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酒場、昼めし、アンティーク

「ベルリン酒場探検隊レポート」

酒場では肴に期待をしてはならないが、中には例外もある。われわれベルリン酒場探検隊は、酒場の昼めしに挑戦した。

レポート提出者:久保田由希


酒場データ

店名:Zum Goldenen Handwerk(ツム・ゴールデネン・ハントヴェルク)
入りにくさ度:★★★☆☆(昼どき基準)
居心地:★★★★☆
タバコ:喫煙可
ビール:Schultheiss(シュルトハイス)、Berliner Kindl(ベルリーナー・キンドル)、Kreuzberger(クロイツベルガー)ほか。すべて0.3L 2.2€

酒場に昼めしが?

ある日フラフラと散歩をしていると、気になる酒場に出くわした。Schultheiss(シュルトハイス)の赤い看板が出ているのは通常通り。しかし、酒場にしては珍しいものが目に入ったのである。

それは外壁のボードに貼られていた、いかにもなドイツ料理の写真だった。

店は向かって左手が酒場、右手がインビス(食堂)に分かれており、それぞれに入り口がある。料理があるのはインビスだけか、それとも酒場でもいけるのか。あいにくどちらも閉まっており、実態はわからない。

写真の上には「昼食メニュー 月曜〜金曜 12〜15時」と書かれている。その部分をスマホに収め、後日松永隊員と出直すことにした。

いざ酒場の昼めしへ

そして後日。改めて酒場の前に立つ。今日われわれベルリン酒場探検隊は、初めて酒場の昼めしなるものに挑戦するのである。

その日の料理は4種類。ソーセージ、じゃがいものパンケーキなど、典型的なドイツ料理なのがいい。1食で5時間は腹が持つだろう。驚いたことに、デザートとしてバニラプリンもあるらしい。洒落ている。

料理の値段はいずれも日本円にして500円程度(1ユーロ=約121円、2019年5月31日現在)だ。カフェでチョロっとしたパスタがビジネスランチと称して1000円程度で売られている昨今のベルリンを鑑みると、なんとも良心的ではないか。もっとも、ビール1杯で済まなければ1000円どころの話ではなくなるかもしれないが。

われわれは熟考の挙げ句、焼きソーセージ(ザウアークラウトとじゃがいも添え)とグラーシュ(シチュー)を注文することにした。

料理は酒場内で食べられるという。インビスの存在はどうなっているのだろうかとそっと扉を開けてみると、そこには誰もいないカウンターだけがひっそりとあった。どうやらその奥が調理場らしい。

まずはビールだ。この店は樽生ビールの品ぞろえが良く、7種類もある。ベルリンでは珍しいBenediktiner Hell(ベネディクティーナー・ヘル)を頼んだ。

ここはミュージアムか

料理が来るまで酒場内をウロウロと見学する。床にあるもの、壁に飾られているもの、どれも年代物ばかりだ。

(まさに骨董品といえよう)

写真の、赤い股引のようなものが挟まっている道具が何かご存じだろうか。洗った洗濯物をロールに挟んで伸ばすのである。昔の洗濯はつくづく重労働だった、さすがにその時代に生きてはいないが。

その左側にある、煙突が付いたものはストーブだ。聞けばまだ現役という。さらにその左に足踏みミシンも見える。これはもうミュージアムだろう。興奮してきた自分(久保田隊員)は店主(?)の男性に許可を得て、存分に撮影させてもらった。

部屋は奥まで続いており、ステージらしきものもある。そして、ジュークボックス。酒場にはつきものだが、今の時代なかなか目にする機会もあるまい。いいねぇ、いいねぇとシャッターを切っていると、「ちゃんと動くよ、ほら」と電気を入れてくれた。

虹色の光がクルクルと動きながら色を変えていく。夜になると人々もクルクルと踊るのだろうか。音楽に合わせてクルクル、クルクル……。
(ただし、このとき店内のBGMはラジオだった)

なんと100年以上の歴史が

われわれがキャッキャとはしゃいでいる間、入れ替わり立ち替わりで男たちが昼めしを食べていく。白いTシャツがはちきれんばかりの、ガタイのいいガテン系だ。近くに工事現場があるからだろうか。

(カウンターもまた風情がある)

カウンターに座っている若い男は襟付きのシャツを着ており、やや繊細そうだ。

「僕は近所に住んでるんだ。ほとんど毎日ここで食べてるよ」(襟付きシャツの男性)
「ここ、ミュージアムみたいですね」(われわれ)

そこへ店主(?)の男性が。
「ここは創業1894年なのさ。自分がここで働くようになって10年だね」

なんと100年以上の歴史があるとは。正真正銘のミュージアムだ。酒が飲めて、食事ができて、ガテン系もやってくるアンティークミュージアム。こんな場所はそうそうないだろう。

ソーセージにしておけ

と、料理ができたようだ。テーブルにソーセージとグラーシュの皿が並んだ。

(待ちに待った、酒場の昼めし)

だいぶ写真と違うね……
どちらからともなく、感想が漏れる。しかし味がよければいいのだ。自分は注文したグラーシュをスプーンですくい、口に運んだ。

いや、悪くはない。悪くはないんだ。ただ幾分しょっぱいだけだ。

この塩気には何かがあれば……と思い巡らしたところに閃いた。そうだ、これにはソフト麺が合うはずだ。学校給食でカレーの日には必ず出たソフト麺。袋を破って出した麺を、器に注がれたカレー汁の中に無理やり詰め込む。麺同士がくっついて袋の形のままひとかたまりになっているものを、カレーをこぼさぬように気をつけながら、スプーン1本でほぐしてカレーと馴染ませるのだ。思い返せば、ずいぶんと無茶な食べ方であった。いまでもソフト麺は存在するのだろうか……おっと、アンティークに囲まれていたせいか、昭和の記憶が蘇ってしまった。こんな話をしても喜ばれはしまい。

ソーセージも味見をしてみる。これはうまい。さすがはドイツ名物だ。

結論:ドイツではソーセージにしておけ




ベルリンのさらなる秘境酒場の開拓と報告のために、ベルリン酒場探検隊への支援を心よりお待ち申し上げる。