飲むことで感じる、この鉄分の味ががほぼ血液なので、プラシーボ的な効果も計算されているのではないだろうか。脳と舌、心と胃袋を掴まれる。恐るべしGREEN DA・KA・RA。

ここまで熱弁すれば、皆様にもお分かりいただけただろう。あの夏の日の衝撃を。

 
時は流れ20XX年。
僕は国の圧政に抵抗するレジスタンスの一員として活動している。

ある日、新宿のど真ん中、都庁を占拠し、
自由を訴える暴動を起こした末に、
主犯として捕まる。

そして、体制側の犬こと秘密警察の拠点にて、爪楊枝から三節棍、果ては愛玩動物からアナルプラグまで、この世のありとあらゆるものを使って、それはもう目も当てられないような拷問を受ける。

息も絶え絶え、数十年生きた命も風前の灯。

紆余曲折あり、無法者として手配され、革命間近だったものの捕まった。しかし心を満たす感情は後悔でも怒りでもなく、家族や周りの人間への感謝。不思議なものである。

僕の命が間も無く尽きるのを察した拷問官が最後の温情、「最後に何が飲みたい?」と問いかける。

(飯じゃねえんだ)ガッカリするのも束の間、コンマ2秒もかからずに即答するだろう。


「Coca-Cola!!!」



Coca-Colaはいつ飲んでも美味いから。

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