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健吾の目がそっちに動いた。まさか……。――「天使は奇跡を希う」037

「さあ……」

 成美も思案顔になる。

 ぼくと成美にだけ天使の羽が見えている理由は、どこにあるんだろう。

「おー!」

 ふいの声に振り向くと、目の前の道路で健吾が自転車のブレーキをかけたところだった。

 自転車を降りてこっちに来る。

 星月さんの存在をちらりと気にした。

「部活は?」

 ぼくが聞くと、

「監督に休めって言われた」

「どうした」

「や、単純に疲れが溜まってんだよ。根詰めすぎた」

 答えながら、また星月さんを気にする。ああ、初対面だったな。

「同じクラスの星月さん」

「お、おう……」

 なんだろう。妙に緊張している。こいつらしくなかった。

「初めまして、越智(おち)健吾です」

「星月優花(ゆうか)です。ユーカって呼んでください!」

 笑顔の勢いに合わせて、翼がふわっと弾む。

 同時に、健吾の目がそっちに動いた。

 ――ん?

 それを捉えて、ぼくは健吾に注目する。

 と、健吾はぼくと成美を交互に見ながら、

「な、なに? なんでもないけど?」

 イケメンのスポーツマンな上に家が金持ちであるこいつにも、いくつか残念な点がある。

 そのひとつが、ものすごく噓が下手、ということだ。

 もちろんそれは成美も知っている。

 ぼくと同じ可能性を考えていることが空気で伝わった。

 ぼくは星月さんにそっと耳打ちする。

「羽、おもいっきり動かしてみて」

「?」

 となりつつも、彼女は異様な素直さで、

 バサッ!

 大きく翼をはためかせた。

 健吾の目が瞬時に動き、それを追った。

 もしかしたら、野球をやってるせいかもしれない。

 ぼくと成美はアイコンタクトで認識を共有する。

「お、俺、ファミチキでも食べよっかな。ファミチキっとこっかな」

 健吾は首筋をかきつつ、露骨に挙動不審になっていた。


 まさか―――お前もなのか?


七月隆文・著/前康輔・写真 

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天使は奇跡を希う 七月隆文

100万部突破の大人気作『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の七月隆文、最新作。note×「別冊文藝春秋」同時連載
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