デミ

どう思って欲しいかといえば笑って欲しい

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    毎日を拾い上げたい

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    架空の人物の自己紹介

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最近の記事

手紙

先生が満面の笑顔で取り出した手紙は角が折れていた。私は彼女の顔をまじまじと見つめてから、わざと折れた角側から受け取った。 あとで読んで。そう言って彼女はグランビルストリートを南に歩き出す。  私には自信があって、背中を数秒確認したあとすぐに手紙を開いた。 「あなたの意見はいつも優れていたわ。私の授業を受けてくれてありがとう。 マヤ」  便箋のどこから使って書き出せばいいか考える必要のない、汚くて短くて性急な文章。やっぱり最後の授業を欠席して正解だった。彼女にとってこの手紙の主

    • ぃzm

      心が弾ければ、スプライトに。 心にぽっかりと穴が開けば、ドーナツに。 期待に胸が膨らめば、あの夏の入道雲に。 僕たちは容器だ。元は空っぽなんだ。 入れるもの次第で、僕たちはどうにでもなる。 僕がキミのことを好きだと思ってる? キミに感謝していると思ってる? そうだね、まるで、僕を産んだにっくきクソババア。 キミやアイツに感謝する人が、えらい。 まんまと世界は仕上がってる。 アイツは自称の愛で僕を終わらせて、 キミは豊かさでこの世界を終わらせようとしているのに。 僕たちはどう

      • Sakura

        あなたの代わりに、私が泣くね。 こんな風に、あなたはきっとなれないから。 私が泣いても、みんなは綺麗だって言ってくれる。 来年も必ず咲く。 1年ずっと、私はこのときのため。 ゆっくり歩いて。ここはあなたの涙痕。 踏み締める悔しさも憎しみも、ぜんぶ私が思う色にしてある。 この匂いは忘れないで。毅然とするために。 靴の裏に滲む私、頭の上に乗るしなやかな私。 ひとつ私を手掴んで、その裏側を見てみてよ。 何が映ってる? もう少しここにいて、涙の言い訳を聞いてあげて。 打ち解けて。 あ

        • Shadows

          彼女は街灯の下で追いかけっこをしている。一番長い影を探しながら思い出す、たくさんのあの時のこと。それはやがてダンスに変わる。満足は、オレンジ色のミラーボールが照らしてくれる。やりきれなさは、これからの約束にする。ひとりでもひとりじゃないって、とっくに知っているから彼女は笑う。夜風がダンスを続ける彼女の手を取って、道の真ん中へ連れて行く。角を曲がる車のライトに一瞬照らされ、彼女と影は向かい合わせ。これで何度目?応えない影の代わりに、近くの家の電気がついた。どんな私が、君は一番見

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        記事

          Doughnuts hole

          Doughnuts hole She is laughing through the hole. Well, good narrow sight. Her eyes are the blueprint. I can gaze at you with joking thanks to the lack of the middle. I got hesitate to eat this because I won't be able to look at her. Only

          Doughnuts hole

          my room

          My room has the same yellow guitar as an artist I look up to, a novel on writing way, a 10-year-old soccer ball, many practical books about accounting, programming, cooking and on diet, an MPC I bought at a yard sale, a K-POP dance lesson D

          Ura!

          A girl who lives here was very nervous. She had to show a presentation in front of classmates today. Before the presentation, she sighed. Her sigh made cold wind, and this wind reached so far away. Then, the blast turned into a warm breez

          世界のどっかで勝手に幸あれ

          ──今年はどんな年だった?  次々と光に沈んでいく水鳥たちに、細めた目が奪われる。カモの群れは列をなして夕陽の前を横切って、白鳥は浅瀬に浮かぶ岩の上で優雅に羽を震わせている。この光景をどうにかして明日にも残せないかと思案して、明日またここにくればじゃないかと自嘲する。それでもやっぱり、この光は今日だけのものな気がして、携帯のシャッターを切るけれど、スクリーンにはこの目で残したいと思ったもの以外が写っていて、大事な何かはぽっかりと抜け落ちていた。 「こうなったか」  この光は、

          世界のどっかで勝手に幸あれ

          もぬけ

           散乱したキッチンで、マリアンはひとつため息をついた。会話を邪魔しない程度に鳴っていたクリスマスナンバーが虚しく響き、空いたビール瓶、飲みかけのワイングラス、油まみれの平皿と、保存するには少ない量のラザニアがまだ香りだけを残し、部屋を満たしていて、今日のディナーのために用意したターキーは脂身の少ないテンダーロインの部分だけがしっかり残っている。  これをすべてひとりで片付けるには、骨が折れる。今更彼女は、妹夫婦と両親、そして祖父と祖母の旅行についていかなかったことを後悔した。

