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第2回:最強の英語術

こいけかずとし

問題の答え

前回の最後に出した問題は「英語読書を可能にするにはどうすればよいか?」でした。
 
答えはこうです。

①やさしい英語で書かれた本で練習する
②朗読音声を活用する

やさしい英語で書き直されたシェイクスピア脚本

まず①について。私はハリー・ポッターなら簡単だろうと思って挫折を繰り返していました。見通しが甘かったです。解決策を求め、学習書を読みあさったり、研修会に参加したりして情報を集めました。やがて理解しました。私はレベルを下げてもっとやさしい本で練習する必要がありました。そして力をつけてからハリー・ポッターに挑戦するべきだったのです。ここでのやさしい本とは、例えばGraded Readers(段階別の英語で書かれた本)や絵本などです。
 
次に②について。簡単に言うと、挿絵や朗読音声があったほうが英語読書のハードルが下がります。幼児にとって、絵本の読み聞かせが文字を読むことを学ぶために効果的なのと同じ原理です。「大人になって読み聞かせなんて」と思う方もいるかもしれません。好みもありますので朗読音声は必ずしも使う必要はありません。
 
しかし試しもせずに役に立たないと決めつけるのはもったいないので、判断するのはぜひ一度試してからにしてください。もし速度調整したい場合は、スマホやPCの音声再生アプリにスピードコントロール機能つきのものがあります。
 
個人的には文字を読まなくてもいいので朗読音声を聞いてほしいです。ただし文字を見ないで英語の音声を聞き取ろうとすると難易度が上がります。だから朗読音声と英文の両方を使うことをおすすめします。
 
「たくさんやさしい英語の本を読む&朗読音声を聴く」という学習は多読多聴と呼ばれます。文字通りたくさん読んでたくさん聴く学習だからです。多読多聴は「正確さ」というよりは「速さ」を伸ばす訓練です。読書も会話も、楽しむためにはある程度の速さが必要です。

最強の英語術:三大領域を伸ばす

基礎・英会話・多読多聴の三大領域を伸ばすことで多くのことが可能になります。すべてを高いレベルでこなせるようになればまさに最強です。

自由な順に必要なところを伸ばすとよい

基礎は語彙、文法、精読、英作文です。中学英語と高校英語の標準的な内容がわかれば十分です。この連載では基礎の詳細は省きます。
 
英会話はまず経験を積んで会話に慣れることが重要です。中級者以上なら対面でもオンラインでも良いので英会話のレッスンを受けるのが手っ取り早いでしょう。留学もおすすめです。初級者は基礎の習得を優先するのが良いと思います。この連載では英会話の詳細は省きます。
 
多読多聴はやさしい英語の本と朗読音声でリーディングとリスニングを同時に伸ばします。基礎や英会話と違って、多読多聴はどんな学習なのかイメージしづらいと思うので詳しく説明します。

多読多聴:「速さ」を伸ばす

多読多聴で目標にしてほしいのは正確さよりも「速さ」を伸ばすことです。英語を扱う速さはWPMで表せます。WPMはWords Per Minute(分速単語数)の略で、英語を理解したり表現したりする際の1分あたりの単語数を示します。
 
例えばネイティブスピーカーの会話速度はおよそ160~200wpmです。これは会話で1分あたり160~200個の単語が話されることを意味します。また、一般的な洋書の朗読音声はおよそ150~160wpmをめやすに作られています。だから150~160wpmの速さを目指せば、英会話にも英語読書にも対応できるでしょう。
 
ここで英語学習者とネイティブスピーカーのWPMを比べてみましょう。次の図を見てください。

実用のめやすは150wpm

日本人学生の平均は大学生でも100wpmです。これはネイティブスピーカー小学3年生の150wpmと比べても低い数値です。学校の英語授業ではあまりWPMを上げる訓練をしないので、当然といえば当然の値です。
 
自分のWPMが150~160wpmに届いていない場合、朗読音声や英会話が速すぎてついていけません。また、低いWPMに合わせて速度を落としすぎると読書も会話も楽しめません。これはスロー再生で映画を見てもおもしろくないのと同じ原理です。楽しむにはある程度のテンポが必要です。

WPM(分速単語数)の高め方

WPMを高めるためにおすすめの方法が多読多聴です。やさしい英語の本と朗読音声を使って「読む」と「聞く」を同時に伸ばします。

本のレベルと朗読音声の速さはおおかた比例

できるだけやさしい英語の本からはじめることがコツです。やさしい英語の本なら速く読むことに集中できて、経験を積めば積むほど読める本のレベルが上がります。私もレベル0の本からはじめて徐々にレベルを上げていきました。
 
同時に、朗読音声を聞けば聞くほどリスニングのレベルも上がります。160wpmのリスニングに対応できればネイティブの会話速度にもついていけます。多読多聴は英語読書にも英会話にも効果的な一石二鳥の学習方法なのです。

朗読音声=英語読書の相棒

しかも好きな時間に好きなペースで取り組めて、費用も本と朗読音声の購入費のみ。レベル調整も柔軟に可能です。

何を読む?

さて、いかに多読多聴が効果的だとしても、本の内容に興味が持てなかったり英語のレベルが合っていなかったりすれば、遅かれ早かれ挫折するでしょう。
 
前提として、やさしい英語の本はたくさんあるので、好きな本を読んでいただければ大丈夫です。しかし、逆に選択肢がありすぎて慣れていない方は本を探し始めてすぐに混乱する可能性が高いです。内容に加えて英語のレベルも考えなくてはなりません。さらに、手に取って確認したい場合は洋書を扱っている大型書店にいかないといけません。(中身の確認なしでよければAmazonなどで購入できます)
 
なんでもそうですが、慣れるまではいろいろ大変です。
 
でも大丈夫、ご安心ください。
 
次回、ハリー・ポッターまでに私が読んだ洋書のリストを紹介いたします。英語レベル0の洋書から英語レベル6の洋書まで、大人が読んで楽しめる本です。

あなたにとってのお気に入りが見つかりますように

この記事を書いた人:こいけかずとし
東京大学仏文科卒。フィロソフィア英語教室代表。東大在学中、ワーキングホリデーでカナダへ渡航。働きながら英語とフランス語を学ぶ。会社勤務を経て2009年にフィロソフィア英語教室を開校。英文法主体の理論学習と多読多聴主体の経験学習を組み合わせ、実践的な英語学習を提供している。
[著書]
マンガこんなに効く!英語多読多聴マニュアル
英文が読めるようになるマンガ英文法教室
短編作品を英語で楽しむ』(以上ベレ出版)


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