          真夏

           実はとてもシンプルで、八月の猛暑日に生まれたからその名前にしたんだ。ママは死ぬほど汗をかいていて、からだが溶けていくようだった。それこそ君が生まれた瞬間、ママのからだは小さくなったよ。  パパがこめかみをかきながらそう笑いかけてきたとき、私はもっていたノートとペンをパパにぶつけたくなった。まさか本当にそんな短絡的につけられた名前だったなんて。いくら八月生まれの「真夏」だとしても、彼らなりの奥行きのあるエピソードがあると心のどこかでは期待していた。  それじゃ、六月の梅雨の時

          Q.E.D.

           思い出せることはいくつもある。感情のままに書き連ねることだってできる。けど、僕はしない。なぜなら、いわゆるそういう本能的な行動が君にとっては獣に見えるってことを知っているから。君はもっと論理的に──例えば数学の証明問題に取り組むみたいに──君の価値を言葉にして欲しいと思っているはずだ。たとえ君の頭が良くなくても、君はそうして欲しいと心底では思っている。それは僕も同じで、だってそうじゃなかったら、人間の本能が、獣の部分が、すべて正しくて何にも勝てないって思ってしまうだろ?  

          無血戦争

           いよいよ、戦争が始まる。僕はソファに背もたれながら、テレビのチャンネルを国営放送に切り替える。ライブ中継先である自国の西端、ポンパドゥ島は暗く、人の気配はない。音声はまだこちらに届いていないようだ。  期待と興奮を削がれた脱力感に、僕は見舞われる。視線をテレビから、スマホに写し、オンライン仮想空間【AndU】を覗くと、世界トレンドに勝者予想のハッシュタグが昇っている。大方の予想では、どうやら国土が広く、高い技術を誇る相手国が勝つと思われているようで、それは自国の国民ですらそ

          無血戦争

          ダイソンの扇風機

           きみの顔があると、私の視線は意識よりも深い場所から出たサインによって一瞬で定まった。いつぶりかわからないきみの顔は、そこにある画像がすべてを語っているはずなのにだんだんと自分の脳内で再構築されていく。わずかな時間で、その画像は画面から消えた。私の指は、それからしばらく動かなくなった。  それが、うずくからだを抑えているのだ、とわかったのはまばたきをしたからだった。少しでも動いたらめちゃくちゃになってしまいそうで、衝動を抑えている中では、まばたきが行動の最大限だった。  羊が

          ダイソンの扇風機

          オール電化

          「えー前線。スリートップは左から小島、山田、野島でいく。小島と野島はどんどん裏に抜けろ。山田はくさびになって、左右に散らしてゴール前で待て」  スタメンを発表する監督は真面目な顔を崩さない。マネージャーである高崎さんの顔も笑っていない。ベンチメンバーたちの顔も強張っている。それどころではないのだ。全国が掛かっている。 「よし、絶対勝つぞ。勝って、歴史を塗り替える。全国へ行こう!」  声高らかにキャプテンが円陣を組み始める。チームが文字通り一丸となるはずのその熱気と緊張に、ベン

          オール電化

          おソロいのふたり

           隣に座ったのは、女性ひとりだった。  すぐに彼女はランチの食べ放題メニューを選び、烏龍茶を頼んだ。私はちらりと横目で気にしながら、口にカルビを運ぶ。テーブルにはすでに平らげられたタンの空皿と、さらに大して分量が多くないホルモンとハラミ、それにサンチュとナムル、食べかけのチョレギサラダとカルピスが並べられていて、丸い皿と四角いテーブルが合わさったこれは何かの数学の問題みたいだと思った。  焦げた匂いがした。早くもカルビ二枚がダンゴムシのように丸まっている。ひっくり返すと黒く焦

          おソロいのふたり

          自分らしさは更新できる

           サヤカはいつも遅れてやってくる。都心から少し離れた駅前は家路を急ぐ人たちの雑踏で混み合っている。サヤカが遅れてくるのはみんな知っているので集合時間には来ない。みんな集合時間より遅くて、サヤカよりも早い。店は予約してあるけど、みんなには嘘の時間を伝えている。これも、サヤカ対策。だいたい遅くても20分以内にはやってくる。慣れたものだ。 「ごめんごめん」 と、サヤカがやってきて「おせえよ」なんて言ってるミカコも遅刻はしている。定刻通りにやってきた人間はいない。真っ先についた私でさ

          自分らしさは更新できる